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解呪

「セブンス……!」

「ユーイチさん……」

「分身魔法を」

「今はMPがちょっと危ないんで…………」

「やっぱりぐっすり眠ることが重要だよな」


 ミワキ市の復興に、分身魔法は大いに有効だ。


 だが、今はまだ使えない。術者のMPがないからだ。



 このMPを回復するには、一晩ゆっくり休む事が必要だ。


 赤井も、シンミ城で聞かされたこのRPG世界バリバリなルールには少し戸惑ったと言う。大川はオタクなら慣れてるんでしょとか悪態を付いていた事もあったが、実際都合のいいルールである事に間違いはない。


(なぜ気が付かなかったんだ……?それももしかして呪いなのか……?)




 しかし、三田川恵梨香のMPが回復する事はない。まさか不眠って事もないだろうに、どうしてそんな事になっているのか。


「倫子……」

「やってみ、うわわっ!」

 氷の岩が俺に向かってくる。俺ではなく、倫子を狙ったはずの氷が。


「ヘイト・マジックとは恐ろしいもんだね……。魔法の軌道さえもねじ曲げてしまうなんて……」

「お兄様ぁ!」

「人間はね、痛い所を付かれると暴れまわる。なぜかわかるかい?排除しないとさらに責められて危険だと言う事がわかるからだよ。

 おそらくリンコは、ミタガワエリカにとって最初から痛点のような存在だったんじゃないかな」



 痛点。


 まったく、今の平林倫子なら(物理的には)ともかく、あんなにいじめられて萎縮して自殺まであったかもしれねえほどに縮こまっていた平林倫子の何を恐れていたのか。


「彼女はきっと、とても優しい少女だった。でもその優しさが甘さに見え、いつそっちに流されるかって怯えてたんだろうね」

「動物に触れる事によりやすらぎを得る文化はあるのでしょう」

「もちろんだよ。まあ猫は宮中に数匹いるね」



 人畜無害だったはずの平林倫子が突いた痛点とは、やすらぎだったのかもしれねえ。


 自分を堕落させ、何よりも重要な時間を食い潰し、後悔の二文字を将来に負わせるとんでもない怪物。


 ペットショップという名の癒しを与える事が主目的の人間からしてみれば極めて正しいはずの態度を取っていた人間が、そのせいで怪物に見えたのだとしたら何ともやるせない。


「構うことはないよリンコ殿、ステータスとやらを出してくれ」

「はい……」




※※※※※※※※※

 三田川エリカ

 職業:賢者

 HP:10000/10000

 MP:0

 物理攻撃力:500

 物理防御力:40000(デフォルトは10000)

 魔法防御力:40000(デフォルトは10000)

 素早さ:5000

 使用可能魔法属性:炎、水、氷、土、風、雷、闇、光

 特殊魔法:ステータス見聞・変身魔法・偽装魔法

※※※※※※※※※




 HPがひとケタ、と言うか90000も減っている。


「文字通り骨身を削っての反抗でありますな……」

「何感心してるの!」

「生殺与奪の権は事実上こちらにあるのであります。皆様はどうお考えで」


 赤井はずいぶんと淡々と言うが、実際その通りだ。魔法を使う度に力を削り、それでいて結果は出ない。底なしの穴に土を入れて埋めようとした所で、実際に底なしならば何にもならない。いずれは土が尽きてしまい、まったくの骨折り損のくたびれ儲けに終わる。


 どんなに強かろうとも弱っていれば倒すのはたやすい。その時に助けて恩を売るなり、恨みを晴らすなりするのは実に俺たちの勝手だ。


「何よ、このガリベンオタク……!」

「三田川恵梨香、あなたは自分が弱くなった時のことを考えていたのでありますか?

 あなたはあまりにも暴威を振りかざし相手を圧迫しすぎましたであります。

 あなたは尊敬されていたのではなく畏怖されていたにすぎず、あなたの周りにいたのはいつか目に物見せてやろうとする敵対者と、あなたの暴虐を恐れる服従者と、そしてこれ以上の暴発を恐れる事なかれ主義者のみであります。

 一番目はあなたが弱くなればここぞとばかりに襲い掛かり、二番目は虎よりも猛なる苛政からの解放を喜び、三番目はそんな人間を救って自分が面倒ごとに巻き込まれるのを何より恐れるであります」


 人間、いつまでも強い奴はいない。

 そんな時に助けてくれるのはその相手を助けたいと思う存在であり、いつもつらく当たり散らしているような奴を助けたいと思うのはよほどの聖人君子か、マインドコントロールに成功した奴隷サマか、何にも事情を知らない第三者様だ。

 一番目はそれこそ絵に描いた餅だし、三番目だって事情を知れば離れて行く可能性が高い。二番目?ボロボロになるまでゴシュジンサマに力を吸いつくされた奴隷サマにそんな力があるかい。


「私はっ……!」

「無論その境遇には全力で同情するであります。しかしそれをもう少し他の方に伝えていれば、万が一でも可能性はあったかもしれないであります……」

「どうしろって言うのよ!」

「例えば学問に励んでいる所を第三者に見てもらうとか」

「一度やったわよ!したら二時間どころか十分もしないうちに帰られて、それきりあの女はおかしいって言われてもう二度と声をかけて来なくなったわ!」


 金属のかまくらの中で吠える少女の姿は、ただひたすら哀れでしかない。

 あるいは嘘かもしれないが、嘘であろうがなかろうが十二分につらい八方ふさがりだ。




「なんで……なんでなのよ!なんでみんな、みんな私の正しさを!」

「逃げろ!」




 かまくらが、いきなり破裂した。金属板が四方八方に飛び、今更壊れようのないはずの町をさらに壊していく。


「おかしい……おかしい……私は…………何も間違っていない、そのはずなのに……そのはずなのにぃぃぃ!」




 声がひたすら甲高くなり、尚更耳障りになって来る。さっき金属板がはじけ飛んだ音より甲高く耳の奥底にまで響く声が。




 そして、先ほど金属板を弾き飛ばした力が、さらに集まり、膨らんで行く。







「魔力の流れが、強く集中しています!行き先は…………ミタガワエリカさんの肉体です!」

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