北ロッド国攻略戦
ただただ虚しいだけの戦い、いや茶番劇は終わった。
「ユーイチさん、大丈夫ですか」
「あんまり大丈夫じゃない」
本当、何だったんだろう。すでに北ロッド国の半分を攻め落としたというのに、まったく達成感がない。
第三者様だから?
「この戦いの意味って何なんですか」
「タメ口でいいよ上田」
「じゃあ聞くけど、この戦いって無意味じゃ」
「こんなにまで自分の力に溺れた好戦的な国なんて、それこそ魔王より恐ろしいと思うけどね。
魔王が世界征服と言うか人間絶滅に熱心だったら、この世界は十年、いや少なくとも百年で滅んでいた。
魔王ってのは理性的だったんだよ、悪い意味と言うか嫌らしい意味で。魔王が出た際に旧マサヌマ王国の民の内周辺国家に逃げた人間も多かったけど、残った人間も多かった。そして魔王はたくさんの魔物を殺したよ、人間をむやみやたらに脅かした存在をね」
初代の魔王は旧マサヌマ王国の民に対し、むやみやたらに略奪を行うような存在を幾度も自ら罰し、なるべく徳政を心掛けたと言う。
当然の如く人間側の反発も多かったが、責任者でさえも奴隷に落としただけで済ませ、逆にそのきっかけを作った魔物を処刑したと言う話まであったらしい。
「でもだとすると、魔王はそこまで危険でもなかったのでは」
「いや東端と言うか東北の女神の砦での戦いは日常茶飯事だったようでね、さらに今の北ロッド国の辺りもかなり激しい戦いは繰り広げられていたよ。その度に旧ロッド国が必死に押し返し、あるいは魔王城まで攻めかかった事さえあった。さすがに撃退されたけどね、まあいろいろな戦いが積み重なった結果、それが自信になり、傲慢に化けたんだろうと思うよ」
「それすら策略かもしれねえと思うと恐ろしいけどな」
ロッド国ってのは魔王からの攻撃をずっと受け止めて来た国であり、ましてや今の北ロッド国となるとなおさらだろう。
自分たちの力に誇りを持ち、それゆえに他の国があまりにも悠長なことをやっているように思え、協力を求めたはずが圧力に変わっちまったんだろうか。
とにかく俺たちが入った「北ロッド国第二の都市」は、とてもその肩書にふさわしいとは思えない町だった。
西の要塞と大差のないむやみやたらに重苦しい石造りの城壁に、わずかな道路とぎっしり詰まった武器、ではなく畑。
家屋というより砦とでも言うべき建物と、畑。
そこには市場もなければ、楽しそうに会話する町の人の声もない。
俺たちが征服者だから後者がないのはともかく、前者もないのはおかしい。
「あんたが何をやっても死なない男だね!うちの人をどうしてくれたんだい」
罵声が俺の耳を打つ。
俺のせいで未亡人になったらしい女性の手から木材が俺に向けて飛んで来るが、もちろん当たらない。
「わかりきった事とは言え、ただただ悲しいよな」
「本当の敵は魔王軍だと言うのに」
エクセルが遠慮なく話に割り込むが、当然の如くそのエクセルにも罵声と攻撃が飛ぶ。
だが、明らかな危機的状況を見て攻撃を仕掛けるような真似をした存在をこのまま放置できないのもまた事実であり、ここで退けば元の木阿弥ですめばましなほどに悪化するかもしれない。
「このような街に滞在できるのでありますか」
「無理だろうな、とは言えここまでやってしまった以上今更後にも引けない。それにアト将軍が言い遺した第三の魔王の存在もある以上、止まる事など不可能だよ」
そして、第三の魔王だ。
アトが言い遺したその存在はどうやら、フェムトでもジャクセーでもないらしい。
その魔王が何を考え、何をしようとしているのかはわからないが、もしミタガワエリカのような世界征服を力によって成し遂げようとする魔王だったら事態は一刻を争う。
フーカン曰くフェムトはマサヌマ王国にとどめを刺し、ジャクセーは数万人のマサヌマ王国軍を焼いた最強の黒魔導士らしい。
そんな連中が従っているとなると、魔王軍の脅威はまだ消えてそうにない。
「第三の魔王がこの国を脅かさない保証は!」
「ないに決まってるだろ!」
わざとらしくその存在を叫んでみたが、町の人たちは何も反応しない。
あったとすれば、俺たちへの冷たい視線ばかり。
魔王の存在アピールに反応してくれる人間は、この国にはもういないのかもしれない。




