女神創生の伝説
「うあああああああ!!」
「お前……!」
まるで自分の力を削り、魔力に回しているようだ。
後ろに投げ捨てた剣がたまたま俺の分身に刺さって消え去り、素手から魔法を放ち出す。
マシンガンのように放たれる攻撃。
目と耳に派手に毒であるが、肉体にはかけらの毒もない。
「潰れろ……!」
氷の壁が前後から迫って来る。
挟み込んでぺちゃんこにしてやろうと言う腹なのだろうが、やっぱりその氷の壁さえも俺をハブり、俺型の穴を作って俺を閉じ込めようとしたのがいっぱいいっぱいだった。
しかし型にはまってしまって動けないのも事実だったが、寒さは感じない。
「ああ、ちょっと!」
そして動けまいとばかりに放ったビームはいきなり拡散、
あくまでも俺をぼっちにして俺を閉じ込めていた氷の壁を叩き壊し、氷と言うか水のかたまりを降らせただけだった。
「まだ戦うのかよ!その理由は何だ!」
「……私は、私は、この世界を、あなたたちを……救わなければならないの!!なんでよ、なんで邪魔をするのよ!」
急に女言葉に戻り、その上でまた泣き出した。
自分の気持ちが伝わらない辛さ悲しさに溺れている少女の目にほだされる人間は、いったい何人いるんだろうか。
「このままじゃ、このままじゃこの世界はみんな努力を忘れちゃう!堕落して滅亡する!そんな事ほっとける訳ないじゃない!」
「言葉をどう繕っても態度が同じでどうするんだよ……」
上から目線ではなくなった所で、言ってることが同じではどうしようもない。
あるいは以前もこうして泣き落としめいたやり方で言う事を聞かせてきたのかもしれないが、それだって通じる相手と通じない相手がいる事はわかっているはずなのに。
「私は、決して飛び抜けた力がある訳じゃない。ただ勉強して、勉強して、それで強くなった!」
「お前のその集中力は十分天才だよ!」
「天才とか言う言葉ほど嫌いな物はないわ!そんなのはあんたらのような怠け者の逃げ口上なんだから!」
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三田川恵梨香の名前を、実は中学どころか小学生の頃から知っていた。
特に塾にも行かないし通信教育すら受けていないのに、すでに高校生レベルの勉強をしていると評判の。
そして性格は今の通り何事にも一生懸命で、その上にひどく鼻っ柱が強い。少しでも知らない事があるとポーカーフェイスのままムキになり、遅くとも一週間かけてその穴を埋めに来る。それを幾度と繰り返し、すでに学校のボス的存在になっていた。
何かの秘密があるのかと探った同級生たちも、勉強しているからで片づけられてしまって手が出せず、自分たちが同じように頑張ってもまったく追い付けない。
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普通にやってるだけ、で相手を置き去りにできる存在が天才でなければ、天才ってのは何なんだろう。
「自覚なく他者を振り回す自称凡人がうっとおしいのは、ラノベを読めば理解できるのであります」
とか赤井は言っていたが、確かに赤井の言う所の自称凡人主人公がチート能力をまるで呼吸をするように見せられれば腰を抜かすし心臓に悪い。何よりこれまでの時分の中の常識をまるっきり覆され、自信どころか心身喪失してもおかしくない。
「お前のやってることはただのええかっこしいだよ!そんなのに人様を付き合わせて何とも思わねえのか!」
「うぬぼれって言うならそっちのがよっぽどよ!どうしてまともに勉強もしないのに!」
「お前のスタンダードを人様に当てはめるなって言ってるだけだ!」
痴話げんかと呼ぶにはあまりに色気のない物言いに、一段と俺の頭は冷えて来る。
さっきの氷の壁のせいでもないが、急に魔王からただの女子高生に戻ったような存在に恐怖心を覚える事がなくなって来た。
「その力の源は何なんだよ!禁断の秘術か!」
「そのようだね」
それでも飛んで来る魔法攻撃に俺がうっとおしそうに叫ぶと、また執政官様が返答を寄越して来た。
「ムーシがね、調べてくれたんだよ。歴史を」
「歴史?」
「ああ、女神がこの世界を作った時の戦いをさ。ムーシ」
魔法の力でかよく届く声で、ムーシ田口はその歴史を語ってくれた。
「女神様と魔王は、およそ一千年前。この地を巡って戦いを繰り広げた。三か月とも、三年とも言われているけど、とにかくすさまじいまでの魔法の打ち合いだったという」
「クチカケ村が寒冷地なのはぁ、その時に女神様が熱を吸い取って魔王を焼いたとかぁ、逆に魔王の氷の魔法がその地を未だに覆っているからとかって説もありますぅ」
「その時両者が使った魔法が、この世界における魔法の大元と言われている」
神と魔王による戦いの果てに、生まれた多くの存在。
もしそれがこんな風に俺に向かっての駄々こねに使われているとしたら、女神様だってかわいそうとしか言いようがない。
「とにかく、戦いは一進一退だった。多くの魔物たちが女神を襲ったが女神はそれを薙ぎ払い、魔王も部下たちのために必死に攻撃し続けた。
戦いにめどがついたのは、終焉から二十分ほど前だと言われている。この時魔王は瀕死で女神は無傷だったけど、魔王は勝ちを確信していた」
「なぜだ」
「魔王は知っていたんだよ、女神の魔力が尽きかかっていたのを」
「まさか!」
「そう、それが禁断の秘術だよ」
禁断の秘術。
「それを今、三田川は……!」
「女神はかつて、魔力を使い果たしたと思わせておいて秘術を用いた。
自分の持つ魔力以外の力を魔力に変換して攻撃し、魔王を地の底に封じ込め、そして自らも遠い世界で眠りに付いた……それはどんな歴史書にも共通して記されていた」
女神様でさえ禁術扱いだった魔法を、ただの女子高生が使っているのか!
「まさしく最後の切り札だったからね、とても使える魔法じゃなかった」
「だからこそ禁断の秘術か。それがでもなぜ」
「マサヌマ王国は信仰の最も深い国だったから、女神様の書物も数が多かった。シンミ王国を含め他の国では失われたと言うか破棄したらしいけどね」
俺が執政官様とくっちゃべってる間にもその禁断の秘術を使う少女の姿は、本当に見ていてつらい。
そんな存在を、黙って仁王立ちしている事しかできない俺は…………
「ユーイチさん!私が付いています!」
それでも、セブンスたちの存在があれば耐えられるかもしれない。
仲間の思いを込めて、俺はじっと正面から飛んで来る攻撃をにらみ続ける。
すべては、この街のために。
三田川恵梨香を含む、みんなのために。




