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歳月は十年?

「はあっ、はあっ、はあっ……!」


 ミタガワエリカの体が、ゆっくりと下降して行く。


 自分が壊した建物の残骸の中で比較的高い場所に立ち、なおもまた死んでいない目で俺たちをにらみ付ける。


「私はぁ!この世界をぉ!立派な世界にするために!」

「お前はもう休め!」

「休め!?私に怠け者に成り下がれと!」

「これ以上の戦いに何の意味があるのか、お前は何のために戦っているのか忘れたのか!」

「私はぁ!ウエダユーイチ!お前を倒し!世の中に労働は神聖なるを見せつけるためにぃ!」


 風の刃がミタガワエリカの周囲を行きかい、近づく者みな傷つけようとする。

 その気になればいつでも吹き飛ばして全方位攻撃ができるある種のバリア。


「退避!」


 俺がそう叫ぶと同時に、逃さないとばかりに風の刃が飛ぶ。


 だが、ヘイト・マジックのせいだろうか。


 その大半は術者を見下ろす人間の元へと向かい、残りは地上から浮上しようとした俺の分身へと向かった。

 もちろん有効な当たりは一つもない。



「取り押さえて下さい!」

 セブンスの声と共に俺の分身たちがミタガワエリカに飛びかかる。ミタガワは風の刃の壁に変えて鉄の壁を作り、分身たちから身を守る。


「ああなぜ!」

「害意がなかったからか……」


 だが今度は分身たちが壁に弾かれ、次々と鼻血を吹き出して倒れてしまう。セブンスによりあわてて引っ込められた分身たちが次々と消え、俺は再びぼっちになった。


「まるでかまくらであります」

「そんな上等なもんじゃないよ、穴蔵だ」



 ミタガワエリカによって出来上がった防御施設は、たしかにかまくら状だった。

 出入口は真正面一ヶ所だけ。

 しかもかなり小さく、ミタガワエリカ本人さえも通れるように思えない。

「どっちかって言うと狭間……」

 大川が言ったように、これはかまくらとか穴蔵って言うより、どっちかって言うと日本の城にある狭間だ。


 狭間ってのは平たく言えば城に攻めて来た敵兵をそこから撃つための隙間であり、要するに迎撃のための装置でしかない。



「私は、この世界を、変える!」

「そんな三畳一間もなさそうな場所で何をわめいているんだよ」


 ミタガワエリカはさらにわめきながら魔法弾を狭間から打ち出し俺に向かってぶつけに来るが、もちろん命中する事はない。


 一発ではなく、二発、三発。再び連続攻撃をかけるが、中途半端なカーブがかかっただけの魔法弾が焼いたのは、もう焼ける場所などほとんどないがれきの山だった。

 その火災現場に氷の針が刺さって消火し、さらに岩がやって来て火にとどめを刺す。さらに風の刃が岩を切り刻み砂利に変え、吹き飛ばすでもなく転がすだけ。



「もうやめろ」



 他に何の言いようもない。



「うるさい怠け者……!」



 すべての力をMPにつぎ込み、俺を傷付けんとしている。


 傷つけようとしているから攻撃が届く事はなく、無駄に時間と力を浪費するだけ。さっきからもう何十遍と続いているはずなのに、なぜやめようとしないのか。




「一日の奇跡により与えられた剣は一日の過信を産み、百年の時を得て打たれた剣は百年の過信を産む……」

「えっ?」

「一日や二日の経験じゃないね、これはおそらく数年単位の思いだね」

「確か三田川が天才と呼ばれるようになったのは小学一年生ごろ、六歳ごろかと思います」


 六歳から高校一年生、人間が出来上がるには十分な時間だ。その間に出来上がった人格がこれだと言うのか。


「それから十年間か、十年間ずーっとああだったの?」

「俺も詳しい事はわかりませんが、その時からケンカを吹っ掛けて来る相手を全員叩きのめして黙らせるような人間ではあったようです。特にバカって言葉に強く反応し」

 その言葉に反応するようにまた攻撃が強まるが、それでどうなる訳でもない。




 ※※※※※※※※※

 三田川エリカ

 職業:賢者

 HP:100000/100000

 MP:0

 物理攻撃力:500

 物理防御力:40000(デフォルトは10000)

 魔法防御力:40000(デフォルトは10000)

 素早さ:5000

 使用可能魔法属性:炎、水、氷、土、風、雷、闇、光

 特殊魔法:ステータス見聞・変身魔法・偽装魔法

 ※※※※※※※※※




 さらに力は削れている。この先に待つのが自滅以外の何でもないと言うのに。


「あの二人を見ている気分だよ」

「あの二人って、ピコ団長さんとタユナ副団長さん」

「ああ、あの二人は騎士団長と副団長になる前から意欲旺盛で、それこそ騎士の鑑であり軍人の手本だった。まあ私がじかに見聞したのは十年ほどだけどね、いずれにせよ根っからの騎士様だった。だけどそれゆえにこの間のような事を起こしてしまったとも言える」

「ええ……」

「彼らはそれこそ三十年以上騎士としてこの国に仕えて来た。騎士以外の生き方はもうできないだろう」


 根っからの騎士様。それゆえに尊敬されて来たけれど、それゆえにイレギュラーな存在に対応しきれなかった。その騎士様の使命を果たすために主君にも激しく迫り、俺を含めたイレギュラーな存在にあんな形で折られた二人は今も苦しんでいるんだろう。


「いやしかし、十年と三十年では」

「私にはね、彼女が積んで来た経験が十年には思えないんだよ」

「じゃあ十五年ですか」

「もっとだろうね。そしてそれを誰も諫める事はなかった」

「ぼっちだった俺にも、それなりに必要なことを言ってくれる人はいましたけどね」

「うるさい怠け者!」


 執政官様の言葉に割り込むような攻撃も、当たる事はない。


 まるで俺の言葉を否定し、自分の正しさを証明する事に躍起になっているかのような行い。


 そして執着は、確かに一朝一夕のそれじゃない事は間違いない。




「あんたらにわかるの!私の事が!」

「何をだ!」




「私に与えられた、時間と言うのが!」







 高圧さなどどこにもない、甲高さだけが際立った大声。







 ミタガワエリカ、いや三田川恵梨香の口から、十年間の過去が飛び出した。

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