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上田裕一の戦い

再び「ウィザード・T」名義です。

「うおりゃ!」

「はいよ」


 おいおいやめてくれ、この上田裕一を傷つけるのは無理だって言ってるだろ。早く帰った方がいいんじゃないのか?

 女の子も見てるんだぜ?



「ほれよっと」

「フン、情けない剣士だな!噂はでたらめか!?」

「それよりさ、ここは引き分けっつー事で」



 さっきからずいぶん剣を振りまくってるけどな、ぜんぜん痛くねえんだわ。

 まあ俺の振る剣だってぜんぜん当たらねえからどっちもどっちなんだけどな。


 ったく、イケてる顔して案外乱暴なんだから。


「まあまあ、ちょっと落ち着いて。俺はただの」

「うるさい!こんな風に俺の技をかわしまくるやつが弱いわけあるか!俺はわかるんだよ、お前を今倒せばずーっと自慢できるってな!幼い顔して相当な手練れだろ!」

「へたれの間違いじゃねえ?」



 もし俺が、ほんのひと月前まで人間どころか野菜すら切った事がねえって言ったら、この必死こいて汗だくになってる方はどんな顔するのかね。

 しかしこの、剣って奴は重くてかなわない。敵さんはずいぶんな速度で振りやがるよな、本当。




 まあ当たらねえけど。




「もうやめてよ。ユーイチさんにそんなに斬りかかって何がしたいの!」

「さっき言っただろう、こいつは絶対とんでもない一流になるって!」

「だから引き分けで十分だろ、どっちも当たらねえんだから」

「ええい、これまでにしてやる!必殺!三段突き!」



 おいおいこれまでにないスピードで剣を振って来やがったよ!



 うわっと、おっと、ひゃーっ!



 なんとか身をよじりながら、この頭に血の昇っちまった奴の攻撃をよける。あぶねえ、かすってようもんなら俺たぶん血だらけになってたぜ。



 でもなんとかかわし切ったおかげで、相手の奴は完全に息が上がっちまった。


 どうやら、逃げ切れたみてえだな、ああ疲れた。



「ああもう、この攻撃でもダメか……」

「じゃ、いいか?」

「帰れ、だけは許さんぞ」

「じゃ殺せっつーの?」

「俺はさっき何と言ったっけ?」

「俺頭悪いから忘れちまった、もう一回頼むわ」

「だからそういうことだ!」



 もちろん大ウソだ、お前の命を頂きに来たって言ってたよな最初。



 それでいつものように攻撃をよけてたら「命を頂く」が「勝てば名を上げられる」になり、そしてこうして負けを認めるように剣を投げ捨てちまった訳だ。


「でもさ、命もらっても後味悪いからよ。金くれ」


 それが一番いい。昔っから冒険者っつーのは金と引き換えに魔物や悪い人間を倒すのがお仕事だろ?

 まあ俺はそんなもんじゃねえけど、ただの村の守り人っつーとこだけどさ。




 っつー訳で挑戦者様から銀貨百枚もの報酬を頂いて、俺はまたいつもの家に帰る。これがだいたい、この村の月収半月分に当たる大金だ。


 その大金を革袋ごと握りしめて、見た事もねえ木が立ち並ぶけもの道同然のとこを行く。これでも一日かけて整備したつもりなんだけどな、彼女と一緒に。


「ユーイチさん、今日も強かったですね」

「スタミナだけはな。セブンス、俺の事をよく知ってるだろ?」

「はい、その上で強いと思っています」


 セブンスは今日もこげ茶色のワンピースを揺らしながら歩く。正直彼女のために今の俺はこうして剣を振っているようなもんだ。


「最近じゃようやく認めてくれたみたいでさ、一応村の守り人なんてもんにさせてくれてる。そのおかげでようやくまともな、安定した給料がもらえている」

「ずっとここで暮らす気なんですか」

「まさか、と言いたいけどそれもありかもな」

「そんな!もったいないです!」




 セブンスはいつもこうだ。

 まったく何にも知らなかった俺の事をそれこそ全面肯定、端的に言えば惚れちまったように付き従う。ったく、今日はまだともかく日ごろから俺がヒモ同然の状態だっつーのによ……。







 この小さな村に俺が来たのはもうひと月前になる。その時にたまたま出会ったのが、このセブンスって女の子だ。


 この剣は彼女からのもらい物であり、俺が今着てるよくわからない動物の皮で作られた鎧だって一応俺の稼いだ金で買った物ではあるが、それを買うための金を稼げたのは村の守り人なんてもんにしてくれたセブンスのおかげだ。


「なあ、こんな事正直ゴメンだろ?」

「いいえ、ユーイチさんが今日のように戦ってくれるのならばもっといい暮らしができるはずです」

「だからっつったってよ、お前ここから出た事ないんだろ?俺もだけど」


 俺と出会うまでは食堂でウェイトレスっつー名の雑用係をしてたセブンスは、正直飯づくりがうまい。したくもなかったけど命のやり取りをしちまった後のせいか、えらく今日の飯はうまい。


「俺は今日みたいにまた関係ねえ奴に狙われるかもしれねえ。その場合はお前を置いて」

「何考えてるんですか!その場合は私も一緒に行きます!」


 飯を食い終わった俺が皿を片しながらこのひと月で三度めになるこのセリフをこぼすと、その度に小さな顔に血の気をたぎらせる。ったく、本当におかしなもんだ。







 学ランなんて言う、見た事のねえ服を着て出くわしたっつーのに。

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