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女たちの戦い

「まったくもう、危ないんだよお前は!」

「危ないだなんて、俺はずっとこれでやって来たんだ!」

「どうしてそんなに無茶をするんだよ!」

「って言うか何なんだその腕は、っておいどうして!」


 いきなり戦闘能力持つ存在が二百対二になったこの環境で、エクセルは俺の事を後ろに押そうとしてくる。


 害意がないせいか避けられず、気が付くとエクセルの魔法のせいで最後方にまでやられていた。


「ちょっとエクセル」

「いやでも、お前にあんな危ない事されると正直」

「エクセル、作戦を何故乱したの」

「すみませんタグチ王子、彼一人に頼っているのはどうしても不安定で」

「言いたい事はわかるけど事前に相談が欲しかったよ、君の事は上田だって高く評価してるんだから!」


 エクセルとはミルミル村に来てから何度も戦って来たが、正直本気で勝てたと思ったことは一度もない。まあ最初から今までずーっとと言えばそれまでだが、すべてがぼっチート異能頼りで本当に勝ったと思える戦いは一度だってない。

 だからその強さはよくわかっているが、だとしてもあそこまでとは思わなかったしここまで心配される理由もないつもりだった。

「でも、私は……ハァ……ハァ」

 って言うかエクセルが顔面蒼白になってる。ついでに呼吸も荒い。


「もういいよ、お前が休め、俺があの二人の」

「わーっ!」

「何がわーっだよ」

「いや、何でも、ハァ……」


 で、俺が出て行こうとすると止めに来る。

 あまりにも必死で、余裕がなく、そして顔が蒼白を通り越してシースルーになっている。




「もう勝った気になっているの!」



 当然の如く、こんな茶番劇にはツッコミが入る。

 頭を冷やせと言わんばかりに大きな水の弾丸がシンミ王国軍に飛ぶ。


「もう、どうしてエクセルって!」


 オユキが氷の壁で受け止めてくれたから大事なかったが、余計な時間を使ってしまったと言う気分にしかなって来ない。


「まったく、オモメ!二ヶ月の間修練を毎日十二時間続けた成果を見せなさい!」

「はい姫様!」



 そしてオモメとか言う名前をした騎士が突っ込んで来る。


「ああおい!」

 俺が真正面から受け止めてやろうとすると、体が動かない。


 エクセルがとんでもない力で肩を引っ張っているのだ。

「どうしてだよ!」

「いや、でも……!」

「否も応もないだろ!この戦場に!」


 泣いていた。エクセルが、泣いていた。


「ちょっとエクセル!」

「なぜだ、なぜ体が勝手に、グフッ……」

 エクセルが五体満足なはずの俺を何故必死こいて引き止めるのかと思っていると、急に力がなくなった。

 体が崩れ落ち、口からよだれが流れ涙と共に池を作っている。



「戦場で何をふざけている!」

「ええい!」


 もう構ってられるかとばかりに俺は剣を抜きオモメに立ち向かうが、その前に金属音が鳴った。


「私が相手だ!」



 トロベだ。

 トロベの槍がもたついていた俺に代わって攻撃を受け止め、さらに他の兵士たちも斬りかかっている。

「トロベ!」

「たまにはいい格好をさせてくれ!」

 トロベの槍が唸り、攻撃を弾き返す。負けじとシンミ王国正規軍の攻撃が続きオモメに襲い掛かる。



「騎士団長!」

「やらせないよ!」

 そしてシスクレの支援攻撃をオユキが氷の壁で薙ぎ払う。


 セブンスはいつのまにかオユキを三人に増やし、防御だけでなく反撃に転じさせている。

 吹雪と水の弾が飛び交い、荒野の湿度が一気に上がって行く。



「私は!」

「私は何だよ!」

「私たちこそ、この世界を!魔王を!」

「魔王を倒すんなら共に手を取れ!」


 その間にも姫もどきは叫びながら杖を振り、次々と水魔法を放つ。

 吹雪と水の向こうから聞こえて来たわけでもねえだろうが、本当に寒々しい。


(魔王って何なんだよ……)


 魔王を倒してこの世界を守る?なわきゃねえよな、じゃどうして魔王軍の側近だったアトを迎え入れたんだ?いや迎え入れるのはわかるが、なぜそれを魔王軍じゃなくシンミ王国に向けた?


「魔王軍ってのが脅威なら、別にロッド国がやんなくてもいいだろ、他にも魔王と戦える国はあるはずだろ」

「ああもう、どうしてそうなるのよ!」


 ——————どうしてそうなるはこっちのセリフだ。

 今更理性的な答えなんぞ求めても無駄だとわかってるけど、それでも最後の最後まで俺はあがきたいよ。



「赤井……市村……」

「俺もそう思うよ、でもな、田口の言った通りだ」

「もう白黒付けるまで引き下がれないのでありますな……」


 男たちは自分なりに勇敢なつもりだった。

 なんとかして戦争をやめさせ、犠牲を最低限に抑え、第三の魔王を倒したい。

 でも幾度挑戦しても踏みにじられ、その度に失望し、幾度でも立ち上がって行ったつもりだった。

 その失敗の連続に心が折れそうになる。エクセルは剣を抜こうとした俺を必死に止めていたが、心が体に追い付かなくなったのか過呼吸で地にへばりついている。


 やはり、女の方が強いのかもしれない。

 トロベが素早く槍を振り、オユキがシスクレの攻撃を受け止め、セブンスが分身魔法でオユキを増やす。


 実に見事だ。




「このてい、どっ!」


 そして、トロベを含む何十人からの攻撃を受けていたオモメの首筋に五本の線が走り、血が流れ出した。

「ああもう一気に追い打ちで固めてしまいたかったがダメか!」

 大川もオモメが体勢を崩した隙に抑え込もうとしたが、これは間一髪間に合わず後ろ飛びされてしまった。




 しかし、騎士団長か。


 ピコ団長さんのような品格なんかまるでねえ、強いのかもしれないけどただそんだけの存在。

 鎧で氷の壁を突き破り、水を赤くして逃げ切る程度には強いけれど、それ以上の意味があるのかないのかわからない存在。




 ※※※※※※※※※

 オモメ

 職業:騎士

 HP:1000/3000

 MP:0

 物理攻撃力:350

 物理防御力:500

 魔法防御力:500

 素早さ:300

 使用可能魔法属性:なし

 ※※※※※※※※※




 倫子が見せてくれたステータスも、「ただ強いだけ」でしかない。


 あんな事を平然と言える程度には忠誠心があるのかもしれないが、内容を理解できる頭がなきゃロボットだ。お人形だ。


 十二時間武器を振るのもいいけど、同じぐらい本を読めよ、マジで……。

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