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第三の魔王!!

「エクセルお前…………!!」




 シスクレ姫、いやシスクレ女王の首を一撃で斬り落としたエクセルは、嬉しそうに笑っていた。


「相当につらかっただろ?」

「それは、そうだが……」

「だから、もういい。休め。俺が全部やる」



 赤い血を自ら出した水の中に含ませていく存在を足蹴にし、エクセルは向き直った。




「おのれ!姫様に何たる真似を!」

「姫様の仇を討て!」


 当然の如く、主君を失った北ロッド国の軍勢が迫って来る。



 シンミ王国軍も突然の出来事に全く動けない中、最大の敵軍に背中をさらして攻撃をかける。


「姫様の仇!」


 北ロッド国の精鋭のみならず、どこに潜んでいたのかわからないようなメイドや農民のような一般人まで、エクセルの首を求めて突っ込んで来た。



「この数は……!」


 魔法ではなく、単に東側に潜んでいただけとしか思えない大群。剣や槍ではなく、木の棒を持った人間までいる。文字通り、北ロッド国の王都のすべての国民が、北ロッド国の姫であり君主である存在を殺したエクセルを単純に狙っている。

(はたから見ればどんなに愚かな君主でも、この北ロッド国民からしてみれば立派な国王様かよ……)

 俺たちは景気が悪かったり災害の打撃が大きかったりすると政府を責めるが、民主主義ってのは俺たちが政府の人間を選べる仕組みであり、そんなのを選んだ奴が悪いと言うブーメラン理論が成り立ってしまう政治制度でもある。悪い方向に進んだ時はそれこそ連帯責任であり、感情のぶつけどころがないと言う意味でもある。


 そしてそれは…………とか考えていた所で、何百本もの刀剣が宙を舞った。




「どこだ、どこだ、どこだ…………!」



 それ以上の単語を口にできないまま、次々と人が倒れて行く。




 これまでと桁の違う速さの攻撃。




 軍人も市民も、北ロッド国軍もシンミ王国軍も、俺たち異世界人も現世界人も、エクセルの存在を認識できない。


「そんな、バカな、バカな……!」


 オモメの首もいつの間にか落ち、ただ血を吹き出すだけの存在に成り下がった胴体が無惨に転がっていた。当然の反応をした兵士もまた、次の瞬間には首と胴が永遠の別れを告げていた。




「お前、やりすぎだろ!」

「敵を斬って何が悪い」

「どうして降伏させようとか思わなかったんだよ!」

 そして、北ロッド国と言うから君主も兵士もいなくなったのを確認したエクセルが無表情で血をぬぐって剣をしまうもんだから俺は青筋を立てて迫ったが、反応は全く小さいもんだった。

「降伏するように見えたか?」

「見えねえよ!でもこんなやり方で誰が心底から従うと思っている!だいたい何だその顔は!」

「あーあ…………」


 俺がいくら迫ってもエクセルは表情を変えようとせず、逆にため息を吐かれた。


「エクセル、私が見たあなたは、そんな人間ではなかったはずであります!」

「アカイ……何を言っている?俺は元から兵士だぞ?」

「礼儀を欠かさず、相手に敬意を持ち、むやみに殺生をせず、時には笑顔と愛嬌を振りまく!そのような立派な人物だったはずなのに!」


 赤井と市村が訴えかけるが、エクセルの顔は変わらない。


 セブンスも目を白黒させ、たった一人により出来上がった屍山血河から後ずさる。



「まったく…………」

「何がまったくだよ!」

「どうしてお前はそんなに強いんだ、ウエダユーイチ、いや上田、裕一。なぜ、苦しいとか、悲しいとか、大変だとか思わないんだよ……」


 その間にもエクセルは無表情と言うか鉄面皮のまま、俺に迫って来る。

 って言うか、何を言いたいのかわからない。


「そりゃいろいろ思ったよ、俺なんかが戦えるのかって、それでも俺はみんなのおかげで……」

「みんなのおかげ……へぇ…………それは誰の事?」

「セブンス、赤井、市村、大川、オユキ、トロベ、倫子……」




 実際、この七人と一緒に冒険して来て幾度救われたかわかりゃしない。




 赤井の魔法と冷静な作戦、市村の男前っぷりとパラディンの剣、大川の姉御肌ぶりと柔道部のエースたる力、オユキの氷魔法と明るさ、トロベの槍術と真面目な姿勢、倫子の爪牙と健気な思い。




 そして、セブンスの魔法と一途さ。




 その全てが、ぼっちだった俺に力を与えていた。


「他にもたくさんの親切な人と出会って来た。その度に俺は強くなっていたつもりだ」

「そう……そうか……これが、ラストチャンスだったのにね……」




 エクセルの言葉が、おかしい?




 いや、言葉の飛んでくる方向がおかしい……!




「上空から来ています!」




 上空から言葉が降って来る。


 ガーゴイル?ドラゴンナイト?まさかミタガワエリカが復活したのか?

 いや、そんなはずはない。




 では一体誰が……!







「右も左もわからない世界で、さぞ心細くつらい日々を送っていたのでしょう?その時、本来ならば浮かぶべき名前があったはず……」

「ってまさかこの声は!」

「平林さん……なんであなたがいの一番に気づくかなあ!」


 俺が声の正体に戸惑っていると狼耳を動かした倫子が派手に尻尾を立て、その反応に対して空から苛立ちばかりが強調された声が返って来た。


「お前は誰なんだよ!」

「ああもう!どうしてそうなるのよ!!私は、第三の魔王、いや第二の魔王の作り手…………」

「第二の魔王!?ミタガワエリカはお前が作ったのか!?」




 ミタガワエリカを魔王にまで仕立て上げた存在、傀儡政権の裏側に潜む真の黒幕。


一体それが何者なのか、俺がちんぷんかんぷんの状態で怒鳴り返すと、血まみれの大通りの向こうの城に、ひとつの流れ星が落ちた。







 ——————いや、人間が、降りて来た!







「おい、お前まさか!」







「そうよ、さあ、ウエダユーイチ、いや、裕一……!わかるわよね?私の事?」







 黒髪を流し、青いワンピースを身にまとった、十年以上の顔見知り。




 この世界でも、幾度となく俺を助けてくれた、一人の少女。







 そう、河野速美だった!!

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