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最強の笑顔

 ミワキ市執政官邸大広間は、会議場となっていた。


 ランプが赤々と場を照らし、俺たちの重苦しい顔を容赦なく照らしている。


「それで団長さんと副団長さんは」

「傷は負っているが命に別条はない。ただ戦えるのには当分かかるな」


 俺たちと、執政官様と、田口と、テリュミ姫と、そして田口の親役を務めたワフーさんとザベリさん。


 そんな中で何とか口を開いた倫子の言葉に対するワフーさんの返答にわずかながら温度が上がったものの、それでこの部屋が真冬から真夏になる訳でもない。




「ウエダユーイチ……」


 執政官様の軽さの全くない声が場を覆う。俺が口を少し開けただけで視線が一点に集まり、俺の次の一言を待っているのがわかる。


「はい何でしょうか」


「君は……あのミタガワエリカを殺したいのかい?」


 執政官様の負傷の手当ては済んだみたいだが、その怪我以上に精神的打撃は重くのしかかり、先ほどまでの明るさを削り取っている。

「それは……」

「殺したいの?」

 それでも言葉の鋭さだけは変わらない。




 殺す。


 この世界では当たり前のお話であり、俺だって今まで何百単位の生き物の命を奪って来た。それなのにクラスメイトだとか言う偶然ご一緒になった存在を見逃すってのはあまりにもいけ図々しすぎやしないだろうか。


「できれば……」

「できるんなら、やるんだよね?」

「しかし実際問題」

「実際問題何?」

「そのやり方がわからないんです」


 それでも、俺はこうとしか言えなかった。



 やりたい。

 やれるのならば、やる。

 だけど、できるかどうかわからない。


 そんな逃げ口上以外の何でもない言いぐさではあるが、ほかに何と言えばよいのかわからなかった。


「困るよ、三度も戦って来たんだろ?」

「考えてみれば前二回は河野が助けてくれましたから……」

「コーノハヤミと言ったか、正直訳の分からない人物だよ、ねえムーシ」

「はい……って言うか上田、河野は君の幼馴染なんだろ?」


 田口の言う通り、河野は俺の幼馴染だ。




 だが、河野の事は、俺でさえもよくわからない。


「河野は昔から俺に何かあると助けてくれたんです。そしていつも何事もなかったかのように去って行き、そして少しでも何か迷っているとまた助けに来てくれたんです」

「ずいぶんと頼もしいんだね」

「まあ、そうですけど……でもどこか素直にお礼を言えないんです」


 あまりにも早く終わりすぎる。お礼をしようにも向こうがそれを求めていない。

 まるで俺たちが飯を食うのと同じように様々なお世話を行い、サッと去って行く。

ずっとぼっちだった俺の味方として常に振る舞い、笑顔を絶やさない。


「まあね、私はそんな人間いないからね。しいて言えばガシャだけど、彼はどうしても対等の関係にはなれないから」

「対等ですか。俺は対等だなんて一度も思ってませんけどね。あいつはいつも俺が頑張ろうとすると側にくっついてくるんです。それって対等ですか?」

「確かに、くっついてくる存在って言うのは上か下かだよね。横並びって言うように同じレベルならくっつく必要ないからね、それはある種の支配だと思うよ」

「それは恋人じゃなく親だと思います」


 セブンスは執政官様にも全く物おじしない。一応ミルミル村はシンミ王国の領国なのに平然と話に割り込み、田口さえも驚かせる。


「確かにそれは、親って類かもね。あるいは姉かもしれないね、兄じゃなく」

「それはそれは……」

「で、そのコーノの力ってのは」

「河野はものすごい速度で飛ぶ力を持っています。あるいはこの世界に来てから身に付いたそれではなく、元から持っていたかもしれない力です」

「なるほどね。でも今は所在も不明だよね、正直当てにならないとしか言いようがないよね」




 しかしここでこの場にいない河野の話をしてもしょうがないのも事実だ。今俺たちはミタガワエリカと言う存在の事を考えなければならない。



(防御力36000……それをついさっき思い知らされちまったよな……)



 だが現実的な問題として、防御の極めて硬いミタガワエリカにどう打撃を与えればいいのか。その答えがわからない以上、負けないことはできても勝つ事はできない。




「私は、殺します」




 俺が数字に押されている中、セブンスは椅子から立ちながら右手を上げた。




「セブンスちゃん!?」

「ヒラバヤシさんは、まだ出会って数日ですけどとても優しい人です。先ほどまでの武闘大会の時も、私よりずっと不慣れなはずなのに皆さんにしっかりと話を聞いて私の手を引いてくれて、そしていざとなればその爪と牙で戦ってくれる素晴らしい人です。そんなヒラバヤシさんが穏やかに過ごしていたはずのトードー国からノーヒン市とか言う所にわざわざ追いやってひどい生活をさせるだなんて、あの人はもはやどうかしています」




 この場にいる誰よりも力強い言葉。決して大きくないはずのセブンスは一瞬にしてこの場の中心に立ち、全ての視線を集めている。





「確かにあいつはおかしい。それは間違いない」

「だから私たちが止めなければいけないんです。今は魔王として君臨し、もはやその勢力を張以下に収めてしまっています。元から恐ろしかったですけど今はもっとです、「力なき愚者は木一本を枯らし、力ある愚者は森を砂漠にする」と聖書にあります」


「静寂なる愚者は羽虫、勤勉なる愚者は猛獣」の類似だろうか。

 とにかくただの女子高生だった時分からかなり迷惑をかけまくっていた三田川恵梨香が、今や魔王ミタガワエリカになってしまった以上、それを阻止しなければ損害は途方もなく膨れ上がるだろう。








「……わかった。わかりました。皆さん……俺は、三田川を止めます。あるいは最悪の結末になったとしても!」




「もちろんだ上田!」

「目一杯やらせてもらうであります!」

「私も!」

「ここでひるむ理由はない!」

「もちろんだよね!」

「私も頑張るから」

「オレも忘れるなよ」


「この調子なら行けそうだね」




 みんなも賛同してくれた。


 セブンスによって背中を押された格好だけど、俺の言葉一つで人間をここまで動かせるってのは我ながら本当に感心した。







「セブンス……ありがとうな」

「ありがとうございます!」







 セブンスの笑顔が、全ての憂いを吹き飛ばしてくれた。本当にすごい笑顔だよ。

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