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悪鬼襲来

「悪いけど、死はもはや目前にある。

 かつてのロッド国との戦争の時、我が国の兵士たちが戦った相手は異形の魔物じゃなかった、ただの人間だった。その同じ人間たちを、かつての兵士たちは斬った。殺した。

 どうして殺したか?それはね、自分たちがそうした方が幸せになれると思っていたから殺したんだよ。そしてその幸せってのは自分たちだけじゃなく相手の方の幸せも含まれている」


 またジムナール執政官様は演説している。


 さっきとはまた違う、より胸に来るような演説だ。


「田口の力もあるとは言え……」


 田口が弁舌のうまさにまで貢献しているのかと思うとチート異能の恐ろしさを知った気分にもなるが、それでもあんなことを言えるのは紛れもない才能だと思う。


「これから私たちが戦う事になるのは魔王の直属軍、いやそれ以上に恐ろしいのはミタガワエリカという存在だ。

 彼女はまさしく、自分が相手を殺す事が相手にとって幸せであると思い込んでいる人間だ。彼女は殺戮に躊躇がない。殺すか殺されるかじゃない、従うか殺されるかだ!

 自分の言う事を聞かない存在は不幸になると心底から信じている。その前に助けてやりたいって心底から信じ切っている。魔物三人、無惨なやり方で殺したようにね!

 んー確か、体に火を付けて動けるんなら働け、それが嫌なら焼け死ねって言ったんだっけ?」


 壊れかけのコロッセウムで、時には激しく、時には優しく声を張り上げている。


「とにかくだ、このミワキ市の危機、いやこの世界の危機はここにいる我々と七人の英雄の手によって取り除かれなければならない!

 逃げたければ止めない。ミタガワが支配する世界は、逃げる自由もない世界だからね」


 また歓声が上がった。

 絶対に一つの正解しかない世界。その先に何が待っているのか。







 それは!




「来た!」




 コロッセウムの北側の家屋が、一瞬にして消し飛んだ。


「ユーイチさん!!」

「頼む!」


 俺はヘイト・マジックをセブンスにかけてもらいながら、コロッセウムを横目に走る。


 市村たちも、シンミ王国の皆さんも、ついて来ている。



「皆さんは魔物たちの相手をお願いします!」


 俺は俺にしかできないことをせねばならない。

(恨みたければ恨んでもいいよ……でも今のお前をこれ以上放置することはできない…………って言うか正直いい子ぶるのがカッコ悪い年だろお前も……)

 今さらどんなに文句を言われてもしょうがないことを俺はやって来た。

 そして今回、またさらに罪を重ねる事になる。


 正しいことを言っている奴を打ち砕くって言う。







 ————三田川恵梨香の言ってることは、結局正論でしかない。

 だがその正論を乱暴に通すからああなっているだけだ。


 自分は正しい事をしている、お前らが間違っているのだと信じたまま死んでいくのはある意味幸せなのかもしれない。

 だがその結果がこれだとしたら、本当にその正義を求めている人間は逆に走っちまう。




「ああ……」


 町が、焼けている。


 戦争で荒れ果て、復興したはずの町が。


「正義を掲げる奴がやる事じゃねえよ!」



 俺が一言吠えると、返事が早速返って来た。

「ウエダユーイチ!死ね!」


 多数のガーゴイルと言う名の。


「この!」


 俺はいつものように刀を振る。


 強化されているのかいないのかわからないが、いずれにせよやる事は変わらない。


「凄まじい数が集まっているぞ!」

「大丈夫だ!ウエダ殿にかかずって甘くなっている分を!」



 そう、いつもならばこうやって敵を俺に集めてみんなに討たせる。

「ダメです!」

 だが、今回はできない、

 現に市村たちも距離を開け、と言うか散らばっている。


「彼らはただの先鋒です!そんな相手より先に!」

「ウエダ殿は大将を!」

「我々の敵は魔物たち!騎士たるもの前線で命を惜しまず、そして将の名に忠実たれ!」


 ……ああもう!俺が吠えているのも聞かず兵士さんたちはガーゴイルを狩り出す。


 これがもしピコ団長さんの教育のたまものだって言うんなら俺はあの人の評価を落とすしかない。

 団長さんからしてみれば自分勝手に戦場から逃げ出すような奴を出したくなかったんだろうけど、その結果がこれじゃ報われねえ。


「早く逃げてください!」

「そのようなご無体な!」

「ご無体も何も!耳どこについてるんですか!」

「あな口惜しや!」


 またずいぶんな言葉で追い払ったものの、ガーゴイル越しでも悔しそうな顔が見える。

 敵に背を向けるような真似をするのは、確かに恥かもしれねえ。ましてや無傷でなんて。



 しかし、そんな常識など俺には関係ない。










 そして、俺と同じ世界育ちのはずの彼女にも……!!







「いかん!岩だ!」




 俺の真上から落ちて来た大岩。




 俺を押し潰すために降って来た大岩を上に、俺は刀をしまう事しかできなかった。




 果たして大岩は途中でコースが変わり、俺の左横の道路に数匹のガーゴイルを巻き込みながら突き刺さった。




 そしてそれと共に襲い掛かる、第二の魔法。




 いや、笑い声。




「ハッハッハッハッハッハ……アッハッハッハ……!!」




 ついに、彼女が来たのだ。




 クラスメイトだったはずの女三田川恵梨香、いや魔王・ミタガワエリカが。

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