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上田裕一、キレる

「お前が、シンミ王国軍の手先の!」


 山道の頂上で杖を握るお姫様。


 敵意こそあるがけっしてむやみやたらに振るうことはせず、山頂に立つ砦と言うか、要塞と言うかの上でじっとこっちを見下ろしている。


「あなたは」

「私はロッド国のギウソア王が娘シスクレ!ウエダユーイチ、今すぐ我が元に身を投じ共に戦え!」


 その上で出た言葉はずいぶんと余裕と言うか、上から目線と言うか、正直まああの手紙の時点で察せるという物だが。


「俺は北ロッド国の兵を相当な数殺しました。その兵士の皆様の遺族たちが承知しないと思いますけど」

「私は姫よ、国王の娘よ!その程度の人数黙らせるまで!」

「そんな強権を発動して因縁浄化されるんならそんな簡単な話はありませんよ」


 この世界で一体何人に恨まれて来たか、その数を数える事などとっくの昔にやめている。

だいたい、俺が普通にマラソン大会に出るだけで、参加者全員と関係と言うか因縁ができる。お前と一緒に走るとペースが乱されるとか言う悪口はもう十回は聞いた。


「金貨千枚出すわ!」

「お金の問題じゃないんですけど」

「じゃあ何の問題よ!」

「ブエド村にいなかったからですよ、この国の人が」


 俺らがシンミ王国に付いているのは、魔王ミタガワエリカを止めるためでしかない。その契約が事実上終了した以上、俺らにはシンミ王国にしがみつく理由はない。




 ——————いや、なかった。


「なかったですよ、ついさっきまでは」

「いったい何が問題だって!」

「俺の仲間には魔物であるオユキもいますから、魔物に付いて偏見はありません。ですがあれは明らかにダメでしょう。まさかと思いますがまったく無関係だと」

「あのアトですか?」

「ええ、確かに俺らとそちらの真ん中に落ちましたけど、あれは魔王軍の幹部なんでしょう?だったら今すぐその魔王軍の幹部を攻撃してください」


 あの時のアト将軍を見る北ロッド国の将軍は、敵軍を見る目をしていなかった。

 同じ敵である俺らを倒す仲間として、攻撃を受けながらも声援を送っていた。

 明らかにおかしい。


「ミタガワエリカの目的を知らない訳じゃないでしょう、それこそ世界征服と言う」

「そのミタガワエリカはもう何もできないはず、魔王を二人も失った魔王軍二今更何ができると言うのか」

「だとしてもまだ抵抗力と言うか戦闘力は残っています。そんな軍勢を真後ろにおいてまでシンミ王国に攻撃をかける理由って何ですか」


 魔王城は大陸の中央にあり、その気になれば全方向に攻撃をかける事ができるし、現にミルミル村からブエド村まで、たくさんの魔王の手先に悩まされて来た。

 でも南以外はみんな山地で、そんなたくさんの兵力を送りこむ事は出来ない事も俺は知っている。


「クチカケ村もエスタの町もシギョナツもサンタンセンも、キミカ王国もトードー国も、魔王城とは山を隔てている事は知っている。だがロッド国なんて、一番攻めやすい所のはずだ。それがなぜまたシンミ王国なんかに攻撃を」

「私は国のため!」

「まさか魔王軍と手を組んでまでシンミ王国を倒そうと」

「それは父上が決め、私も決めた事!」




 少しでも、間違いであってほしいと思っていた俺がバカだっつーのかよ……。




「あなたが倒すべきは私たちじゃありませぇん!」




 そこに、何十メートルも下から別のお姫様の声が飛んで来た。



 ああ、まったくその通りだよ。


(自分たちこそが魔王軍と戦うのにふさわしい、だから従えって時点で十分にめちゃくちゃだけどさ、その魔王軍と手を組もうなんて………………)


 ブレブレとか、本末転倒どころの騒ぎじゃない。


「何よ!この簒奪者の小娘が!」

「あなたは十五歳ぃ!私は十四歳ぃ!」

「小娘って言われたくなければ言葉遣いを直しなさいこの貞操観念のない女!」

「意味不明ですぅ!」

「あの、一国の姫がそんな」

「未来予知よ、未来予知!どうせこの戦いでお前は負けて捕虜となり、生き残るためにどんな男の前でもしなを作らなきゃいけなくなるんだから!」

「私がしなを作るのはユーイチ様だけですぅ!」

「そんな贅沢を抜かせると思ってるわけ!」

「あなたにも好きな人がいるはずですぅ!」




「……あーあ、情けねえ!」




 ————————————他になんて言えって言うんだよ!


「ユーイチさん……!」

「お姫様ってのは国の代表だろ?その代表がんな汚い事ばっかり言ってたらどうなる!?国全体が汚ねえ国だって思われるぞ!そんな国、他の誰が助けるんだ?逆ギレでも何でも礼儀を忘れるんじゃねえよ、それで何がお姫様だか!」

「上田君、あまり頭に血を登らせないように!」

「どけよ…………」




 俺はこれまでと同じように、刀も抜かないまま無言で歩いた。

水魔法も矢も剣も全部見えていないかのように、無言で歩いてやった。


「国王様に伝えて来いよ……今すぐシンミ王国と一緒に魔王軍と戦えって……」

「冗談も休み休み言いなさい!早くこの男を!」

「鏡に向かってしゃべるな…………」


 俺は誰もいないように歩き続け、ついに敵本陣まで入り込んだ。



 俺単騎で全てを制圧するかのように歩く。

目標?思いっきりこのお姫様に似た女の頬をビンタする事ですが何か!



「なぜだ!なぜ当たらない!」

「だから今すぐやめろって言ってるんだよ……って言うかまた同士討ちかよ…………」

「お前、どこを狙って!」

「それがあいつを狙おうとすると全部攻撃がずれて!」

「じゃあ手を止めろよ!」


ついに要塞正面までやって来た俺に攻撃が飛ぶ。あわてて門が閉じられるかと思いきやそんな事もなく、開けっ放しの門の上からの落石が来る。

「ダメだ!石も当たらない!」

「うわあああああ……!」



 そしてついに、兵たちの恐怖心が頂点に達したようだ。


「助けてくれー!」

「姫様!もう戦えません!」

「ど、ど、同士討ち、同士討ち……!」


 ヘイト・マジックを上回るほどの恐怖心に取り憑かれた人間が、一挙に東側に向かって逃走、と言うか壊乱してしまう。

 これじゃ戦争になりようがない事なんて、火を見るよりも明らかだ。



「さあお姫様、わかったでしょ?これで」

「もう、どうして!どうしてこんな!」

「シンミ王国はロッド国を滅ぼす気はないと思いますよ、って言うかここで話を付けるんなら俺がさせませんから」

「好き勝手なことを!」


 次々と水の弾が飛んで来るが、言うまでもなく当たらない。


 俺が一歩、二歩と距離を詰めていく間にも、どんどんお姫様の顔は引きつって行く。



「力を使うのは嫌ですけど、それでも使わなきゃいけない時があるんですよ……」



 いっその事縛って人質にでもして降伏を迫ろうとか考えてしまう程度には頭に血の登っていた俺の言葉に、いつの間にかひとりぼっちになっていたお姫様は後ずさりしながら攻撃をして来た。


「来るな、来るな!」


 来るな?バカバカしい、ついさっきまであんなにほざいてたくせに!


「助けて……」


 助けて!?この状況で一体誰が……!




「あいよーん!」




 と思ったらやって来たよ!




 全く緊張感のない口上と共に出てきた、首を脇に抱えた男が!

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