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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第二章 冒険者デビューしてみた
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ミーサンカジノにて

「チッ、またやられたのかい!?」

「へぇ……」



 ナナナカジノの向かいに建つ、相手に負けじとばかりに道を照らしまくっているミーサンカジノ。

 その奥の部屋で照明のための魔力を蓄えるべく昼間から横になっている主の女が舌打ちをするだけで、そこにいた五人の男たちの背筋が伸びた。



「どいつもこいつもさ、最近はびこって来たあの連中に敵わないのかい!」

「申し訳ございませんが、あの連中は全部かなりの強者でして……」

「隙の一つや二つあるだろ!その頭は何のためにあるんだい!」



 ミーサンが寝ながら軽く手を振ると共に目の前でひざまずいていた男がもだえ出し、他の男たちがクモの子を散らすように後ずさり、今度は大きなため息が部屋を覆った。



「私はね、ガツガツしない男は大嫌いなの!チマチマと銅貨十枚を追いかけるような奴が大商人気取りなんて、本当へどが出るわ!」

「それはごもっともでございます……!」

「あんなのに仕切られてたらこの大陸はいつまで経っても発展しないんだから。どいつもこいつも甘ったるいのよね」

「そうですよ、あの狸親父のせいで親父は店をやめさせられ、俺を養えなくなっちまってこのザマです……!」



 ハンドレと言うペルエ市やシンミ王国一帯の三分の二近くの商家を抑えている存在を、悪く言う者は少ない。信用第一と言わんばかりに暴利をむさぼる事はせず、あくまでも篤実な商売を執り行う。

 カジノはさすがに遊興と言う名の商品を提供しているため利益が出るようには作ってあるが、それでもその気になれば銅貨十枚でも遊べるようになっていた。銅貨十枚など、子どもの小遣いそのものだった。


 しかしそれは、皆無と言う意味ではない。単純に商売で敗れたり、悪徳商法により自滅の形で滅んだりした商家の中にはハンドレを恨む者もいた。そのような人間や、単純にあぶれ者たちが集まったのがペルエ市付近に潜む山賊の実態だった。



「とは言えね、三人で二十人単位の山賊をぶっ倒したんだろ、あのパラディンと聖職者様はさ」

「ええ、それから一緒にくっついてた新米だって男もなかなかの手練れです」

「それにあの女か……あの女はどうにかならないのかい?」

「ナナナカジノに行った際に俺らを投げ飛ばして来てますから正直難しいかと」

「まあね、あいつが口説いてくれるさ、いい男なんだろ?」


 自分の思う通りに口説き落としてくれる、それこそ女冥利だと言わんばかりに色っぽい声がこぼれ、場の空気を和らげる。


「でもぱっと見はただの小僧ですけどね、やっぱり黒髪ってのは特別な力があるもんなんでしょうかね」

「ぱっと見に騙されるんじゃないよ、わかってるだろ?」

「よくわかっております、ええわかっておりますとも!ったく話を聞かされた時はマジで腰が抜けそうになりましたよ……やっぱ黒髪はものすげえですね」

「まあそうだね、どうしてあの男はそれを警備兵にしか使わないのかね!」


 黒髪を《《使う》》。どうしてそんな当たり前の発想にたどり着けないのか、そしてどうしてそんな連中に後れを取って来たのか。ミーサンはいちいち腹が立った。


「ったくさ、私のここまでの人生がそうだったように、人生は戦いであり奪い合いなんだよ。あの連中の甘ったるさと来たら、魔物すらまともに斬れないんだろ?」

「コボルド狩りを見る限りそんな感じでしたね、剣さえ取ればいいって感じで」

「しかもさ、酒は飲まないし恋愛にも手を出す気がない。ったく何のために生きてるんだろうかね」

「さすがですね、ミーサン様は!まあお子ちゃまには思い付きませんでしょうね」


 先ほど雷魔法を使った手で自分の頭を叩き、無目的に生活を送っている輩の事を真剣に憂えてやるぐらいには、ミーサンも殊勝なつもりだった。




「しかし、女にも酒にも転ばない奴は面倒ですぜ」

「大丈夫だよ、とっくにそういう奴の弱点もわかってるしね……」



 ミーサンは体を起こし、一人の少女を呼び付けた。



 お菓子でもねだるのが似合いな年齢に見えるその少女の顔が、もしかしたら凶悪そうに見えるのは決して気のせいではない。


 こんな後ろ暗い場にはとても似合わないような清楚な、しかし安物のドレスを着ながらくるりと背中を見せるそのリズムは確かにいたいけそうに見える。


 だがその上で目が笑っていないのをごまかすかのように大口を開け、これでもかとばかりに無力さをアピールせんとしている。



「グベキ、あの狸親父によって殺された親父さんの供養はできそうかい?」

「それはもちろん、お姉さんが付いてるから」

「口の利き方がちゃんとしてるんだから、いい子ね……」


 あからさまなウソ泣きをしながら上目づかいに自分の胸を眺め、今すぐ抱かれたそうにしている。未婚のミーサンでさえ母性本能をくすぐるようなやり方であり、それこそついうっかりほだされそうになる。


「山賊だって女はいるし、所帯だって持つ。それだけの事なのにね……」

「ミーサン様、このグベキって娘、マジで恐ろしいですな……」

「おじさんに言われたくないよ」


 実際この目線で、このひと月で数人の人間を口説き落としている。ロリコンとか言う概念も単語も存在しない世界で、彼女を本気で娶りたいと考えるような人間を産む程度にはグベキは罪な女だった。



(しかしこんな孤児がやって来るとはね……我ながら天祐って奴だねこいつは!)



 雷魔法使い及び行商人として金を稼ぎ、ハンドレの甘さを見越してミーサンカジノを興してから五年。幾度となくハンドレの甘さを突いて攻めて来たつもりだったが、それでもまだ大きな打撃を与えられていない。



「あのキムラって女も抱き込みたかったですけどねえ」

「あれは魔力だよ、だいたいその魔力をまともに使えば少しはもうけられたろうに……」


 木村迎子と同じ類の魔力、奇術用の魔力の持ち主をディーラーとして雇い、幾度となく行使させて来た。それにより多くの人間から金をむしり取って来た。


(私はもっとたくさん儲ける。そのために純粋な坊や、その力ちゃーんと使ってあげるから、フフフ……)



 その「坊や」の顔を思い浮かべながら、ミーサンは本格的に目を閉じた。

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