ぼっちはおめーだよ!
死体すら残らないほどの出力で放たれた光線の雨。
地面に敷かれていた岩さえも表面が削り取られ、砂のようになっている。
そしてコロッセウムは原形こそ保っていたが北西側の壁は全壊、その向こう側の壁も打撃を受けている。
多くの人間が心血を注いで作ったはずのもんを……!
「まさかこれもすべて俺のせいだとか言わないよな」
「言うに決まってるじゃーん!それがミタガワ様なんだよねーん!」
視界の開けた中で俺に向かって剣を作り出しては投げ続けるグベキ、見ている分にはいたいけな少女は殺人行為を楽しむかのように攻撃をかけ続けている。
親の顔が見てみたいと言われても全く言い返せない外見の少女は、親の名を汚すように笑いながら殺傷兵器を投げ続ける。
ペンダントの鎖っぽい物体だけを首に引っ掛けた魔物たちの遺体。俺が直接やった奴は一匹もいない。
トロベや市村たちも倒してはいるのだが、これまでこの四人が作った実績とは違いすぎる。
「上田…………」
「そちらの軍勢も打撃を受けていたようだが」
「確かに倒しても倒しても向かってくる軍勢にいら立ちもありました、ですがそれ以上に彼らの戦いぶりは異常であります」
「異常」
「まるで逃げたら死ぬとでも言わんばかりであります…………」
同士討ちと言うか背中討ちのような形で散ったはずのスケルトンとドラゴンナイトだが、それでも残っている魔物たちはまだ向かってくる。
ヘイト・マジックにかかった相手が必死なのはわかるが、ヘイト・マジック用の防備を施していたはずの魔物たちまでとなると話は違ってくる。
「ススメ、ススメ!」
「ウテ、ウチツクセ!」
「ウエダユーイチヲコロセ……」
スケルトンの顔に皮膚があれば、目の下に隈を作っているか冷や汗を流すかしているだろう。
「我々は、ここにお前たちを殺しに来たのだ……!」
「一人残らずやってしまえ……!」
ドラゴンナイトも次々と降下して来る。コークやバッドコボルド、ガーゴイルについてはもう言うまでもない。一兵たりとも残すなとばかりに突撃して来る。
「ああもう、邪魔しないでよ!」
「おいたはダメだって言ってるでしょ……」
それがグベキたちの攻撃にかぶるんだからひどいもんだ。
「こんな軍勢を率いて何がしたいんだよ…………!」
「努力不足の軍勢を率いて来た私の失態……お前たちをなめていた罰か…………」
「努力ってのは絶対の魔法じゃねえんだよ。手に入れた国の国民ひとり動かせないで何が魔王だよ」
「一刻も早く、お前たちの不摂生を正したかった!だからこうして焦ってしまった、訓練に訓練を重ねてからでも遅くはなかったのに……!」
腹立ち紛れに雷を落とす姿はもうまともな人間のそれじゃない。俺や赤井たちに向けてならばまだともかく、その必要のない建物ばかりに。
また町が燃え出し、焦げ臭さが立ち込める。
「戦争ならどこだってできるだろ、なぜここを選んだ……」
「お前がぬくぬくとしているから、それが唯一最大の罪……それ以外に罪はない………………」
「俺が一体何人をこれまで斬って来たと思っている。初めてゴブリンを斬った時には三日ほど引きこもったぞ……」
「そういう世界から来たのであります、我々は……」
「元からその甘さが気に入らなかった………………」
その甘さって言葉さえも、ミタガワエリカにとってはただの武器なんだろう。
甘いの一言で他者を叩き、自分を責め、努力を促す。
倫子をホームレスに仕立て上げたのさえ、彼女なりの歪み切った愛情の一環なのかもしれない。自分はどれだけ苦しくても立ち上がって来たんだ、同じように這い上がれって千尋の谷から突き落とす愛情のつもりなんだろうか。
「ああ気に入らねえでいいじゃねえかよ……………………」
だが結局、他に言いようがない。
どんなに苦労をしても自分が認めない限り怠惰の烙印を押し、愛情という名の暴力を行い、従わないと嘆き、潰れてもなお見捨てようとしないので喰い付く。
「そんなんだから上っ面だけしか従ってくれねえんだよ!いつまで強いかわかりゃしねえのに」
「私はこの力をもって、弱くなる前に皆が努力を惜しまない世界を作る……その邪魔をしするな」
黙れ以外の意味を持たない雷魔法が帰って来る。もうひるむ気にすらなれない。
「ああわかったよ、お前は俺以上にぼっちなんだな」
そして、答えはこれしかなかった。
「お前は圧倒的なポテンシャルをもって相手を支配し、あるいは逆に支配されることでしか人間関係を作れねえんだな…………これまでも、今からも。
その上に圧倒的な力を持っているってんなら、お前は元から人間とは別の生き物だったんだよ。俺やオユキと違う世界の、違う生き物だって……」
人間と○○は友だちにはなれない―——―なんて悲しいフレーズだけど、今思うとそうかもしれない。
俺がもし人間じゃないからぼっちだって言うんならあきらめもつく。
そして、三田川恵梨香がぼっちなのもそうなら納得できる。
「ぼっちは、お前だよ……」
人間じゃない生き物。
悪いけど今のミタガワエリカはもう人間じゃなく、ミタガワエリカと言う生物だ。
類似した種はいるけど、同種類の個体はいない。
「お前は、お前の世界で生きろ……俺たちの世界に来るな……」
俺よりもぼっちな奴がいるとは思わなかった。思って来なかった。気にしてなかった。
灯台下暗しでもないが、こんな近くにいるとは思わなかった。
文字通りの異世界の住人が、ムーシ田口とは全く桁が違うほどに、住む世界が違いすぎる存在が。




