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魔王軍はまだ健在なのに

 シンミ王国軍はもちろん、ドラゴンナイトの脅威を知っている。


 そしてそれがどこに所属する軍隊かも。


「ロッド国将軍!ここにドラゴンナイトが迫っていると言う事は、貴国が魔王軍の攻撃を受けていると言う証拠である!貴国を守るべく今すぐ兵を取って返すべし!」


 一体どうやって魔王軍がミワキ市に来たのかは知らねえが、いずれにせよ北から来た以上北ロッド国の上空を通過した可能性が非常に高い。

 スケルトンやハイコボルドのような陸戦兵力がどうやって来たのかは知らねえが、元からそんな存在に悩まされているはずなのによくもまあ侵攻しようとして来たもんだ。


「怖気づいたか!我々は正統なるロッド国の将として、ミワキ市を奪還するためにこうして兵を挙げたまで!」

「今のミワキ市は魔王の攻撃により廃墟に近い!ロッド国を同じ事にする気か!」

「それは貴様らが柔弱だからだろう!」


 当然のはずの言葉なのに、北ロッド国の大将はむやみやたらに威張っている。


 だいたい、北ロッド国と言う国自体南北に大国を抱えている小国でしかなく、それが片方を置き去りにして攻撃をかけるなど本気で頭がおかしいとしか思えない。


「十年前から言っているであろう!我らこそ魔王軍を蹂躙し、真にマサヌマ王国を取り戻すにふさわしい存在であると!それをなぜ拒み続けるのだ!」

「それなら兵士を出してくれと頭を下げればいいだけだろ、そんなどうして戦争なんか起こしてシンミ王国を吸収合併しようとしたんだか」

「キサマのような!若造に!」


 つまらない遠吠えに割り込んでやると、ますます声を荒げて突っかかって来た。ヘイト・マジックの成果と呼ぶにしてもあまりにも拙劣すぎる。


「上が見えてないのか!」

「ドラゴンナイトの一匹や二匹、大した事はない!」

「大した事があるから言ってるんだろうが!」

「まったく、Dランクだか知らんが結局はシンミ王国の手先か!」


 完全に頭に血が上っている。


 確かに一匹ではあるが、ドラゴンはドラゴン。脅威となってしかるべきだろうに……。







「え?」




 と思っていると、いきなりドラゴンが俺の真上に止まり、そこから乗っていたナイトが飛び降りて来た。北ロッド国の軍勢の表情に変化はない。




 そして。




「お前がウエダユーイチだなぁ!」




 そのナイトはいきなり、すさまじい速さで斬りかかって来た。


「は!?」


 別に驚くような事でもないはずなのに、ついうっかり声を出してしまった。



 何せ、その剣を振る音が速い。その分だけ北ロッド国の兵をも斬っているが、もし目的がそっちだと思うと膀胱の中身を心配したくなる。


「リンコさん!」




 その強敵に、セブンスは多数の倫子を差し向けた。



 実にらしからぬ顔をした狼女たちが次々と北ロッド国勢や謎のナイトに襲い掛かり、戦場を蹂躙していく。

 元々劣勢だったはずの北ロッド軍はさらに形勢が傾き、大きく崩れ出した。



「狼女の大群とはなあ、こいつは面白えや!」


 そんな中でも北ロッド国の将軍たちとそのナイト一人だけは、まだやる気満々と言わんばかりに目を光らせている。




 そして恐ろしい事に、そのナイトの振るう剣に当たった倫子の分身の爪が、折れてしまったのだ。

「じゃ、じゃあ!」

 セブンスはあわてて俺の分身を作るが、それらの刀とて結果は見えている。




(単純に強い……しかもこの得物は並の武器じゃねえ…………!)




 倫子の分身たちは俺から離れているので流れ弾は来ないだろうが、それでもこうして目の前で倫子の武器が役に立たない事を見せつけられると頭に来る。



「あっはっはっは……そうだ!これが戦いだ!これが魔王様がくれた戦い!」

「ロッド国の人間はこいつを放置するのか!」

「黙れ!」


 ああ、ヘイト・マジックのせいか声も届かない。確かに俺への憎悪で一杯になってるのは認めるが、だとしても俺を倒す前に邪魔者を何とかしろって言いたくもなるよ。


「……まさかとは思うけど」

「言ってみろ、侵略者のシンミ王国の手先めが!」

「いや、やっぱいいや……倫子の分身を向けてくれ」

「はい」


 とりあえず、怒りながらも笑っている目の前のオッサンを見ていると気分が悪くなる。

 セブンスも俺のいら立ちを感じたのかすぐさま無言で倫子の分身を差し向ける。


「ああ逃げんのか?逃げるのか?」

「ああ面倒くさい、戦争って本当に面倒くさくてやだね!」

「ハァ!?お前そんな意気込みで魔王様を倒したのか!」

「お前は好きか……?」

「俺は大好きだよ!ものすごくな!ましてや、仇討ちなんてマジでサイコーだよ!堂々と敵が殺せるんだからな!ヒャッハッハッハッハッハ!」


 戦闘狂とでも言うべき言いぐさに、正直頭が痛くなる。

 これまで幾度もあしらって来たはずなのに、今回ばかりはそううまく行きそうにもない。







「シンミ王国、め……覚えておけ、最後に勝つのは、ロッド国なのだ……!」


 で、その間に北ロッド国の将軍は倫子の分身たちにより死んだ。まったく、最後の最後まで楽しそうに死にやがる。本当嫌になって来る。

(ヘイト・マジックを使えば自然かもしれねえが……)

 これまで何度も見て来たのに、正直疲れ果てて来る。


「ああもう、正直やる気あるのかぁ!」

「ねーよ……!」

 俺の分身と手空きになった倫子の分身をぶつけてもなお全く動じる事なく剣を振り回す姿と来たら、正直強いとか通り越して嫌になって来る。


「あー退屈だ、まあ今日の所は俺の存在を示すだけで勘弁してやるよ!次こそてめーを何千何万個に斬り刻んでやるからな!」



 そして俺にやる気がない事をようやく悟ったその騎士様は、魔法でも使ったかのように姿を消した。







「いいよな、ああいうのって……」




 戦争の事を何にも考えず、ただひたすら目の前の戦を楽しんでいる。

 ヘイト・マジックが通じてなさそうなのもさることながら、あんな戦闘狂が相手かと思うと本当参る。




「戦いは一応、終わったか……」




 他になんて言えばいいんだろう。あーあ、やんなって来る。


 なんなんだあいつは!


 途中からやる気が失せていたせいか、なんか首が浮いているように見えたし…………って言うか今誰が魔王軍を率いてるんだよ、あーあ。

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