世界征服宣言
漆黒のドレスに灰色の光、そして左手には魔導書と思しき本。
何よりも、鋭くとがった上にカラコンのように赤く光る眼。
「ウエダ、ユーイチ……」
さっきのうれしさをこらえる様な笑い声とは150度ぐらい違う、聞くだけで背筋を寒くするような声。
「ミタガワエリカァ!」
俺も負けじと真っ赤に輝いた首を上げ、ミタガワエリカを全力でにらみつけた。
そのミタガワの後ろに続く魔物の大軍。あっという間にこれだけの存在を掌握したのか。
「なんで生きてるの」
「なんでも何も見ての通りだ」
「私はさんざん言って来た、立派に努力して成長する喜びを味わう事こそ人間の役目。それを放棄するような輩は粛清する…………」
まるで口調さえも本物の魔王になっちまったみたいになっている。
フーカンが言っていた身内には優しかったらしい前魔王の姿はどこにもない。
「どうしてわからない?後から来た人間に追い越され、泣くのが嫌なら努力しろ」
「偉ぶっていても元ネタがばれてるんだよ」
「そうして知識を得る事もまた学を得る成果……それを怠るような存在を私はこの世界から消したいだけ……」
消えて行く言葉に、本気がにじみ出ている。
ガーゴイルたちの攻撃音を遮るほどの声で放たれた一撃の重さは、ぼっチート異能関係なく胸に向けて突っ込んで来る。
「あの世でみっともなくああすればよかったこうすればよかったって思う事を選ぶだなんて、まさに変態……」
「変態って言葉は投げ付ければ相手を絶対に殺せる切り札じゃねえんだよ」
「私は、お前を救いたい、お前のような奴でも、まだ救いたい……」
「お前の言ってることはサンタンセンから、いや最初から全然変わってねえな」
どうして勉強しろ勉強しろと同じ事ばかり言えるのかって話はよく聞く。それはどうしてもそうして欲しいから言い聞かせてるんだってのもわかる。
だがあまり言われすぎると悪い意味で慣れちまって雑音扱いされて耳に入らなくなる。どうせ同じ事しか言わねえんだからで聞き流されるわけだ。
「本当にお前、学問を積んだのか?山とある本に触れて考えが変わったとかないのか?」
雷が落ちて来た。
地雷を踏んづけたというのがわかる結果だが、やはり岩を焦がしただけで終わった。
「私は…………お前を許さない……学問をさげすむその姿勢を……」
「さげすんでるのはお前のやり方だよ。お前の正義のために学問はねえんだよ。学問ってのは真実を伝えさせるため、理解させるためにあるんじゃないのか」
「真実?それは環境への適応を果たしたものだけが生き残るって事。
ちょうどよかった、こんな素晴らしい世界があって……こんな力を手に入れられて…………」
恍惚とした調子が混じり出す。
三田川エリカ
職業:賢者
HP:100578/100578
MP:1999000
物理攻撃力:12543
物理防御力:46228(デフォルトは11547)
魔法防御力:46256(デフォルトは11554)
素早さ:12864
使用可能魔法属性:炎、水、氷、土、風、雷、闇、光
特殊魔法:ステータス見聞・変身魔法・偽装魔法
いきなり浮かんだステータス表示。
たったあれだけの時間で、さらに膨れ上がっている。
「これはすべて学問の力……学問があればこそ人は強くなれる……努力は絶対に私を裏切らない…………」
だけど、醜い。口から飛び出す言葉と同じように、醜く膨れ上がっている。
「セブンスは言ってたよ。お前の事をバケモノだってな。魔物とも違う、別個の生物だって。俺もそう思うよ。
お前は人間じゃなくなってもいいのか。
人間、いや真っ当なコーコーセーおよびシャカイジンじゃなきゃ意味のねえお勉強をやりまくって来たんだろ?」
「忘れてなどいない……でも、この世界を永遠に発展させる礎もなしにが帰れない……まったく当たり前でしかない…………無責任なぐうたらとは私は違う…………」
「俺からの最後通牒だよ、今すぐ矛を収めろ」
「バカも休み休み言え……」
もうすっかり男言葉になっちまってる、ミタガワエリカ。
いや、そんな要素を差し引いても、もはや人間とは思えない。
俺からの最後通牒に対しての、わかり切っていたとは言えあまりにも重く冷たい言葉。
その間にも完全に俺のせいとは言え部下であるはずのガーゴイルが数匹同士討ちで傷ついているってのに、本当いい気なもんだ。
(口から吐いた言葉を飲みこむ気はねえけどな……)
始まりの終わりか、終わりの始まりか。
「永遠に、後悔しなさい……いや!させなさい!!」
いよいよ、ミタガワエリカの本格的な攻撃が始まった。
ガーゴイルをも巻き込むように火柱を次々に立ち昇らせ、ミワキ市を火の海に変えようとする。
町がリョータイ市と違う意味で赤く染まり、目を背けたくなるほど醜くなって行く。
そして俺にも攻撃が来る。
だが俺に突っ込んだのはレベルの低い魔物たちであり、強い魔物は俺には寄って来ない。具体的に言えば前者がガーゴイルやバッドコボルド、コークで、後者がスケルトンやドラゴンナイトだ。
(おそらくヘイト・マジック対策のアクセサリーでも付けてるんだろう……)
北ロッド国もあるはずなのにどうやって来たかわからない魔物軍を受け止めながら、俺はミタガワが俺を狙ってくれるのを待つ。
攻撃が次々に重なりと言うかダブり、同士討ちという名の自滅をしてくれる事も狙う。
なんとも受け身なやり方だが、それしか方法がない。
「私たちに任せて!」
「頼むぞ……」
幸い、赤井たちも強い魔物に当たってくれている。もちろん狙いはミタガワだが、まずは敵を減らさねばならない。
「これは戦争だ!ひとりで勝とうなど!」
トロベの槍が風を切り、スケルトンの喉骨を突く。
あんな細い所をよく攻められると感心していると、よそ見をするなとばかりに目の前にまた火柱が立つ。
暑い。
目の前で魔物がうめいているのにそれしか出てこない程度には俺もおかしくなっているのかもしれない。だがそれでも負けるわけにはいかない。
この火柱に巻き込まれガーゴイルが散って行くのを見極めた俺は、折られたくなかった刀を抜いた。
コークたちも正面から突っ込んで来る。まずはこいつらを!
「ん!?」
と思いきや、いきなり右側から来たコークが倒れた。
背中に、何かが転がっている。
青い血で濡れた……
「パチンコ玉!」
銀色のパチンコ玉が、三々五々転がっている。
中にはコークの肉体にめり込んでいる奴まである。
銀色の玉が青く染まり、むしろ赤い血よりも痛々しい。
「まさかこの攻撃は!」
「その通り!」
俺の予想的中をほめるかのようにコークの群れをかき分けるように飛び降りて来た少女。
黄色いドレスに金髪を流し、両手の指を激しく動かしている少女。
「グベキ!?」
そう、あのグベキだった。
「お前、なぜここに……!」
そして驚く暇もなく、二発目、攻撃が来た。
「手裏剣!」
左側から飛んで来た、火柱で焼けた手裏剣がさっきのパチンコ玉で負傷していたコークの頭に刺さり、さらに青く染める。
さらに!
「ああ……」
そのコークたちを呑み込む光の奔流。
全部背中か横からの攻撃による犠牲者の増大。
「何がしたいんだよ」
「それはね、アナタにお・し・お・きする事……」
むやみやたらにセクシーな真っ赤なドレスを着た、言い方は悪いけどスラム街に似合いそうな女が投げキッスを飛ばす。ぜんぜん魅かれねえ。
「ゴッシ様、いやミタガワ様の無念を晴らす!」
そして火柱をくぐり抜けるように飛んで来た、黒い服で顔を含め全身を覆っている女。
そう、三人の「グベキ」が揃ったのだ。




