コロッセウム大爆破!!
「次の一撃はとんでもない物になるであります!」
「どうせよと言うのですアカイ殿!」
「これよりございませんであります!!」
赤井たちは、逃げ出した。
ブエド村の方へと、南ロッド国の方へと、シンミ王国本城の方へと。
「ウエダユーイチ……これがお前の正義?」
「お前の正義は他人を巻き込むのか」
「私は誰よりも隣人を愛している…………その隣人に最大の可能性を与えるために今こうしてその愛を阻む存在を滅せんとしている…………」
まったく、愛だとは!
確かに根源は善意かもしれない。あふれるばかりの善意をもって、立派な存在に育てようとしているのだろう。
「全軍、逃すな……!」
「了解!」
だがその善意に率いられた軍勢の動きには、悪意しかなかった。
まず本国に向かわんとしていた軍勢を三人のグベキが襲う。
エクセルの攻撃にひるむことなく先回りを計り、傷を負いながらも次々と鉄の壁を作って進行を阻み、その上でさらにビームを放つ。
「逃さないよ!」
「そこを通せ!」
「やだよーだ!」
強行突破すれば壁が現れ、ビームが飛び、手裏剣まで来る。
「通せ!」
結局コロッセウムの真西で足止めされた一行の悲痛な戦いに、幻影の俺たちは必死に介入する。
そんな俺たちに放たれたビームが、一人の俺を捉えた。
「あ……!」
全く狙いを付けていない攻撃だった故に、当たってしまったのだ。
当然ながら幻影の俺は消し飛んだ。
「うう、ウエダ殿でさえも敗れるのか!」
「何を言うか!ウエダ殿の分身はまだたくさんいるのだぞ!」
「とは言え……!」
これが士気を低めてしまったのか、兵の皆さんの足が重くなってしまった。
セブンスの名前を呼びたいが所在が分からない。
東側かと思って首を振ると、襲来時の半数になったドラゴンナイトとスケルトン以下地上の魔物たちがその一団に襲い掛かっている。
(くそっ……ヘイト・マジックにも欠陥はあったのか……!)
ヘイト・マジックとは攻撃を集中させる魔法であり、その効果は分身にも及ぶ。
だからヘイト・マジックが通じるレベルの魔物が、俺の分身を狙っても全く不思議はないって事か……!
いや、普段なら好都合だが……!
「まさか!」
「そう……!今度こそ、今度こそ、この一撃で……!!」
ブエド村にて見せられた、巨大な火の玉。
「ご、じゅう、まん……」
倫子らしき声が聞こえる。
五十万————。
それがもし本当ならば素晴らしいと言いたいが、肥大化して行く火の玉を見る度に汗が噴き出る。
「そんな攻撃で何をする気だ!」
「私は……お前を、お前を守らんとした全てを、消し飛ばす……!」
すべてを消し飛ばす!
だができなくもなさそうに見える。
村ひとつ簡単に壊せそうなほどに肥大化した火の玉。まるで太陽をそのまま投げ付けるほどの力を持った火の玉。
「何を考えている!」
「お前の、いや全世界の目を覚まさせるために、これは必要な犠牲……!!」
「ふざけるなバカ!」
ああ、ミタガワエリカの頬を手甲で殴り飛ばして止めさせたい!
だが、あんな凄まじい防御力の持ち主を殴ったらどうなるか、答えはあの時すでに分かっている。
(害意があるとすれば俺がミタガワエリカに対してだからな……!)
手が痛むだけではない、手甲が壊れるだけでも済みそうにない。
手が折れるかもしれない。
「分身よ!」
その言葉にこたえるように分身がさらに数を増やし、東南の肉壁を断ち切らんとする。
だが、南の巧みな守りと、東の決死の防衛を突破しきれない。
「消えなさい……自分の、怠惰の罪を、その罰を……思い知りなさい……!」
魔王ではなく、神罰を下す女神のような口調になったミタガワエリカを目の前にして、俺はもうなすすべもなかった。
ぼっチート異能はあっても、ターゲットを砕く力はない。
ましてやヘイト・マジックが効く相手でもない。
「ミタガワァァァァーーーー!!」
そう叫びながら胸倉を掴もうとしたのが、最大の抵抗だった。
そんなごまめの歯ぎしりに付き合う暇もないとばかりにミタガワはさらに上空へと逃げ出し、隕石のように降って来る火の玉を迎えていた。
「頑張った者には栄光の未来が……怠けた者には絶望の明日が……」
正義に陶酔するその下で、申し訳程度に貼られた防御魔法や氷壁など薄紙のように破った隕石——————————————長距離弾道ミサイルとでも言うべき超兵器は着陸。
「うわああああ……!」
「コ、コロッセウムがっ…………!」
「アアアアア……!」
「回復魔法をぉぉ!!」
「魔王様……そんなぁ……!」
「爆風に身をゆだねろ、下手に抵抗するとコロッセウムの残骸に当たるぞぉ!」
秒速数十メートルの強風に、コロッセウムの残骸である岩の横殴りの雨。
その誇るべき施設であった存在がミワキ市を襲い、これまで被害のなかったはずの東側や南側まで焦土に変えようとしている。
(俺はまだ、甘く見てたって言うのかよ……)
台風とか言う生易しい代物とはまるっきり桁の違う、文字通り戦争の跡、いや痕。
コロッセウムのあった場所周辺が、まるっきりクレーターと化した。
半径数十メートル、いや百メートル以上かもしれない。
それでもなお、颶風も熱気もまた、宙に浮いていた俺をハブっていた。
「これが罰だ……怠け者をかばい続けた、罰……!
わかったなら腐敗の根源たるウエダユーイチを殺し、全力を賭して美しき汗水の流れる世界に戻すよう尽力するのを誓うことだ……フッフッフッフッフッフッフ……アッハッハッハッハッハッハッハッハッハ………………」
下々の連中に向かって高笑いする女子高生。
そんな存在を目の前にして、俺はただじっと廃墟と化した町を眺める事しかできなかった。




