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北ロッド国王宮

「真面目に相手をしろ!」

「する訳ねえだろ……」


 俺が右頬を一発引っぱたいてやると、遠藤はますます隙だらけの動作で両手のハンマーを振り回した。もちろん当たる事はなく、その間にビンタは往復ビンタになり、顔はますます赤くなって行く。


「今のお前にはそんな物騒なもんを持つ価値はねえの。とっととよこせ」

「何だよこのぼっち陰キャ搾取野郎……」

 話にならない。何が搾取だよ。

「搾取って言葉はサンドバッグを作る免罪符じゃねえんだよ。んなやり方じゃ次から次へと搾取者のレッテルを貼り付けては食い尽くすバケモノになっちまうぞ、ミタガワエリカみたいになりたいのか」

「三田川は今」

「ミワキ市の地下牢にいるよ、もう何にもできねえけど。噂によれば赤ちゃん返りしてるらしいぞ。お前もそうなりたいのか?」

「てめえ……!」

 

 遠藤のハンマーの振り回し方と来たら、まるで子供のケンカだ。技も心もない、ただの殴り合い。戦争なんて元からただの殴り合いだと言えばそれまでだが、いい加減見苦しい。

「鎮まれ」

 俺がこれまでの倍の力で顔を押してやると、鎧込みで70キロは下らねえはずの遠藤が簡単に吹っ飛んだ。ハンマーは両手からすっぽ抜け、赤土の地面に埋まった。


「わかったらおとなしく寝てろ。あとでムーシ王子や市村に言って助命嘆願してやるから」

 俺が仰向けになって倒れこんだエンドーをよけて進もうとすると、視界に別の銀色が入って来た。


「上田ぁ……」

「お前かよ剣崎……」


 やけに馬鹿でかい剣を持っている剣崎が、遠藤そっくりの顔をして立っている。

「お前って前からさ、同じ体育会系のくせに生意気で気に入らなかったんだよ」

「で?」

「今日という今日はさ、目に物を見せてやらねえといけねえと思ってさ……こうしてビシッとやってやろうと」

「で?」

 俺がさっきの遠藤と同じようにほぼ無言で歩み寄って行く中、剣崎、いやケンザキジュイチは剣をコマのように回転しながら振り回した。

 後ろでは遠藤が手を伸ばし俺の足首を掴もうとしている。

 実に純粋に、俺を殺そうとしている。



 ——————結果は、何も変わらなかったのだが。

「一撃でうずくまるなよ……」

 確かにボディブローは反則かもしれないよ。でもさ、あれほどまでに派手に振っていた剣は俺に向かうやまるで四角を描くかのように派手に避けてしまっているのが少しでも見えていたら、少なくとも逃げるぐらいのことはするはずだ。

 遠藤も遠藤で、寝そべったまんま伸ばしまくった手が空振りを続け、ようやく立ち上がった時にはとっくに俺に置いて行かれている。


「おい、返せ…………」

「お前らには過ぎたオモチャだって言ってるだろ」

 俺が剣崎の剣を持って立ち去っていると、みっともない声が耳に侵入して来る。

「その力を何に使おうとしてるかそこで考えろ、そもそも俺らの最終目的を何だと思ってるんだよ」

「さいしゅうもくてきぃ?」

「横浜に帰るんだよ、横浜に」

「…」

 で、これだ。

 ぼっちってのがいかに気楽か、俺は認識していなかった。お友達がいればいるだけ、その相手に気を使わなければいけなくなる。こんなのがクラスメイトとかいう名の仲間かと思うと、正直腹立たしい。

「るせえよバカ」

 懲りずに走りこんで来た遠藤に振り返ってローキックをかまし、遠藤の左手から離れたハンマーに剣崎の剣を叩き付けてやった。当然の如く剣は折れ、破片が宙を舞う。残った部分は地面に深く埋まっているもう一本のハンマーの方に向けて投げ付けてやった。

「お前…………!」

「わかったらどこへでも行け。俺が校長だったらお前らは退学かよくても留年だよ」

 チート異能に踊らされるのはわかるが、もう高校一年生相応のモラルもない。九年間の義務教育を踏みにじるかのような野蛮な戦いぶりに、俺だってもうとっくに愛想が尽きている。

「もういっぺん言うよ、お前らはもうただの」


 ……と、そこまで言った所で、二人の姿が消えた。まるで彼らだけは殺させないと言う何らかの意思——————って言うかご都合主義——————により、またあの二人は生き延びた。



「まったく、無駄に時間を使っちまったよ!」


 俺がハンマーを置き捨てて北ロッド国本城に走って行くと、戦いはまだ始まっていなかった。

実はあの戦いは、二分ほどもかかっていなかったのだ。



「あの二人はまた消えたの?」

「ああ……」

「倒しても倒しても蘇って来るザコキャラのようね」

「ウエダ殿相手とは言え………………」


 トロベはおろか大川ですら呆れてしまうほどの戦いの顛末に、シンミ王国軍の士気は低下していた。

 仮にも軍事強国であったはずの北ロッド国の、最後の精鋭だったはずの団長と姫、そして傭兵二人がこうもあっけなくやられるとは。

(長年戦って来たはずの存在が、ここまで空洞化してたなんてショックだよな……)

 トロベや大川はまだ呆れで済んだが、シンミ王国の人たちにはカルチャーショックだっただろう。もしここにピコ団長さんやタユナ副団長さんがいたら、泣き笑いしていたかもしれない。


「とにかくだ、すぐさま攻撃をかける。北ロッド国との長きにわたる戦いをこれで終わりにするんだ」


 田口の気合の入っていない声と共に、城門に向けて前進を続ける。

 首都という訳でそれなりに攻撃は来るだろうと思い先頭に立ってやろうとしたが、いつのまにかエクセルに右腕を掴まれていた。

「お互い傭兵みたいなもんだから、もうこれ以上余計な事はせず本隊に」

「俺は総大将同然だぞ」

「いやでもこれ以上危ない真似は」

「さらなる強敵が出ないなど誰が決めた?その時は俺が出なきゃならない。そのためにも前線にいなければいけないんだ」

 この軍勢の総大将はムーシ田口だが、そのムーシ以下シンミ王国軍と言うかあの執政官様が俺を受け入れている以上俺は引っ込んでいる訳にはいかない。

「……どうしてもダメなのか?」

「ああ……」

 エクセルは深くため息を吐いて俺の手を放し、体の力が抜けきったかのようにうずくまってしまった。


「エクセルお前……」

「市村……いや、何でもない……あーあ……」


 全力で俺の出撃を阻止しようとして失敗、力尽きたような顔をしているエクセルの存在が市村を含む数名の足を止め、またさらに士気を落とした。


「って言うかお前急にどうした?なんか地面を指でなぞって」

「いや、あくまでもこの戦いはシンミ王国の戦いなんだからさ、あまり出しゃばるのは……」

「あんなに派手に北ロッド国軍を吹っ飛ばしておいて」

「あれはあくまでも露払いだ。本隊まで倒すような図々しい真似を……」


 分をわきまえすぎている物言いが耳をかすり、うっとおしさを増していく。全てを先回りしたかのような、暖かいと言うより暑苦しい感情。

 これまでのエクセルとはとても同一人物のそれとは思えない面倒くさい振る舞いが、俺以外にも悪影響を及ぼしている気がしてきた。




 ——————そして。




「北ロッド国の城門が開きました!」

「来たか!全軍迎撃!」


 いきなり城門が開き、北ロッド国軍が向かってくるとばかりに全員身構えた。

 だが北ロッド国軍は出て来ず、それどころか矢とか魔法さえもない。

 罠かとばかりにゆっくりと進むが、それでも何の攻撃もない。


(なんだ一体……)


 あまりにもおかしい。俺が先頭に立って警戒すべきだと思った所で先鋒が城門の所までたどり着いたが、やっぱり何の攻撃もない、


「まさか逃げたとか」

「女神の砦へ?」

「とは言え女神の砦に生産力はなく、籠城してもすぐ」

 まさかまた焼く気じゃねえだろうなとか思って目を据わらせようとすると、ようやく音が聞こえて来た。


 剣でも弓でも魔法でもなく、歓声が。


 それも、かなり遠くから。


「なんだなんだ!」

「この歓声の出どころは……!」

「本城のようです!」


 本城だった。


 ようやく出撃の準備が整ったのかと改めて身構えるが、いくら前進を続け、城門をくぐっても反撃が来ない。

 家屋を見ながらいつ攻撃が来るかと赤光りする体を前に進めていたが、それでもまるで無人の野を行くような状態が続いた。雰囲気ばかり物々しくて、まるでドラマのセットみたいだ。



「おいこれはいったい……」

「内乱が発生したようであります」

 城下町にも兵士すら潜んでいない中、赤井はいきなりとんでもない言葉を突っ込んで来た。

「この状況で内乱を起こしてどうする!決戦か降伏かか?」

「おそらくは」

「確かにそれはそうだが、だとしてもあまりにも……」

 内乱と言うかクーデターにより政権を奪い、その上で何をする気か。



「来ました!」

「やっとか!」



 ……とか考えていると、ついに敵が来た。本城への道路を百名ほどの兵が向かってくる。総大将があのオモメ、隣には姫もどきことシスクレ。

 みな顔も目も鎧も赤く染まり、死に場所を探している感が満々である、


「最後の決戦だ!」

「もうこれ以上の戦いに意味はねえよ!」

「うるさい!」

「父親はどうした!」

「殺されたよ!軟弱な連中にな!」

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