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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第二章 冒険者デビューしてみた
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大川博美

あけましておめでとうございます!

「私たちは付いて行かないかんね」

「悪いけどあそこのお客さん、テンション低くてさ、やりづらいったらなくて。今夜もあの酒場でやるつもりだから」



 三人組は大川を探すべく北側の門、と言うかナナナカジノに行くのに消極的だった。

昼食を口にしながら無言で首だけを動かし、そのまま腰を浮かしたさそうにしている。


 ナナナカジノはミーサンカジノに比べおとなしく、自分たちの芸に対するウケが弱いらしい。実際ギャラも安かったらしく、あまり好きな仕事先ではないようだ。


「私などはオファーがあればどこだろうと行くべきだと思っているのだが」

「オファーがあればね、ないんだからしょうがないじゃない」

「いいのか神林、ナナナカジノには赤井がいるぞ」

「赤井君無事だったんだ、なら今はいいや、もっといい歌を歌えるようになるまでは」

「俺はリア充の悩みなんかわからないけどな。もたついてるとあとの二人に取られるんじゃないか?」

「上田は少し三人の関係を甘く見ているんじゃないのか?」

「わかってるよ、どっちかと言うと遠藤のが危険だ。今のあいつはかなり力強くなっているうえに見境がない。あのテーブルに大穴を開けたのも遠藤だ」


 木村と日下は目を大きく見開いてる。

俺だってびっくりだったよ、本当おがくずが転がってて床がザラザラするのなんの……。


 赤井はこの世界で少しは過酷な目に遭ったからなのか体がしまった気がするけど、基本的にはデブでおしゃれに気を使う様子もなくモテそうには見えない。

親と教師と河野以外に異性とからむことのほとんどない俺が言うのもなんだが、そんな非モテの極致みたいな格好なのに自分なりに必死に努力して、のほほんとしているのにお絵かきだけは情熱的な漫研の藤井佳子、こんな感じの舞台についていつも赤井と言葉を交わしまくってる同じく漫研の米野崎勝美、そしてこの声優志望の神林、そんな三人の女にいつも囲まれているのが赤井だった。

(内心気に喰わない奴もいるだろうな、ぼっちの俺なんかは単純に感心できてたけど)

三股もあり得る存在を妬むぐらいなら努力もしてみろ、そんな殊勝な言葉を吐き出せる身分でもない。だがそれでも柴原コーチの指導に応えている内はどんどんタイムが上がる。こんなに「楽」な事もない。赤井はそれと同じような事をしてるだけだ。


そんで体型とか以前に、真正のオタクである赤井をよく思わない奴は多い。その代表が遠藤であり、常日頃から赤井やへばりつく女子たちを不審そうな目で見ていた。

昔の遠藤だったらその三股状況をああはいはいで済ませただろうけど、今の遠藤ならなんであんな奴がモテるのかって喰ってかかっているに違いない。



「俺はおとといここに来て、赤井と一緒にハンドレさんって商人の娘の子と話してた、それだけでいきなり遠藤は襲い掛かって来たんだ」

「遠藤くんがそんなんなっちゃうのかなあ」

「今度会ったら私の剣、炎の剣で何とかしてやろう」

「それで言う事を聞いてくれりゃいいけどな……って言うかお前も気を付けろよ」

「言われるまでもない!だいたいお前は元の世界からどうしてか虫が好かない。理由はないのだがな……」

 

 理由はないけど好きになれない。よく言われるセリフだ。


「なんとなく」「とりあえず」「よくわからないけど」そんな枕詞が出るだけで、その先の言葉がすべてがわかる。まったく妙な能力を身に付けちまったもんだ。



 しかしこの世界に来てなお一日三食かよ、俺みたいな力商売やってるやつでも二食だっつのに、三食食うのは王様か農民だけだってミルミル村で学んだはずなのによ……。


「あのさ、金あるの?」

「これでも売れっ子なんだからね!」

「一応冒険者稼業もやっている、残念ながらそれほど金には不足していない」

「っつーかさ、ミーサンカジノの客ってどんなのなの?」

「ぶっちゃけガラ悪いんだよね、でも豪快に拍手してくれるしお金もくれるしさ、月子がいなかったら正直やだけどね、まあこれも営業の一環だと思えばね」



「ユーイチさん!」

「おいセブンスどうしたんだ」


 まあカジノなんて本質的にんなもんだよなと勝手に了解している俺の視界の端っこに、セブンスが飛び込んで来た。声こそでかいが足音は立てず、きちんと礼儀作法を守るその姿は正直見ていて気持ちいい。


「ユーイチさん、ユーイチさんのなか……」

「あーっ!」


 そんなセブンスの姿を見るやいきなり木村が大声を出し、セブンスと来たら急に身をすくめて縮こまっちまった。



「上田、もしかしてあんたの彼女って」

「セブンス……まさかお前昨日……」

「もしかして、三人ともユーイチさんのお友だち…………」

「まあ、一応な…………と言うか出入り口でうずくまるな。でもやはりさ、お酒は二十歳になってから、だろ?」


日下の言う通りセブンスの手をつかんで強引に座らせたが、セブンスは両手で真っ赤に染まった顔を覆い、口からかろうじて声を出している。

 俺らの世界のルールとどれだけ関係あるかわからないが、それでも客の勧めとは言え酒飲んで大笑いして派手にダンスして主役であるはずの神林や木村の舞台を奪っちゃクビもしゃあねえかなとは思うよ、俺もさ。


「しかしさ、こんなに優しくていい子が上田の彼女になるだなんてね」

「からかってやるな、ますます顔が赤くなるぞ」

「すいません、冷水っていくらですか?」

「ねえよ……」



 もし日下みたいに炎じゃなくて氷か水の力が使えれば何とでもなるんだろうけど、今の俺にはセブンスを何とかする事はできない。




 って、彼女!?


「やだもう、彼女だって自覚すらないの!?」

「ああ、改めて俺がぼっちだってわかったよ」

「あの、彼女って」

「恋人って意味だよー」


 ああ、ますますセブンスの顔が赤くなる。赤井とか市村ならこんな時、いや言葉を交わせばOKの赤井やモテる自覚なしの市村じゃ無理か、参ったな……。


「って言うかお前わざわざこんな思いしに来たのかよ」

「あ、いや、その、えーと……三人さんは、えーと……ミーサンカジノってところから……」

「やめとけ、お前さんには絶対無理だ。シラフでカジノ勤めなんぞ警備員以外ありえないぞ」

「ブラックリストがあるらしいからな」

「ブラックリストって何ですか?」

「絶対にお断りという人間の名前を記したノートだ」


 ギルドマスターからの実にごもっともなお言葉のせいで、セブンスの顔の赤みは一挙に引き、そして涙があふれ出した。


実際問題、酒も飲めない奴がカジノで接客なんぞ土台無理だよな。その上にブラックリストなんていわれりゃそうもなる。こりゃいよいよ俺が張り切って金を稼ぐしかねえか、まあ彼女のためにな。


「って月子、ブラックリストってミーサンカジノの事でしょ」

「ああ、そうだった…………」

「オイ、セブンスに謝れ!」

「すまん、ついその……うっかりしてしまってな……」


 ってあのな、なんでこの状況でんなアホな事言うかね!俺らの世界だったらそれこそ社畜って言われそうなほどに労働熱心な彼女に向かってそんな事言ったらどうなるかぐらい、俺だってわかるぞ!




 まあ、三人が昼飯を食い終わるまで俺は必死にセブンスをなだめ続け、ようやくセブンスは気を取り直した。


「ああ、ユーイチさん……」

「ああ落ち着いたかセブンス、そもそもお前何しに来たんだ?」

「ああそうです、そうでした!実はその、ユーイチさんとよく似た髪の毛をした人が!」

「この色か!」

「いや、髪の色だけじゃなく髪型も似てる、かなり大柄な人です!」



 俺は事実上の仕事放棄になっちまうおわびとばかりにギルドマスターに深々と頭を下げ、セブンスが寝ていた宿屋へと戻った。







 その宿屋のロビーには、少し汚れた柔道着を身にまとった一人の女性がいた。




 本当に大きな女性だ、大川博美ってのは。

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