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松倉勝家

平林「これがエイプリルフールならいいんですけど……」

「ははーん、魔王軍の側近だった訳ね」

「はい……」



 フーカンという名前の1メートル強の大きさのドラゴンは本龍の希望によって執政官邸の中でワフーさんとザベリさんによって縛られ、その上でまるで捨てられた子猫のように救いを求めている。


 あまりにも哀れすぎて、みんな乱れた衣服のまま震えている。



「それでどうして南から?」

「実は、その…………魔王様は……」

「魔王ってどの魔王?」

「あのミタガワエリカに殺された、魔王様です……」


 目から涙がこぼれ、鋭い歯を食いしばっている。

 本当に悲しい思いをしたってすぐわかる。


「それで、ミタガワエリカに殺された魔王の幹部は君ひとりとは思えないけど」

「そうです、あと三人……」

「話してくれるかな」

「………………」


 執政官様が水を向けたけど、フーカンは辛そうに首を横に振っている。

(仲間の事を思うと…………な……)

 そんなことを言えばそれこそ仲間を人間に売ったも同然だ。俺だってミタガワエリカに秘密をベラベラ話す気にはなれねえのと同じだ。


「どうしたんだい。君は逃げられたけど、他のメンバーは殺されたとか」

「いえ、でも……」

「ミタガワエリカを有利にしたいの?」

「三人、とも……寝返り、ました…………」

「それで好物は何かな?」

「好き嫌いはありません……でもできればキノコが……」


 まさか三田川が魔物の幹部まで味方に付けるとは呆れる暇もなく、執政官様はフーカンの好きなメニューを聞き出してしまう。

「フフフ、噓偽りを言えるような存在じゃないね、やっぱり。ちゃんと公平に作るようにね」

「えっと……」

「えっとじゃないよ!」

「はい……」

 ユーセーさんは本気なのかよって顔をしてたけど、まあ予想の範囲内だよな。


「相変わらず大胆ですぅ、お兄様ぁ」

「何、こんなに強者がいるのに暴れるほど短慮じゃないだろ」

「見事な洞察力であります……」



 赤井の言う通り、本当に頭は回るし度胸もある。まったく、市村とこのジムナール様、どっちがイケメンかわかりゃしない。




 まあそんな訳で俺らと執政官様とムーシとお姫様とフーカンってドラゴンとお二方、合わせて十五名の食事が出来上がるまで第二の質問タイムとなった訳だ。



 そこで俺たちは、様々な情報を得た。




 まず残る魔王軍の三幹部は、首なし剣士のアト、召喚魔導士のフェムト、黒魔導士のジャクセー。

 アトはえらく好戦的でどっちかって言うとあまり激しくなかった前魔王をあまり慕っておらず、ジャクセーは無口だが戦争の時には相当な戦果を挙げたように好戦派だったらしい。

「でもフェムトは比較的ボクに近かったんで殺されているかと思ったんですが……」

「って言うかどうして来たじゃなく南から来たの」

「おじ、いや魔王様があのミタガワエリカと戦う前に魔法で万一の場合に備えて……」

「大した王だよね」


 執政官様の言葉にフーカンの肩がまた激しく震えた。

 魔王はあらかじめ家臣を逃した訳と言えば体裁はいいが、わざわざ甥を選んでとなるとやや話は違ってくる。


「あの、ちょっと……」

「いや何、フーカン。君はミタガワエリカを倒して魔王軍を再興したいんだよね」

「はい………………」

「そのためにシンミ王国の力を借りたいって言ってるんだよね」

「はい………………」

「でも魔王軍は明らかにミタガワエリカとは違う意志でブエド村に攻撃をかけていた。その事は間違いないかな」


 全く容赦のない連続攻撃だ。


 執政官様の舌が滑らかになり、黄色いフーカンの顔が青くなり、俺らの寝起きだった頭が一挙に冴えて来る。


 進んで弱い立場になっているとは言えドラゴン相手にここまで言い切れるなど、目の前のドラゴンがちっぽけなトカゲに見えてくるから困る。ぼっチート異能でもなければ即気絶もんの相手のはずなのに。


 ついキョロキョロしてみると、赤井も市村もドラゴン以上に執政官様を恐れている。トロベなんかは帯刀を許されたのか槍を小脇に抱えている。


「わかっています、ですから……もう一刻の猶予もないんです」

「と言うと」

「実はその………………昨日、魔王城の書庫で三匹の魔物が殺されました」

「なんで?」

「疲れ果てて作業が緩慢になったからです……」




 そして俺たちの顔は、そこで完璧に青く染まった。




「どうしたんだい」

「えっと、続けてくださいであります……」

「はい……二日で一万冊ある書庫の本をまとめよと言われ、わずか四人で……」

「無理だよそんなの」

「ええ……ですが全く話が通じず……疲れ果てていた所に強引に回復魔法をかけられ体力は戻りましたが気力が……」


 まずい。非常にまずい。


「それをどうやって」

「ガーゴイルが何匹か逃げて来たんですが、それが……言うには……」

「よほど酷い真似をしたんだろうな」

「ええ…………」



 フーカンの言葉を聞くたびに、胸が痛まずにはいられない。




 なんでも三人の作業を怠った魔物を縄で強く拘束し、さらに背中に火を付けて殺したのだと言う。

 熱くて暴れたもんだから途中でそれだけ元気ならばできるでしょうとかミタガワが言い出したもんだからやけくそになってミタガワエリカに突撃したが最後、炎の力を上げられてあっという間に消し炭にすらなれずに魂まで焼かれたらしい。




(あいつは本当何を勉強したんだ………………)




 ミタガワがやった事は、松倉勝家と言う人間と全く同じだ。

 とんでもない悪政をやり、島原の乱を引き起こし、最終的に幕府から首を斬られた人間と。

(ちなみにこの知識は赤井から教えてもらった)




「それをどうやって知ったんだい」

「逃がされた後も一部の魔物とは魔法で内部の状況が通じています……それでその調子ですでに百人単位の犠牲者が出ていると……」


 ミタガワ強襲の際に死んだ魔物たち以外にもそんなめちゃくちゃな犠牲者を生んで、いったい何をしたいのか皆目わからない。


「執政官様、これは昨晩考えた最悪の顛末とあまり大差ないお話であります」


 自ら怠惰な存在を見つけ、粛清して行く。それで残った真に勤勉な存在だけを残そうって腹なんだろうけど、それにしてもあまりにもむごすぎる。



「その話を私自ら広めておくよ、あとで一緒にその話をしてね」

「ありがとうございます……」

「でも内部の状況はどうなんだい、残った三人の幹部は」

「アトはあの性格ですからどうでもいい状態で、フェムトとジャクセーは何のリアクションもなかったそうです……」




 本物の魔王を目の前にして、俺たちは何も言えなかった。




「…………彼女を、止めます」

「頼むよ本当…………」


 執政官様までテンションが下がってしまう有様と来ている。




 で、それなりに豪華だったはずの朝食の味は、まったく覚えていない。


 本当、ミタガワにこのディナーの責任を取ってもらいたいぐらいだ。




 それでもフーカンだけはうまそうに食べていたよ、ああうらやましい……。

上田「やりすぎだと思わないのか……?」

作者「思いません…………ちょっとしか」

赤井「やっぱり架空戦記を書く気でありますか?」

作者「この作品は完結させるから!」

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