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世界一きれいで、世界一汚い涙

 地上でも戦いは進んでいる。


「その気になればミタガワはいつでも攻撃をかけられる!」

「固まるとまとめてやられるぞ!」


 魔物たちの悲しい攻撃を受け止めるように将兵が散らばり、バラバラに攻撃を加えて行く。

 回復がかかっているので数は減らせないが、それでも全員で必死に攻めている。



 実はこれも俺の作戦だが、やっている側も正直大変だと思わずにいられない。


「皆さん!」


 その俺の心の声に呼応するかのようにセブンスは俺の幻影を次々と魔物たちに差し向け、魔物たちと打ち合わせている。

 幻影が分身になり、予測しきれない攻撃をかける。


 ドラゴンナイトに飛びかかり、羽の先っぽを傷付け、さらに指の根本や上に乗っているナイトの兜など、どうでもよさそうな所を狙う。


(ミタガワエリカの趣味嗜好はもうわかってるんだよ……)


 どんなに傷ついても、必死に歯を食いしばって向かって行く。それがミタガワエリカの理想とする存在であり、彼女の認めた国民なんだろう。


 ましてやそんな存在をいたぶるような奴は巨悪中の巨悪であり、今すぐ八つ裂きにしてしかるべき存在。


「来たぞ!」

「逃げ散るのであります!」



 だからこそ、みんな痛めつけては逃げ散るを繰り返している

「しかしミタガワエリカの魔法……!」

「町を徹底的に焼き尽くす気か…………ああ、まったくどこに住む気だ!」

 ワフーさんとザベリさんにも大変申し訳ない思いをさせている。

その過程でミタガワは建物を焼き、町を壊している。俺も人のことを言えないが、どれだけの人間が泣くかだなんて全く考えていない。



 ほら来た、巨大な岩。


 誰も押し潰す事の出来ないまま鎮座する岩と来たら、ただただ迷惑なだけでしかない。


 その上に雷魔法。もう焼けるような木もない状態だが、それでも地面を無駄に焦がしている。

「回復……回復……!」

 その上で回復魔法をばらまき傷を癒し、突撃させる。

「武器ガ……!」

「素手で行け、奪え…………!」


 指導者としての不適格ぶりを遠慮なくまき散らす敵将に向かって俺は斬りかかる。もっとも直接当てる気もなく狙いは剣だったが、その度に敵は魔法を使ってくれる。


「どうして、どうしてサボるために戦おうとする!」

「お前は何のために皆を最大限にこき使う?」

「全力を引き出させてこそ幸福がある……中途半端では何も叶えられない……!」

「根性論で何が変えられるんだよ」


 体力は回復しただろ、さあ行け。戦えないのはやる気の問題だ。

 お前らはできないのか、私はできるぞ。




 こんな風に―——―。




「おっと!」


 だがビームを投げ付けた先にいたはずの一人の剣士が、くのいちのグベキの喉元に剣を突き付けていたのには俺も驚いた。



 エクセルだ。


「悪いけど、ミタガワエリカ!お前を倒して名を上げさせてもらうぜ!」

「その意気は良し……されど、その意欲、より鍛えて鋭くせんと欲するなら我が元に付け」


 エクセルはこれまで見た事もないような快速ぶりを発揮し、三人のグベキの間を駆けずり回っている。

「何これ当たらない!」

「まったく、突っ込んだと思ったら急転換……」

「忍びより速いだと…………!」

少女は金属の盾と剣で、熟女はビームの先打ちで、忍者は忍び刀で戦っているようだがどうにもうまく行かない。


「よそ見をするな!」


 もちろんそんな風に悠長なことをやっている俺におしおきが来るのは言うまでもない。


 氷の弾丸が体中に穴をあけるべく迫って来る。時速150キロはありそうな高速ストレート。打たせないためでなく、ぶつけるためだけにやって来る。


 その球が戦争の熱気に包まれて消えるまでの間に、俺は五発剣を打ち込んだ。



「なぜ、なぜ殺せない!」

「殺してどうする気だ!」

「この世界を、働き者だけの世界に!」

「バカかお前は!」

「馬鹿とは何だ馬鹿とは!」


 煽る。魔法が来る。ハブられる。


 この繰り返し。


 その間に地上ではエクセルの活躍もあり魔王軍の戦力が削られている。


 もちろんオユキの氷の刃により次々とペンダントが斬られ、ヘイト・マジックの効果を受けてしまった魔物が俺に向かって来る。


 その度に俺はまた天然のヘイト・マジックをかましながら刀を振るい、犠牲者を増やさせる。



 あまりにも退屈な戦いだ。




「こんなのは、間違っている……!」


 確かにその通りだ。攻撃をかけてもかけても、傷ひとつ付けられない。


 正しい事をしているはずなのに。なぜ、勝てないのか。




「それはお前が正しくない事をしてるからだよ」







 他に何の言いようもない。


 俺一人を排除するために部下をこれだけ率いて、全く関係のない町を破壊する。

 きれいごとだとわかっているけど、それでは人心は付いて来ない。


 ましてや前魔王を殺した以上、前魔王を慕っていた存在からすれば仇でしかない。

 そんな軍勢を率いて攻め込むなど、寝首を搔かれてもまったく笑えない。


 ましてや魔物三人を日本史に残る残酷極まるやり方で処刑するなど。それで言う事を聞くのはただ破壊や戦闘ができればいいだけの戦闘狂か、ミタガワエリカの失脚を見越して次の魔王の座を狙っている面従腹背の徒か、それとも恐怖政治に支配されているかのどれかしかない。




「アアアアアアアアアアアア……!」


 自分の行いを否定された存在が、喉の奥から声を絞り出している。


「私は、私は、私は、正しい……!私は正しいのだ!!」




 魔王の顔から、涙がこぼれ落ちた。




 世界一きれいで、世界一汚い涙が。

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