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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第二章 冒険者デビューしてみた
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大川博美の「チート異能」

大晦日は大川博美主人公の外伝をお楽しみください。

 こんなにも、こんなにも、野草がおいしいだなんて。私は何も知らなかった、とか言う話じゃないわよねこれは。










 インターハイを目指して稽古に明け暮れていたはずの私が、急にどこだかわからない原っぱに飛ばされていた。

 アニメや漫画じゃあるまいしと思ったけど、本当に起こっちゃった。


 ここはどこなのと思う前に、お腹が鳴った。

 食いしん坊のつもりもないけど、この力を維持するにはどうしても食べなきゃいけない。一年生にしていきなりインターハイで勝とうとか言うほど傲慢なつもりでもないけど、それでも青春をそこにかけると言う意気込みだけはあった。



 そんな私の前にそびえ立つ、やけに大きなキノコ。生でとか、毒じゃないのとか、そんな細かい事はどうでも良かった。

 とりあえず拾うだけ拾おうと思って手を伸ばさんとした私の前に、別の手が飛んで来た。



「おいおいお前、何勝手な事やってるんだ?」

「親分、こいつ女ですぜ」

「ほう、デカい女もいるもんだな、まさに安産型って奴かぁ?」



 私以上に乱れた髪の毛に、そしてヒゲ。ついでに小汚い木の棒や刀。


 そして、無駄にデカい胴体。


「悪い人たち?」

「何言ってんだよ、俺らはただの山の民だよ。このキノコは俺らのお食事なんだ。それを横取りしようなんぞ、ちょーっとばっかりおしおきが必要みたいだなぁ?」

「ごめんなさいね」

「そうか、何ならおとなしく」




 私の手をつかもうとした三人組のリーダーらしき男を、私は投げ飛ばした。別に柔道って護身術のつもりはないけど、それでも体が覚えていた。


「おいてめえ何しやがる!」

「おとなしくしてりゃこのデブ女!」


 力任せの甘すぎる突進、いなすのは簡単だった。これならば習いたての時の私でも十分対応できる。


 二人の男の内先に近づいて来た方を一本背負いで投げ飛ばし、もう一方にぶつける。男二人が草むらに倒れ、立ち上がれずにもがいてる。


「て、てめえ……!!もう容赦しねえ、からな……」


 先ほど投げ飛ばした男がまたやってくるけど、それでもさっきよりはマシと言うレベルだ。中学一年生の時の最初の相手(もちろん白帯)の方が数段強い。


 とりあえず寝技なんぞ無駄な事がわかっているから素早く投げ飛ばすと言う少し乱暴なやり口になるけど、それでも答えは見えてる。




 男は手から剣を放しながら、二人の所へと転がってった。


「お、おい、お前ら……」

「こ、こいつはバケモンです!」

「お嬢ちゃん、見逃してくれ、これやるから!金がねえならそれを売れ!」

「チキショウ、あの女から金せしめてまた武器を買い戻してやるからな!その時まで忘れんじゃねえぞ!」




 親分らしき人はずっと吠えてたけど、それでも部下らしき人たちは棒を投げ飛ばして逃げ出した。


 とりあえず売り物にはなるかなと思いながら剣と棒をかつぎ、ついでにキノコも採って山をさらに歩いた。




 ああ、命がけの運動をしたせいでなおさら空腹を感じる。もうこうなったらこのキノコにかじりつくしかない。毒だろうが何だろうが知った事か!



 ……案外食べられる。それどころか、かなりおいしい。そして力が出て来る。



 拾い食いはみっともないけど、四の五の言ってる場合じゃない。でも、しばらくは何も食べなくてもいい気がした。


 一刻も早くここがどこなのか、誰かに聞かなきゃいけない。私の家がどこなのか、それを聞かなければいけない。



 そう思って駆け出そうとしたけど、またお腹が鳴りだす。腹痛じゃなく、空腹。 キノコとか果物とか探しに駆けずり回ったけど、どこにもない。


 どっちに進めば人里なのかさえもわからない。見た事のあるのかないのかわからない木や草。




 もうダメだ。足がふらつく。転びそうになり、木に手を付いた。

 口に葉っぱが入る。



 吐き出そうとしたけど、これがおいしい。舌に触れただけで食欲が掻き立てられ、気が付くと私はその葉っぱを咀嚼し、飲み込んでいた。まずさを感じない。


 調子に乗って二枚、三枚と行ってみるけど、どれもおいしかった。


 あーこれがもしかして薬草って奴なのかなって思ったけど、それにしてはどこかで見たような木だった。

 理科の勉強を怠ってるせいかどんな気なのかはわからないけど、それでも「どこかで見たようなきれいな木」である事は変わりない。






 少し膨れたお腹をさすりながらあっちこっち歩き回って水場にやって来て、姿を確認する。一応女の子だしそういう物は持ってたはずなのに何にもなくなっちゃって、持ち物はそれこそ私服と柔道着とさっき手に入れた三本の武器だけ。


 私の顔は多少汚れてはいたけど、見せられないほどひどい訳じゃない。目線がないのをいいことに裸になり、水に浸かって体を眺める。




 本当に何も変わってない。




 私は肉は好きでも嫌いでもない。魚が大好きで、冷凍の白身魚のフライからマグロの刺身までとにかく三食毎回魚を食べていた。


 で野菜も嫌いじゃなかったけど、私が食べていたのはもう「野草」。それを食べているのにどうしてこんなに平気なのかって肌をなでながら考えた。






 これはあの、オタクたちが言ってた「チート異能」なんでしょうね。そんなもん考えるぐらいならば稽古すればいいのにとか思ってたけど、まさか私にもそんな物があるだなんて、こうして身をもって体験すると信じるしかなくなるわね。

 とりあえず飢えずに済んでよかったけど、なんだか自分が人間じゃなくなった気もする。お湯ならともかくこんな冷たい水に平然と浸かってる時点でいつもの自分じゃないのはわかるけど、体と一緒に頭が冷えたせいで、まったくその必要のない事を思い出した。




 あのオタクたちは言ってた、別の世界にやって来てそこで能力を授かって好き放題やるのが今の流行だって。



 私は改めてここが別世界である事を知らされ、そしてそれでも言葉が通じた事に少しだけ感謝しながら、水から上がって体を乾かした。

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