魔王の毒牙
ユーセーというメイドさんの体を奪い取り、暗殺未遂の上に罵倒までして来た同級生のはずのミタガワエリカ。
彼女を通しても冷たい風を吹かせ、この場に集まった存在すべてを糾弾せんとしている。
「時にミタガワエリカ……もう一度聞くけど君は魔王となって何がしたいのかな」
「この世界を王道楽土にする事、それが私の夢!」
「魔物を三人も殺す事が?」
「ちゃんと回復させてあげたのにさ、疲れたとかって世迷言抜かすから」
口調に全く迷いがない。いつも通り、自分が正しいことをしているのになぜ糾弾されるのかわからないって言わんばかりの言い草だ。
「そんな事を繰り返していたら、動けなくなった時誰が守ってくれる?同じように切り捨てられるだけだよ」
「私が道を誤って怠惰に負けたらその時は潔く捨てられる。そのためにも今は内部の粛清を図り私の強き意志を伝えねばならない……」
「あのね、シンミ王国を作った人間はね、最強の戦士だったんだよ」
執政官様はセブンスに首根っこをつかまれているユーセーに向かってじっと話している。
「確かシンミ王国ってこの世界で最初の国だよな」
「ああ」
田口が言う通り、いわゆる四大王国の中で最初に女神が降臨したのがシンミ王国であり、この世界を作ったも同然の国だ。
(って言うかどうやったら国が作れるんだ)
最強の戦士とか言うけど、所詮一人の戦士がいっぺんに倒せる敵は一人。そんな事を繰り返していたら国とか以前に人生が終わる。
「彼はね、自分が駄目だと思った時はすぐさま他人に頼れる人間だった。そしてその他人が失敗しても自分が悪いとだけ言い、正確に敗因を分析できた。彼自身が最強の兵力だった事は紛れもない事実だけど、同時に仲間を信頼できたんだよ。
どうあがいたって一人の力は一人の力でしかない。一人がいかに優れていても一つの事しかできない。それを破れば確実に破綻する。
どんなに凄かろうともね、英雄にしか使えない剣は、英雄がいなくなった途端に無用の長物と化すんだよ」
英雄、と言うか優秀な人物が作り上げたアイテムなりシステムなりがどんなに強力だとしても、本人しか使えないなら意味がない。どんな存在でも使えるようなアイテムの方が結局は生き残るのかもしれねえ。
ミタガワエリカのポテンシャルを再現できるような奴はどこにもいねえ、いたとしてもそれこそ奇跡だ。
ましてやあそこまで不屈の精神力ともなるとそれこそ神サマの域だ。
「まあ単純なことを言えばさ、どうして自分は間違ってるかもしれないって思わない訳?なぜ自分がやっていることが絶対だって言えるの?」
「私は努力に努力、学問に学問を重ねて来た。それゆえに理想をつかみ、それを実行しようとしている。この世界で私がこんなに力があるのも、全ては努力のおかげ!その幸福を分け与える事の何が悪いって言うの!」
「まるでさ、何者かに誘導されているように思えるんだよね、君を見ていると。努力は大事だよ、でもあまりにもそれに依存しすぎている。かつて聖書にすべてをゆだね滅んでしまったマサヌマ王国のようにね」
「やめましょうよ、どうせ同じ事しか言わないんですから」
俺自身、もうミタガワとは話したくない。何を言っても怠惰の二文字で遮られ、その後はミタガワの独演会になるだけ。ブーイングが通じる事もなく、それこそ言論弾圧が始まるのみ。
「何をこんな所で突っ立ってるのよナマケモノの親分。ニート予備軍、腐敗臭のする無為徒食男、とっとと死ぬことがこの世界を救うたった一つの手段のゴミクズ」
「あのさ、そんなにいきり立ってちゃ顔が台無しだよ、もう少し落ち着いて」
「顔なんて言う先天性要素によって運命を決めるような理不尽をまかり通らせるのが執政官様のお考えですか、私は断りますけど。まあ顔をよくするために努力するのはびた一文否定しませんけど」
「そんなに口の悪いことを言うのに何の意味があるの?」
「そんなことを言われたくなければ努力する姿を見せなさいってだけですよ、ああこのウエダとかって男にはもう何も期待してませんけど」
「だからさ、もう泣くのはおよし」
執政官様の口調が、完全に子どもをあやす親になっていた。
確かに三田川は、子どもだった。
教室でもこの世界でも、どこまでもお子ちゃまであり、自分が正しいと思っている理屈を泣きわめき、受け入れられないと駄々をこねる。
尻尾を逆立てている倫子を無理矢理ノーヒン市に追放した件だって、全く力ずくのわがままでしかない。
「世界中を支配できるのならば、みんなに本気を出させることができるのであれば、私はいくらでも泣くわよ!」
「その話が通じているように見えるのかよ……」
「黙って死になさいこの怠惰大好き生物!」
「議論もできないやつが賢いわけがあるかよ、赤ん坊かお前は」
一方的にわがままを喚くだけの奴の言葉が通らない事など、民主主義以前に人類の基本じゃないだろうか。それをガン無視してここまでやれるなど、それこそ赤ん坊の行いだ。
「お前に必要なのは知識じゃなくておしゃぶりと哺乳瓶じゃないのか」
俺はとっくに切れていたはずだった堪忍袋の緒を、完全にぶち切った。




