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一人相撲(三人称視点)

「おおおおお!!」


 ウエダユーイチとグベキたちが戦っている間、ドラゴンナイトが叫び声を上げながらシンミ王国攻撃に向けて突っ込む。


 スケルトン軍団も隊伍を組み、武器を正確に叩き付ける。



「進め!引けばより多くの住民が死ぬと考えろ!」


 シンミ王国軍も負けじと刃を振るう。


 先鋒には東から来た槍騎士トロベが立ち、これまでのすべてを吐き出さんばかりに攻撃をかける。


「お前たち!」


 槍が一閃するたびに多くのスケルトンが押されて後退し、中にはバラバラになる者もいる。

 当然の如くスケルトンたちも反撃するが、そこに横槍という名の援護が入る。

 その攻撃によりまたスケルトンは体勢を崩し、犠牲者が生まれる。


「クラエ!」

「シネ……!」

「コウゲキ、コウゲキ……」


 それでも立ち上がれるスケルトンはすぐさま立ち上がって突撃し、前進してくる。

 自ら一歩も退く事もなく前進と攻撃を繰り返し、目の前の敵を討たんとする。




「わかってるんだよねー!」


 そのスケルトンたちの後方に向かって、氷の刃が降り注ぐ。


 オユキの氷魔法による攻撃。


「キカヌ……!」

「バカメ……!!」

「ナニガ、ワカッテイル……ダト!」

 

 魔法防御力を強化していたスケルトンたちは笑いながら前進し、さらに攻撃を仕掛ける。実際、オユキの氷魔法はスケルトンにほとんどダメージを与える事はできなかった。だがオユキに一向に動揺する向きはなく、攻撃を続ける。


 スケルトンたちの攻撃には剣だけでなく弓や魔法も混ざり、シンミ王国軍の命を奪わんと欲する。


 だが、命中しても命中してもシンミ王国軍はひるまないで反撃してくる。


「負けるな!進め!」

「王子様も見ているわ!」


 トロベの両脇にはワフーとザベリ、偽装とは言え夫婦であった二人の得物が唸る。



「スケルトン!押されているのか!」

「我々も加勢する!」


 戦況の異変を掴んだドラゴンナイトたちが横撃をかけんとしてくる。


 市村正樹という名のパラディンの剣を受け翼が切れていたドラゴンナイトもいたが、それでも爪牙が健在ならば構うものかとばかりに兵士たちに突っ込む。



 だがそのドラゴンナイトの頭に、いきなり何かが落ちてくる。


 それにより一騎のドラゴンナイトがバランスを失い、主は投げ出されてスケルトンたちを押し潰し、さらに主を失ったドラゴンは半狂乱で攻撃を開始。

「ア、オイ、ヤメロ!」

 

 確かにシンミ軍も打撃を受けたが、それ以上にスケルトンたちを倒してしまうという体たらくである。



 もっともこの最大の原因は、大川弘美という名の一見孤立しているように思えた存在に単身突撃して掴まれ、平気として利用された一匹のスケルトンにあるのだが。

 ちなみにその大川弘美は赤井勇人という名の僧侶から能力を高められ、スピードもパワーも守りも本来よりかなり高くなっている。



「くそ、アカイとやらを狙え!」


 そういう訳でオーカワに力を与えたアカイに向かって攻撃をかけようとするドラゴンナイトたちだったが、思うようにドラゴンが動かない。

「どうした!あの要を討ち取らなければ!」

「死にたいのか、お前死にたいのか!」

 切羽詰まった声でドラゴンナイトたちがドラゴンを促すが、逃げるように一般兵たちに突っ込んで行くばかりだった。


「ドラゴン突入!」

「突入と言うか乱入だ!提携も取れていない!一歩後退!」


 そんな攻撃は冷静な指示によりかわされ、スケルトンばかりに損害が生まれる。


 では従ったドラゴンはと言うと、次々にそれ以上の打撃を受けていた。

「魔法は効かない?そんな事ないよー」

 とぼけた口調で張られた氷の厚い壁、透明性を高めた見えない壁に次々と衝突、そのまま墜落したドラゴンが続出したのだ。


 その間にもオユキは氷の刃をスケルトンたちに張り巡らしている。




「テキ、ツヨシ!テキ、ツヨシ!」

「ウエダユーイチ、ネラエ……ウエダユーイチノマエニ、マケタクナイ……」

「ススメススメ、ヘイタイススメ……ニゲルコトナドユルサヌ……」

「ええいひるむな!ドラゴンよ、氷の壁を砕いてしまえ!」


 そんな一方的とまでは行かないにせよ魔王軍不利の状況の中、誰一人としてひるむ事なく攻撃を続けてくる。

 すでにウエダユーイチの強さを知っているはずなのに弱音を吐く事さえも許されず、たただただ無駄とも思える衝突をしてくる。


「スケルトンの数は」

「意外に少数です、およそ我々と同じ」

「だというのに存外しぶとい!」


 そしてなかなか数が減らない。追い詰めても回復し、いくらでも攻撃をかけてくる。倒せたと言えるのはとどめをさせた数十匹であり、瀕死の重傷でも回復して来る。人間たちがわずかに心を乱される中、魔物たちはなおも迫って来る。


「ア、コラ、ニゲルナ!ニゲルナドオマエハバカカ!」

「ウエダユーイチヲタオス!ウエダユーイチヲコロス……!」

「ナラヨシ、ナラヨシ…………!」


 たまに部隊を離れるスケルトンがいても、上田裕一討伐という理由ありきで逃亡とか後退とか言う発想にはならない。


 ひたすらに前進か、攻撃。猪突猛進とでも言うべき戦いぶり。




 だがその戦いを支えていたのは、魔王への忠誠心でも自分の力への自信でも、ましてや回復魔法の力でもなかった。

(コロサレル、コロサレル、コロサレル…………!)

 スケルトンの多くは、しかばねのはずなのにそんな事で頭がいっぱいになっていた。



 大半のスケルトンは、急に上空からやって来て魔王の座をつかみ取った存在に対して全く把握してなかった。

 一部その簒奪者に向けて攻撃を加え前魔王の元へ旅立った存在はいたが、あまりにもあっという間な攻撃の前に彼らは何が何だかわからないまま新魔王の軍勢として組み込まれ、さらにシンミ王国攻撃という役目を与えられたのである。


 だからこそそのままの、前魔王の時と同じでいいやとか気楽に考えていたスケルトンたちに取り、書庫を担当していた三人の魔物の処刑は深く心をえぐった。



 今でも上空から魔王は次々と自分たちを癒している、おそらくはどんな女神よりも慈悲に満ちた顔をして。



 しかしそれはひるめば怠惰の二文字により切り捨てられ、ただ殺されるだけでは済まないと言う意味でもある事をスケルトンたちはすでに理解してしまっていた。


 もちろんそれはドラゴンナイトたちも同じである。


「我々に逃げるなどと言う言葉はない!」


 ドラゴンナイトの勇壮というより悲壮な言葉が、ミワキ市に鳴り響く。


 


 だがそれが、彼らにとって第三の敵に弱音以外として届く事はないのだ。

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