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魔王軍の実情

「どうして今まで黙ってたんだい?」


 戦後処理なのか、本格的な戦線の開かれる事を悟ってか、前線にやって来た執政官様。


 その執政官様の、怒鳴りつけられるよりずっと血の気が引きそうな笑顔で妹を見下ろす姿と来たらもう大の男たちが完全に引いている。


「まあお兄様に責任がないなんてひとことも言わないよ。でもさ、戦場に行くってのがわかってるのにどうしてそんな事するんだい?自分がいかに強いか示したいの?」

「私はぁ!ユーイチ様のお側にぃ……」

「それでいったい何ができる?それも考えずに来たんじゃ何の意味もないよ。まあ見落としたお兄様もお兄様だからね、今回はこれ以上追及する気はないよ。

 今回はね」

「はい…………」

「聞こえないよ」

「はい……!」


 セブンスを恨めし気に見ながら下がって行くお姫様を静かににらみつける執政官様の威がどこから来るのか、本当わからない。

「それでこの後は一気に攻撃をかけるんですか。それで北ロッド国の王都までとか」

「それはさすがにせっかちの烙印を押されてもしょうがないよ。実際人的犠牲はどれだけ出たのか教えてくれないと」

「えっと…………」

「最強の兵士と最強の前線指揮官、最強の総大将は全部別物だからね」

 話を変えようとしてもこれだ、まったく油断も隙もない。



「まあね、それで実際この後なんだけどさ、この数からするとウエダユーイチ殿の言う通りこのまま突っ込むのも悪くないと思う」

「だったら」

「まあ落ち着いてくれよ、分身は元気だからさ」

「ああはい……でもどこまで行くんですか?北ロッド国って広さがわからなくて」

「横幅だけは今の東シンミ王国とでも言うべき地と変わらない。だが厚みが四分の一ほどしかなくてね、その気になれば三時間で行ける」

「そんな場所で抵抗してたんですか!」

「要害って奴は面倒だよ。落とすのは難しいし、手に入れても意味が薄いし。そりゃまあ守るのにはいいけどさ、要害かつ生産能力のある場所なんてないからね」


 ったく、どうにもこうにもマヌケな話だ。

 ブエド村からミワキ市までも徒歩で三時間の距離しかない。ミルミル村からペルエ市まで三日かかったのに、たかが三時間の圏内で何を争ってたんだか。

 ましてや山地だから三時間なだけで、直線距離となればもっと短いだろう。


 それが生きながらえて来たのは正直、シンミ王国にそうする意味がないからだ。


(北ロッド国が魔王軍の盾になっているのならばそれで良かったんだろうな……)


 一人目の魔王の死。二人目の魔王の失脚。それらに伴う魔王軍の弱体化。

 そして二人目の魔王によるシンミ王国が受けた大打撃。


 それらが北ロッド国に好機であるという判断を与えたとしたらあらゆる意味で不幸としか言いようがない。


「魔王軍は戦力減退してるとは思えませんが」

「ふーん」

「一人のドラゴンナイトがいたんです。それがいきなりドラゴンから飛び降り剣を振って来たんですがかなり強くて、その上に剣そのものも相当に鋭くて。正直冷や汗を掻きましたよ」



 そうなのだ。魔王軍がもし滅びかけだって言うんなら、あのドラゴンナイトはいったい何なんだ。

 って言うかドラゴンは飛び降りたきり何もすることなく帰ってしまい、あのナイトも魔法で帰って行った。ドラゴンもなしにあんなに力を発揮するだなんて、それこそ相当な強者じゃないか。


「その剣士は何か特徴は」

「非常に戦い好きで、ミタガワエリカの事も仇討ちって名で好き放題戦えるって浮かれてましたよ。それで倫子の分身の爪を叩き折るぐらいには強い剣を持っていました。あとこれは気のせいかもしれませんけどね、少し首が浮いてました」

「はあ!?」

「そうですよね、やっぱり気のせい」

「最重要情報を後回しにしないでよ」



 最重要情報?って目を丸くした俺らに構うことなく、場がざわつき始める。

「あの、もしもし」

「その剣士は間違いなくアトだね。魔王軍最強の剣士と言われる」

「首なし剣士のアトですか……!」



 そうだ、いたんだ、そんな名前の魔物の幹部が。



 他は召喚魔導士のフェムトに、黒魔導士のジャクセー。



「魔王軍の幹部の中でも最強に近い三人だよ。

 アトは言うに及ばず、マサヌマ王国の兵士三千人を三十分で死体に変えたとも言われている黒魔導士ジャクセー。

 そして、マサヌマ王国最後の王子を殺し事実上マサヌマ王国にとどめを刺したフェムト。どれをとっても恐ろしい存在だよ」


 この人は、話を盛ったとしても嘘を吐く事はない。


 戦闘能力からしても現在の地位からしても、その三人が、今残る魔王軍の幹部であり、次なる魔王の候補だろう事は間違いない。




「まさか派閥争いとか」

「その通りだよ」


 で、適当に言ったらまたまた素直な返答が返って来ましたよ……。




「あーあ……すいません、テンションだだ下がりなんですけど……」


 ぼっちのせいだったかしらねえけど、○○派と○○派による派閥争いかって言うのって正直醜くて見てらんねえって言うか、これだから政治はやだなって言うか……。

 それをこんな世界に来て、キミカ王国のみならず魔物たちの間でさえ見せられるだなんて、本当気分が悪い。いや、本来はまたやってるよ程度でしかなかったはずなのに、どうしてこんなに傷つくようになっちまったんだろう。

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