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あと30万!

「生意気……!」

「駄々をこねるのもいいかげんにしろよ……」


 ともあれセブンスが習得した超快速魔法で一気に距離を詰めた俺が見たミタガワエリカの顔は、さっきよりもっともっと歪んでいた。


 何が生意気だか、同い年の分際で。気に入らない事があると、すぐさま雷魔法という名の暴力に訴えるくせに。

「お前の怠け心を叩き直すためならば駄々でも結構……」

 空気が薄くなったからでもないだろうが、ますます論旨が乱暴になっている。


 理想をかなえるためならば何でもする。ああ、聞こえがいい。

 だがその犠牲はまったく頭になく、全てを破壊しても飽き足らないとしたら。


 しかもその責任を、その対象になすりつけるとしたら。


「敵を倒してレベルアップして、それでゲームクリアだなんて、そんな簡単な話は現実に存在しねえよ」

「黙れ、ヒキニート予備軍の仲間……」

「レッテル貼りをして考えようとしない方がよっぽどヒキニート予備軍だよ……」


 努力。勉強。修練。


 それってできるできないの問題だってのに、するしないになってる。

 金がない。体が付いていかない。その他の理由でしたくてもできない人間なんて山といる。




 そして、心が付いて行かないってのもあるだろう。


 俺だって箱根駅伝という夢を目指して人並み以上に練習しているつもりではあるが、日本全国の一流ランナーのタイムを見るたびに自分にできるのかって挫折しそうになる時もある。



 だが、ミタガワエリカにはそれがわからない。


 できるようにしてやったのに、なぜしないのか。それはお前が怠けているからだ。

 そんな奴は要らない。自分はできるのに、なぜおまえはできない。




「……………………」

 口を開いても無駄だとでも思ったのか、無言でレーザーの雨を降らせる。


 ぼっちらしく口下手な自覚はあるが、それでも俺は自分なりにコミュニケーションを取って来ようとした。そんでぼっちらしく毎回反応は薄かったが、それでも一向に構いやしなかった。


「俺はこの世界に来て赤井や市村、セブンスやトロベなど多くの人間と仲良くなれた。お前はどうなんだ」

「怠け者の言葉は聞かない」

「黙れだの聞かないだの、それこそコミュ障じゃねえか。まあお前そのまんまか」


 倫子以下のクラスメイトたちに、罵詈雑言を吐いたり喧嘩を売ったりする形でしかコミュニケーションを取れない人間がコミュ障じゃなきゃなんなんだ。


「消えろ……!」


 レーザーの雨が廃墟のようになったミワキ市を更地にせんとする。


 人間も、魔物も、シンミ王国軍も、魔物軍もない。無差別攻撃。



「方向がさすがに違いすぎるんだけどー!」

「ミタガワ様は、全てを焼き尽くしてでも勝つつもり……」

「じゃああたしたちもやるしかないわねぇ」


 そして、グベキたちにも。


 あのコロッセウムの大爆発の後、北西方向に逃れていた三人は当初エクセルを狙っていたが、今のエクセルはセブンスの力で空に浮きミタガワを攻撃している。


 それで目標を失い半ばやけくそのように暴れまわらんとした所に飛び込んで来た、フレンドリーファイア。



「敵発見!」

「あれがミタガワ様が憎んでいた犬女?」

「ワンって鳴いてよー、ねえねえー!」


 そしてその三人の新たなる目的、それは倫子。


 なぜ、彼女をそこまで三田川恵梨香は憎んでいたのか。

 とても優しくて、ペットショップの店員にふさわしいはずだった少女を、なぜ人格否定するレベルで責め立てたのか。


「リンコ殿を守れ!」

「何をほだされているのかなぁ……!」


 三田川恵梨香の完全なる手駒である三人のグベキたちもまた、その感情を隠そうとしない。


「上田君!」

「倫子!」

「私からの贈り物……受け取って!」




 倫子はボロボロになっていた服を顧みることなく、黒い長方形を投げ付けて来た。




 職業:賢者

 HP:100578/100578

 MP:300000

 物理攻撃力:12543

 物理防御力:46228(デフォルトは11547)

 魔法防御力:46256(デフォルトは11554)

 素早さ:12864

 使用可能魔法属性:炎、水、氷、土、風、雷、闇、光

 特殊魔法:ステータス見聞・変身魔法・偽装魔法




「30万……!」


 この数字に、俺たちは一気に勇気づけられた。


 負傷者とがれきで溢れかえり輝きが失われていた町に、どこか活気が戻った気さえしてくる。


「浮かれるな!」


 ワフーやザベリではなく、ミタガワからの声と共に落ちる雷。


 どこまでも子供の駄々のような攻撃。


「さあ来い!俺には、今の俺には仲間がいる!お前にいるのか!」

「ぼっちめが……!逃げ回るような存在しかいないくせに……!」

「逃げ回ってくれる奴がいる事の素晴らしさ、お前にわかるのか」

「私は、この世界を変える!」


 代わり映えのしない攻撃。向きが俺でなくエクセルや東側に向いた所で、何の変化もないというのに。


「ソンナ、ソンナァ……」


 降り注いだ氷の刃が引き裂いたのは何なのか、答えはあまりにも明らかだった。


「ううう、なぜ屈しない……!」

「お前の負けだ!ミタガワ!」

「私は、私に、禁断の秘術を使わせるのか……!」

「禁断の秘術だろうと何だろうと、お前を俺たちには止める義務がある!」


 刀をあえてやたらめったら振り回し、ミタガワの周りを切り続ける。

 ヘイト・マジックはまだ生きているようだが、それでも心を揺さぶるのに十分な事は火の玉が証明してくれている。


 攻撃を加えるべきがどっちなのかもわからないまま、ステータス表示とか以前にヘイト・マジックにかかってしまっている人間にはわからないのかもしれない。




 一つの決着が、付こうとしていたのに……。

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