セブンスは祈る
「三人のグベキは討ち取られたようだ。お前蘇生魔法でもあるか?」
「お前が、お前たちが……!」
ミタガワエリカの攻撃が止む事はない。
俺さえ討てばすべてが白から黒にひっくり返るように攻撃を放ち続け、MPを消費しまくっている。
「ここまで他人に迷惑をかけていったい何がしたいんだ、何人の魔物を殺し、何人の人間を殺め、何軒の建物を壊した?」
「この世界を、私は変える……!」
火柱、と言うか炎のビームを叩き込むミタガワ。
直撃したはずだった火柱は炎のリングになり、俺をハブる。損害は、汗を噴き出させた事だけ。
俺がいっその事抱き付いてやろうかと思い近づいていくと、また火柱が飛んで来て、また火の輪くぐりに化けた。
「触るな!汚らわしい!」
「俺は怒ってるんだぞ?俺がお前に抱き着いてお前が攻撃すれば、俺はお前の攻撃からぼっちになる。わかるな?」
空を飛べるようになった時から、この方法は考えていた。
俺へ向けられた攻撃が当たらずずれるのであれば、超接近戦となった時に俺をハブったらどうなるか。
答えは明白のはずだ。
(俺は俺なりに覚悟してるんだぞ?)
自爆攻撃すら無効化した自信もあったが、それ以上にミタガワエリカを許せない気持ちもあった。
絶対に勝てる方法。絶対に敵を倒せる方法。反則かもしれないが、取らなきゃいけないと思った。
速度と、ぼっチート異能と、抱き付き続けられるだけの腕力。
そして、相手の殺意。
これだけ揃わなければできないやり方でもあるが、同時に今しか使う時はないとも思った。
「そんなやり方で労働から逃げるの!」
「逃げてるとしたらお前の横暴からだよ!正義はお前のためにあるんじゃねえ、世界をよくするためにあるんだよ!」
「繰り言と逃げ口上と言い訳禁止!」
「そんな事を言うやつだから誰も付いて来ねえんだよ!お前は民主主義の国に来るな!」
言っても無駄だとわかっているが、口を閉じる気にはなれない。
今のミタガワエリカは三田川恵梨香ではなく、魔王ミタガワエリカだ。
クラス全員で帰るとか言ってみたが、今の彼女ならば殺すのもやむを得ない、って言うかいっそその方がいいとさえ思っている。
「お前のやっているのは独裁政権だよ……三人も見張りを立てて俺たちをにらんで……誰も自由に物を言えない社会がどうなる?お前はわかるだろ?」
「私は違う、私は世界のために、私でもできたのに……」
傲慢さと自己評価の低さが入り混じった口上。
勤勉と謙虚とか言うカッコいいもんじゃなく、うぬぼれと卑屈。
聞く者全てを幸福にしない、聞き苦しい戯言。
ミタガワは逃げながら火の玉を投げ付け、俺を焼こうとする。
MPを無駄に浪費し、町を無駄に壊して何がしたいのか。
「ミタガワエリカ!」
後ろではエクセルが快速を発揮してミタガワエリカに迫る。剣は抜いていないが、それでも動体視力を上回るほどの動きにミタガワエリカさえも反応しきれない。
「何を!」
振り返ったミタガワの胸を両手で突き、体勢を崩させる。
圧倒的な防御力があろうとも、打撃ではない圧力には弱いのかもしれない。その間に俺は一挙に迫り、ミタガワエリカに抱き付こうとする。
「私に、媚を売ろうなど!」
ミタガワエリカは全身を鉄の箱に入れ、エレベーターのように下降し出した。
グベキが使えるのならば自分が使えるのは当たり前だ、とでも言わんばかりに守りを固めた彼女。
「狙いは!」
急降下爆撃の行く先はどこか。とにかく犠牲をゼロに近づけねばならない!
「私が避けます!」
鋼鉄の箱に囲まれていても、視界はあるはず。まっすぐ落ちてるわけじゃなく、どこかを狙っているようにジグザグに落ちている。
セブンスは豪語するが、俺は対策がわからない。
執政官邸?セブンスたち?それとも?
だがそんな悪い想像が浮かび足が止まる中、いきなりミタガワエリカがクレーターに向けて落ち出した。
「チョット、ソンナ!」
「カラダガトマラナイ!タスケテクレ!」
「ニゲロ!イヤ、ツッキレ……!!」
クレーターの真ん中に、わずかに残っていたスケルトンたち。
そのスケルトンたちに向かって降りて来たエレベーターは、たった一人のエレベーターガールの手によって、行き先を決められていた。
忌まわしき存在を、一人でも多く葬れる場所へと。
「ギャアアアアア……!」
落下の衝撃で中から分解したそのエレベーターの放った衝撃波は、残っていたスケルトン全ての命と、彼女がかつてもっとも深く恨んでいた存在を多数葬った。
真っ赤な血を流し、爪を折られ、ワンワンではなくクンクンと泣き喚く、赤く光る少女たち。
エレベーターから出てその少女を焼いたミタガワエリカの手には、魔法とは違う熱量が込められていた。
完全な、無駄撃ちの熱量が。




