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グベキたちの最期(三人称)

作者「とうとう500話目だよ」

上田「登場人物紹介などが入ってるから正確には違うけどな」

 ヒラバヤシリンコ。




 その名前は三人のグベキたちに取り、もっとも忌むべき名前であった。


「まったく……なぜどこまでミタガワエリカ様を悲しませ怒らせる……!」

「ここであったが百年目だよねーって」

「斬る……!」


 三人とも、狼の耳と尻尾と牙を生やした事以外特筆すべき点のない少女をにらみつけた。




「彼女はまったく悪気なく場を弛緩させ、努力する気を奪う存在です。彼女は徹底的にその存在をわが手により清めねばなりません。

 そう、彼女に努力せねば生きる事さえできぬ場を与えるのです……」




 ミタガワエリカが慈悲深くそう呼びかけた時、自分たちもそうしたいと願い出、自分がやるからと却下されたのは悲しかった。

「ウエダユーイチは敵!ミタガワエリカ様の慈悲を踏みにじる敵!」

 だがそれだけに主がぬくぬくと生きていたトードー国から救出してあげた時は内心から嬉しく、そのいるべき楽園から誘拐したウエダユーイチたちの行いを心底から憎んでいた。


 くのいちのグベキが言う前もなく、二人も攻撃を開始する。

「生意気!」

 ヒラバヤシリンコ以外にも立ち上がっている兵たちに向けて、次々とビームや剣を投げ付ける。


 兵たちに犠牲を生みながらも爪を立て続け飛び込まんとするリンコに悪態を付きながら、少女は血を流しながら剣を作り、投げる。

 だが狼女の爪牙は迫り、右腕に三本の傷跡を作ってしまう。



「あまーい、あまーい……」


 あおりとも悪態ともつかない調子だったが、もし振り切っていれば死んでいたかもしれないほどの攻撃を、ヒラバヤシリンコは止めてしまった。


「聞いているわ、ここから北西のナナナカジノで」

「その時あたしは、あの山賊を使ってウエダユーイチを屈服させるつもりだった!それなのにぃ!」

「孤児と偽ってまでそんな事、しなくてもいいのに、あなたはもっと別の」

「あたしはただ、この世界を変えるために!」


 青い液体が、肌から流れ出している。


 そんな液体を出す生き物がどんな生物か、ヒラバヤシリンコはすでに知っていた。


「その甘ったるさ、それこそあのお方が一番憎む物……」

「まさかあなたも」

「全てはミタガワエリカ様の天下のため!


 くのいちのグベキが忍び刀を振るい、爪を弾き返す。

「オホホホホ……」

 不意打ちにも体勢を崩さないリンコだったが、そこに第三の矢が飛んでくる。


 およそ似つかわしくない笑い声と共に放たれる細く鋭いビームを避けた先では、受け止めようとした兵士が盾もろとも撃ち抜かれていた。


「なんで逃げたの?逃げなければ無駄に犠牲者を増やさなかったのに、本当悪い子ね……」


 それでもリンコの目は全く死んでいない。

「私はあなたたちを救いたい、それが上田君の思いだから……」




 この冒険で改めて感じた、誰か一人への気持ち。


 その彼の願いを、自分の力で叶えてあげたい。


 だから、その彼の望みを……!



「私は要求する!今すぐ矛を収めて、主の暴走を止めてと!」

「だから言ってるじゃん、そーゆーのエリカ様大っ嫌いだってね!」

「好き嫌いはダメよ!」


 再び爪を伸ばし、豊満なグベキを狙うように目線をずらす。


 その先に何があるのか、悟られぬように、狼女はじっと身構えた。



 そして!



「皆さん!」


 彼女は動かないまま、攻撃を開始した。



「ああもう!壁作っちゃうよ!」


 兵士たちに、先ほどまで投げられまくっていた剣を投げ返させた。


 自分が作った武器から身を守るべく少女はあわてて壁を作ったが、性急になった分だけ守りが甘くなった。


「ううっ……!」


 今度は左腕に、重篤な攻撃を加えられた。



「ヒラバヤシ殿!」


 槍騎士トロベによる、高速の一突き。

 彼女の鎧もすでにあちこち剝がれ落ちている状態だが、それでも槍の冴えだけは変わらなかった。


「しかしこうも壁を作りまくれる物だな、力の消耗も半端ではなかろう」

「私の力、私たちの力は無限なの!」

「そうか……?」



 必死に声を張り上げる少女を守るかのようにビームが飛んでくるが、勢いがない。

 トロベが余裕をもってかわすと共に、また別の得物が打ち手に向かって飛んで来た。

「何……!」

 その得物は弾き返さんとしたくのいちの反射神経をあざ笑うかのように飛び、ビーム砲の打ち手の頭蓋骨に攻撃を加えた。


「もう、許さない、あたしたちの!邪魔をするのはぁ!」



 仲間の青い血を見た少女は自分のそれを顧みず、また鉄の壁を作り上げた。今までで一番金属らしく輝き、かつもっとも硬質なそれを作ろうと。

「全部、全部、弾き返して、やる……!!」


 肩で息をしながら、地面から金属の壁を生やす。




 だが、その壁は輝きと、大きさばかりが肥大化し、あとは何も伴わなかった。




 そして、彼女の敵はそれに気付かない人物ではなかった。




「これなら!!」




 トロベの右肩から突っ込むタックルが、できたばかりの壁を揺るがす。




 そして、トロベの視界を開く。




「ああ、ああ、やだ、やだー!」


 死に物狂いで立てたはずの壁が、自分たちに向かって倒れてくる。

 なんという真似をしてしまったのか……!


「震えている場合か!」


 悔やむ少女がくのいちに手を引っ張られて巨大な壁の倒壊から逃げる中、三人は忘れていた。




 少女がいかにたくさんの武器を投げていたのかを……




「あっ……!」




 逃げきったはずの所に飛んで来た、一本の剣。




 喉元に突き刺さったその凶器、自ら作り出したその凶器により、少女の人生は終わった。




「おのれ……!」




 くのいちは仲間の仇を討つべく激しい音を立てた少女の遺産の上を走った。


 狙いはあのトロベとか言う騎士。


(この中の一人で良い…………!)

 ヒラバヤシリンコ、いや誰か一人でも取らねばおめおめと帰れるはずもない。


 速度を全開にし、鈍重そうな騎士を狙った。



 だがそのわき目も振らぬ突進が、彼女の視野を狭めた。




「覚悟ぉ!」




 いきなり体が持ち上がり、気が付くと宙を舞っていた。




 わずかに赤く濡れた柔道着の少女の一撃は、青い血を流していたくのいちの軽い肉体を放り投げ、ある場所へと着地させようとしていた。



「あら、いやだ、敵は、どこかしら……」




 その場所にいた存在は、唐突にやって来た敵を、迎え撃った。




 闇夜に鉄砲とでも言うべき乱発でいいと言う事をすっかり忘れ、ついうっかり狙いを付けて打ってしまった。




「ああああああ…………………!」




 その敵の正体が何なのか、妖艶な肉体の美女は撃つ瞬間まで気付かなかった。




「何てこと、私は……!」

「ごめんね!」




 その彼女にとって幸運だったのは、同じ名前をしたくのいちの同僚を血も残さず光にしてしまったショックを、味わう時間が短かったことだろう。




 ついさっきその彼女の頭蓋骨を砕くほどの打撃を、それよりさらに大きな得物によって加えられ、その一撃により即死したのだ。




「ごめんねリンコ……やっぱり救えないよ……」

「いいの、オユキ……」




 金髪美女を砕いた氷のハンマーを持つ陽気な雪女も、さすがに少しばかり気まずそうだった。


「戦いはまだ終わっておらんぞ、そうだなオオカワ殿!」

「そうね……」


 くのいちを投げ飛ばし、結果的にとどめを刺した少女————人殺しの経験などなかった少女・大川弘美もまだ戦いが終わっていない事を知っていた。


「勝利はほどないかもしれない。だが、遠いかもしれない」

「あとはあの二人に託す、か……!」


 とは言え、戦場ははるか遠く。

 魔法の力のせいか見える事は見えるのだが、実際にはあのノーヒン市のビル並みの高さの位置にある。




 その高さの空を舞う、一人の男。




 そして空を舞わせている、一人の少女。




 二人への思いを込めながら、四人の少女は祈った。

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