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セブンスの秘蔵兵器

「……まあいい!!潰してしまえ、焼いてしまえ……!!」


 自由落下していたはずの隕石が、いきなりこっちに向かって来た。


「どうやって潰す気だ」

「減らず口を叩くな!灰すら残らないほどに、焼けてしまえ……!」



 冷めきった挑発に乗っかる程度には頭に血が登っている魔王に向かって再び抱き付こうとした程度には頭の冷めている俺から、魔王は逃げ出した。


「私は死ねない、この世界を!」

「10秒前と言ってることが違うじゃねえか!」

「こんな死に方をされたら勝ち逃げでしかない!私は、私の正しさを示すために!」


 支離滅裂だ。俺がむごたらしく、みっともなく死ぬことが目的だってのか。


「他人を悔しがらせ、泣かせることが目的か!」

「どうしてそうなる!何百回言わせる気だ!私の願い事は!皆が努力を怠らぬ世界!そのためにウエダユーイチ!お前を倒し!」

「静かにしろ!」


 口を開けば開くだけ、魔法を放てば放つだけ、ミタガワエリカの顔は歪んで行く。


 だがすべての攻撃は俺をハブり、大空に消えて行く。

「ああもううっとおしい節句働きども!」

 さらに俺の分身もミタガワエリカを後方から追い、包囲殲滅を企む。

 そちらにも魔法攻撃をかけるが、結果は変わらない。


「お前のやって来た事ってそんなんじゃないか、ずっと。見えない敵と戦って来て、自分だけ気持ち良くなって、そんで実際には勝ちも負けもしねえのに」

「私はこれまで!何度も戦って勝って来た!それと同じ事を!だから今度も!」


 ビームと、鉄の剣が飛んで来る。

 グベキのそれと同じ力を持った攻撃を、俺はやはり避けようとする事もなくかわす。

 後方から来た分身たちも同じ攻撃を受けながらもかわして迫っている。




 そして、後方から迫っているもう一つの存在。




「上田君!!」

「本当に大丈夫なの!」

「私は信じています!」


 隕石が迫って来ると言うのに、俺は何も反応する気になれなかった、




 不思議なほどの自信。


 これまでの実績。


 覚悟。




 そして、セブンスの声援。




 これまでどんなタイムを出しても得られなかった感情。




 そのすべてが、俺をいい意味で縛り付けていた。







 そして、




 すさまじい音が、耳を襲った。


 まるで害意のない、ただ破裂しただけの音から逃げるべく耳を塞いだ俺に、やはり害意のない、起きるべくして起きた爆風が襲い掛かる。


 耳を押さえたまま吹き飛ばされた俺が、何十メートルぐらい前方に移動したかはわからない。







 確かな事は、俺の体には傷ひとつ付けられなかったって事だけだ。







「隕石は、前方に……」

「上田君に向けて爆砕、爆風を出した……」

「爆発四散したわけではなく、散弾銃のように……その結果!」


 その気になれば狙った所に攻撃できるという訳かとか言う恐ろしさ以上に、この結果が何より嬉しかった。



「そんな馬鹿な、そんな馬鹿な……!」

「馬鹿も何も現実だよ、どんな手を使ったのか知らないがもう次の手はないだろ」

「うるさい!!」


 それでも、ミタガワエリカは最低限の打撃と停止時間で立ち上がり、二本の剣を手に突っ込んで来た。

「これ以上の!これ以上の!怠惰は許さない!」

「自爆してるような状態で攻撃をかけるなよ!」


 さっき散弾銃のようにおうぎ形上に広がった隕石がどこへ行ったか。


 言うまでもなく俺の後ろにいた存在、そう、ミタガワエリカ。俺をハブった隕石のかけらと爆風はミタガワエリカに襲い掛かり、ドレスをところどころ茶色に染めていた。


「私はまだ負けていない!まだ負けていない!」

「何と戦ってるんだよ!」

「労少なくして益を貪る輩!」

「遠藤の次元まで落ちる事はねえだろ!」


 搾取者を討伐するとかって崇高な使命に目覚めちまった遠藤幸太郎が、指名手配犯という名のチンピラに成り下がっていると知った時は本気で呆れた。その後もミタガワエリカの手先と言うか手駒同然に使われ、事もあろうにノーヒン市で倫子を監視する役になっていた事を聞かされた時には本気でめまいがした。

 労少なくして益を貪る輩、まあ実にわかりやすい敵キャラ様だ。兵たちの後ろにふんぞり返っているだけの輩がみんな暴君なら革命なんぞ実に楽だろうし、それに従う兵がみんな感情のない兵だったり面従腹背だったりすればなおさらだ。そんな都合のいい奴なんかどこにいるのか教えて欲しいぐらいだ。


「遠藤ならとっくの昔に行方不明だ!この場にいれば少しは役に立つはずだったのに!」

「辺士名はまだともかくお前と遠藤と剣崎にかける情けはもうねえよ!」

「情けがないって言うなら刀を抜け!」

「抜いてるじゃねえか、ほら」


 ミタガワエリカの後ろから、俺たちが襲い掛かる。


 刀を上段に振り上げ、斬りかかる俺の大群。


「邪魔!」

「それが通じる相手じゃねえだろ!」


 後ろ向いてを放ったビームはもちろん当たらず、次々と寄って来る真っ赤な俺にミタガワはなすすべがなかった。








「完全な形勢逆転であります…………」

「しかしどうも変じゃないか」

「何がなの市村」


 下から届く声。

 魔力のせいかよく届くみんなの言うように、確かに形勢逆転ムードではある。


 市村が言ったように、何が理由なのかがわからなかった。


「あの隕石の挙動と言い、ミタガワの攻撃と言い……」


 だが心当たりがない訳でもなかった。

 隕石という大規模戦略兵器のはずなのに、明らかに俺一点を狙った爆発。さっきにもまして激しくなったミタガワの俺への攻撃。




「ヘイト・マジック!?」


 その言葉が出るのは自然だったが、同時におかしかった。




 あれほどの魔法防御力を持つはずのミタガワエリカがなぜ、かかったのか。







「ユーイチさん!」




 その疑問を解決したのは、またもセブンスだった。




「その頭は!」

「モチヤマさんが拾ってくれてたんです!」


 楽しそうに声を上げるセブンスは、なぜか別人に見えた。




 その理由は、間違いなく、髪の毛。




 いつものより長く、そして鮮やかな金髪。







 間違いなく、ウィッグだった。




 かつて、遠藤が、付けていた。

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