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暴虐なる少女

 あまりにも醜悪な主従を何とか討ち取るべく、俺は必死に前を見据えながら進む。



 独裁者と、反逆者を取り締まる秘密警察。

 さもなくばAIと監視プログラムを組み込まれたロボット。




「こんなん真っ当な人間のする事じゃねえよ……」

「真っ当な存在とは、汗水流して戦う人間の事……お前は違う」

「真っ当な人間が暮らすために社会はあるんだろうが!」


 一日百時間働くような人間が真っ当だって言うんなら、俺は真っ当な人間じゃなくていい。


「私は、この世界を知っている。努力に努力を重ねた事により、ひと月どころか二十日足らずでCランク冒険者にまで成り上がれるほどの世界……」

「Zランクが二十日でCランクかよ……どうしてその力をまともな事に使おうとしなかった……」

「おててつないでみんな仲良く、それが私だって望み。でもそのためにはその列をぶち壊すような輩はいてはいけないの……ずっとどれだけ苦しんでいたかわかりもせず……」


 Cランクってのはそれこそ生涯をすべて注ぎこんでも無理だって言う事はトロベからも聞いている。ランクアップのために五十年以上冒険を重ねて来た冒険者の行き着く先がせいぜいIランクであり、Cランクともなるとその上に数百単位の魔物を狩り国家ひとつを作れるレベルの単位の功績がなければならないらしい————————基本的には。

(それでもやる所はすぐにやっちまうとかも言うけどな……)

 もっともランクアップを決めるのはご当地のギルドのギルドマスター様の裁量ひとつなので、キアリアさんのような真面目なそれもいればクチカケ村やシギョナツのような明らかで片手間でやってますか満々なのもいる以上あてにはならない。


「グベキたちさえ倒せないのに威張るな……せいぜい怠惰を悔いながら、ひとりぼっちで死んで行け…………」

「世界のためにお前だけは斬る!」

「殺せ……あの怠け者男を殺せ…………」

 

 その間にも剣が飛んで来て俺の側をすり抜ける。

 質より量、当たればよしのでたらめな攻撃が今は何より恐ろしい。


 足を踏み出そうにも距離は詰まらず、無限とも思える手裏剣の壁が分厚く立ちはだかっている。時々にビームで間違って消されることもあるが、そんなのは何の慰めにもならない。




 そしてついに、ほとんど動けない俺にまっすぐ向かった剣が刺さってしまった。

「ちょっと!スケルトンまで、何でこっちくんのー!」

「どうやらペンダントを斬られたようね、まあごくわずかだけど」


 ————俺に向かって来たスケルトンに。




 ガーゴイルもコークもいなくなったのに、今度はスケルトンが突っ込んで来たのだ。


 どうやらヘイト・マジックにかかっていたスケルトンが来たらしいが、これもまた好機である事に変わりはない。

 この生ける屍と言うか生ける盾を利用して前進するべく、一気に足を動かした。

「まず!第一の標的は!」

 俺は第一の標的に向けて、その敵の攻撃の根源へと走った。



「おのれスケルトン、裏切り者め……」


 だが敵は全く容赦がない。俺の狙いをすぐに見極めたかすぐさま俺を取り囲むスケルトンに向けて狙いを定め、流れ弾をぶつける事を狙い出す。

 たった一人のためにいったい何人を犠牲にする気か、費用対効果ガン無視の乱暴な作戦、横暴な取り締まりだ。




 そしてその暴虐に対する反抗の手は、あまりにもすぐやって来た。


「うわっ!」


 その声と共に手裏剣が止まる。


 好機だとばかりに飛びかかった俺に向けて一本の剣が飛び、直角に落下して手裏剣に当たって金属音を立てると同時に、俺はのしかかりを決めていた。

「ぐぐぐ……!」

 決して軽くなかったはずの俺の攻撃を受けたくのいちは歯を食いしばりながらのしかかりから抜け出し、自分の刀で斬りかかる。だが当然攻撃は外れ、さらに傷を負う。

 その傷はすぐさま塞がるが態勢を崩したままであり、俺がついに刀を抜いて斬りかかるが逃げる事もできず身をよじるばかり。


 ついでに顔の布も解け、顔もあらわになった。


 予想通り冷たく光る眼に、やけに輝く眉。口は一文字に結ばれ、悪い意味でロボット的な顔面。

「むぐ……!」

「お前は許さん……」

 俺が平べったい言葉のまま第二波の攻撃をかけようとすると、お仲間を救うかのようにパチンコ玉と光線が飛んでくる。

 もちろん当たる事はない。



「ぬぬぅ…………!!」



 だが次の一撃は違った。唸り声と共に次々に俺に向けて落ちる雷魔法。

 その一撃が手裏剣という名の金属を通して地面に伝わる。


「うぐ……!」


 ダイレクトでなかった分ダメージは知れていたが、それでも痛い物は痛い。



「なぜ、逃げる……!」

「それは私が上田君を信じているから!」


 その怒声に対しダメージを受けなかった女性がさっとスケルトン集団の方へ向かって取って返すと同時に、またスケルトンたちが多く死んだ。


「あの女は何千度言い聞かせても行いを改めない腑抜けの権化の女……!」

「お前が負わせた過剰な負荷で潰れかかってただけだろ!」

「事あらばすぐに気を抜き、むやみやたらに場を弛緩させる空気をまき散らす……あれほど危険な存在はいない!世界中をなあなあで包ませ、発展と進歩を遅らせる……!」

「お前にとって倫子はたかがひとりの女子高生以外の何なんだよ!」


 スピードを生かした一撃離脱。黒い忍び装束に付いた棒状の傷。


 ミタガワが狙っていたのはその傷の主。


「私はお前を見逃しても!あの女は見逃せない!腐敗を巻き起こす存在を……!」

「うるさい弱虫毛虫!」

「弱虫だからこそ強くなるために動く!それを怠らせる存在は排除する!」


 俺に聞かせたような重たさはない、ただ鋭いだけの声。



 その間にも前面から飛んでくる黄色いレーザーが俺へと向かって来たスケルトンを呑み込み、さらに鉄球もこっちに向かって来たドラゴンナイトのバランスを奪う。

 自滅と言うか同士討ちを楽しむ暇もない、振り返る事もしたくないし音も聞きたくない。



 おそらくコロッセウムはとっくに崩壊し、がれきの山になっているだろう。音が聞こえないのは単に時間の問題なだけなのか、俺が現実逃避してるからなのかはわからない。


 だがすでに町並みはかなり打撃を受けている。


 火事、その後の氷による洪水、それに単純に刃傷沙汰による流血。


「フハハハハハ…………怠惰の二文字と共にこの世から消えろ!!」







 そしてグベキが放って来たそれの数倍の太さのレーザー。


「危ない!」




 とか言う声が間に合う訳もなく、多くの兵士もモンスターも光になって行く。




 標的である平林倫子を殺すためだけに、自らつぎ込んだはずの精鋭をも殺す。




「お前……一体何人を巻き込めば気が済むんだ…………!!」

「降伏しろ、さもなくば死ね……!」




 お前らのせいだ。




 お前らが言う事を聞かないからこうなるのだ。




 知れば知るほど、醜くて薄っぺらいな理屈だ。

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