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亡命者はドラゴン!?

 翌朝。


 決戦二日前。



「もう目が覚めたんですか?」

「お前こそ早いな」


 俺が目を覚ました時には、まだ薄暗かった。起きていたのはセブンスだけであり、セブンスは実に彼女らしくきっちりと服を着ている。


「皆さんぐっすりと寝てますね」

「そりゃあれだけいろいろあったからな、昨日一日」

「今日は少しゆっくりして決戦に」

「ムリだよ、この町から大勢の住民を避難させなきゃならない以上、責任者である俺たちも動かなきゃならない。俺たちだけが突っ込んで的になれるならばどんなに幸福か」


 まだ到着して数日だが、ここでもともとロッド国王都であり、現在シンミ王国の重要都市だってのを思わせるぐらいにはいい町だってのはわかる。いろいろごたごたも多かったけど、それでも自己満足なんかのために壊していい場所じゃない事ぐらいはわかる。


「私のヘイト・マジックでは無理なんでしょうか」

「田口が力を込めてようやくだろう。もちろん執政官様に言って田口に力を貸してもらうように頼むけどさ、それでもそんな簡単には行かないだろう」

「ユーイチさんが気に入らないならば……って言うのは通じないんですね」


 だがミタガワにとっては俺に迎合する存在は、それこそ伝染病に侵された死体かなんかにしか見えないんだろう。

あるいはガン細胞が転移した末期症状の肉体か、いずれにせよもはや手の施しようのない存在。

(「部屋にこもって呪詛を吐いてるのはみっともないかもしれねえけど、今のお前よりはみっともなくねえと思うぞ……」)


 俺はぼっちなりに、たくさんの人間を見て来た。


 例えば俺が一秒でもタイムを縮められるのを喜ぶ中、赤井が新しいアニメの情報を得て喜ぶ。市村は己が芝居の上達を喜ぶ。

 喜び一つ取って見ても全然違う。そしてそれについてああだこうだ抜かす権利がいったい誰にあるって言うんだろう。


「なあセブンス……」

「何ですか?」

「俺と一緒にいられて嬉しいか?」

「もちろんです…………」

「でも俺と一緒にいたくないやつだっている。そんでどっちでもいいやつもいる」

「なるほど、わかった気がします……」


 俺に肩を寄せながら頬を赤らめるセブンスの顔を見てどう思うかも人それぞれだよな。

 本当微笑ましいと思うか、リア充爆発しろと思うか、なんだよこんな時分に浮かれやがってとか。でもどっちでもいいって人間も多いはずだ。



「それでどうする」

「朝ごはんの手伝いにでも行きますか」

「俺らは客だぞ」

「配膳ぐらいはできると思います」

「実にお前らしいな」

 

 トロベでさえもぐっすり眠ってる中起こさないように部屋を出て、とりあえずはまだ早いしと言う事で執政官邸を巡ってみる事にした。

 そっとドアを開け、なんとなく部屋から身体を出す。まるで家出でもしてるみたいだ。


「できればゆっくりとこの街を散歩でもしたいけどな」

「いいですね、ユーイチさんと一緒ならなおさらです」


 駆け落ちみたいなお話だ。

 まったくこんなロマンスみたいなことが俺の身に起きるだなんて信じられねえ。


「でもさ、今も町の人たちは普通に過ごしている。それを俺は見られない」

「そうですか……」


 その足を止めるのが仲間でも家族でもなく、飛び出すべき場所だってのがなんとも不思議なもんだ。


「これから俺たちはこの町の住民を巻き込まなければならない。それこそ多くの用意なんか大してできていない住民を追い払わなければならなくなる。戦争はやだとか簡単に言うけどさ、関係もない存在を巻き込むのは本当に胸が痛い。っていうか俺たちがゴーサインを出したようなもんだからな」


 自分のせいで何千人単位の住民を巻き込んでしまう。これが責任者って奴だって言うんなら、俺は生涯下っ端でもいいとさえ思えて来る。

執政官様の度量の大きさに感心するとともに、尊敬というか畏敬の念さえ覚える。


「優しいんですね、ものすごく」

「そう言ってくれるか……」

「私はたくさん死を見て来ました。ユーイチさんと出会う前も、出会ってからも……そのせいかわからないけど慣れちゃったんです」


 その点、セブンスは強い。俺たちよりずっと死ぬことに身近だったせいか、冷たいと言うより何もかも割り切れている。オユキやトロベよりも強いかもしれない。


「それでも私は、ユーイチさんと一緒ならばやれる気がするんです」

「ありがとうな……」


 セブンスが俺に向けてもたれかかって来る。あんなに強いことを言っているのに、すごく軽い。


 そしていつのまにか顔がこっちを向いている。


俺に向ける瞳はやけに熱っぽく、顔も赤みが増している。




「ユーイチさん…………」


 目いっぱい背伸びしながら、唇を突き出している。




 これは………………




 と思い、俺も少しだけ身構えてしまった。







「わーっ!」







 と言う所で飛び込む声にあわてて直立不動になった俺らに、叫び声の主が走りこんで来た。


「なんですかいきなり!」

「南から来たんです!ドラゴンが!」

「それはドラゴンナイトですか!」

「いや、ナイトは見えませんが!」




 とにかく放置することはできない!


 俺はあわてて部屋に戻って鎧を着て刀を持ち、みんなを叩き起こした。



「南は平和でしょ、それとも海からドラゴンとか!」

「しかしセブンス殿、えらく不機嫌そうだが」

「どうでもいいでしょう!」



 そして別の意味で顔を赤くしたセブンスが俺を追い越して先頭に立って門を開け、南の方向をじっとにらみつけていると、確かに一匹のドラゴンが南から来ていた。だがドラゴンナイトの乗ってるやつに比べると小さい。


「ユーイチさん、ヘイト・マジックを!」

「おい待てセブンス!」


 その感情を俺にぶつけようとしたセブンスを制止した市村は、その小柄なドラゴンの目をはっきりと見ていた。




「やめてください!」




「ああ、やっぱり……」




 そして、そのため息までもイケメンだったのに改めて感心した。







「えっ?」

「すみません、投降させてください!」




 眠そうな目をこすりながら出て来た執政官様の前で深々と頭を下げたドラゴンにはもはや、ひとかけらの敵意もないのがまるわかりだった。

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