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ドラゴンナイトの惨劇

作者「これから一週間は外伝です」

 ブエド村の攻撃が失敗に終わった翌日。




 旧マサヌマ王国の上空は不気味なほどの晴天であった。




「ったく、とんでもない連中がいるもんだな」

「本当になあ……」



 二人のドラゴンナイトが、澄んだ空の上で目を光らせていた。


 ありふれた哨戒任務であり、特段気合いを入れるようなそれでもない。


「いずれ来るんだろ。あのウエダユーイチとか言う連中は」

「だな。これまでもたくさんの仲間がやられて来た。九人いた幹部も今や四人だぞ」

「だがそのウエダユーイチの弱点も上がってるんだろ」


 二人とも深刻な内容に反して実にのんきな口ぶりである。

 実際、彼らにとっては日常であった。


 偵察任務をやっていたのは基本的にガーゴイルであったが、ドラゴンナイトが出て来ることも珍しくなかった。

 人手不足もあったが、同時に人間に対する威圧行為もあったのだ。ドラゴンナイトが一般兵としては最強レベルであることは魔王軍でも周知の事実であり、それが常に上空にいていつでも攻めかかれるぞと威圧しておくのは魔王軍にとっての年中行事だったのだ。


「しかしロッド国もさ、女神の砦だか何だか知らねえけどさ、そんなとことっくに諦めればいいのにさ」

「っつーかさ、あの王様自体が諦めてねえもんな、今でも俺たちを倒して天下統一とか狙ってるんだろ」

「そうだよな、俺たちだってできるかわかんねえのにさ」

「そうそう、俺たちにとって第一の敵はもう北ロッドじゃねえ、シンミ王国だよ。この国の人間たちをなつかせずに攻撃をかけりゃどうなるかわからねえ奴はいねえもんなあ」


 魔王城とは言っても、魔王を含む魔物しかいない訳ではない。

 旧マサヌマ王国を囲むように並んでいた市街地は健在であり、住民も少ないが残っていた。魔王は彼らに対し収奪と弾圧を行う事はなく、一般的なレベルの課税と労役を要求する事によりその統治を成り立たせていた。

 むろん魔物という名の異種族により、しかも国家を乗っ取ったも同然の存在に対しほんの少しだけ反抗されたこともあったが、それでも今は諦めもあるのかある程度平穏に治まっていた。


 この二人のドラゴンナイトも、この前人間の町から食品を買って食べていたのだ。ちなみに料理はミルミル村でセブンスが出していたそれとあまり変わらず、値段がやや安い程度だった。


「あーあ、聖書だか何だか知らねえけどさ、魔王様も酔狂だよな。あんな女神様の戯言が書いてる本なんか見ちゃってさ」

「でもこの魔王様の国が平穏なのもその聖書のおかげだろ。ほらなんとかになんとかあれば好かれるって」

 正確には「砂漠に雑草あらば好かれる、だが砂漠なればこそ好かれるに過ぎぬ。」である。



 魔王軍の統治がうまく行っているのは、マサヌマ王国のそれが悪かったからだと言う事を魔王は知っていた。

 マサヌマ王国は魔王のせいとは言えすっかり聖俗のバランスが失われ、庶民の生活はひっ迫していた。いくら聖書さえ覚えれば出世街道を歩けるとは言え、地位や名誉や財貨などは特権階級たる教皇や司教たちが占めており、不祥事が起きたとしてもところてん式にその一つ下の存在が来るだけだった、


「でも最近魔王様もお悩みでさ」

「なんだよ、あの冒険者連中か」

「いやそれもあるけどさ、残った四人の幹部様」

「ああ…………もめているって聞くけどな」


 自分たちが乗る竜より一回り小さいが機動性はそれ以上、魔王の座を継ぐとも言われている魔王の甥のフーカン。

 魔王軍一の剣士を自称し他称される血の気の多いデュラハンのアト。

 かつてマサヌマ王国にとどめを刺した冷静ながらアトに協力的な召喚魔法使いのフェムト。

 無口でさらに魔導を極める事に真剣になっている黒魔導士のジャクセー。


「魔王様は慎重でフーカン様はそれに忠実だけどよ」

「あのアト様に押され、フェムト様もアト様にお味方してるし、ついでにジャクセー様も研究しかしてねえからな。最近じゃ魔王様でさえ禁忌にしている禁断の秘術を」

「まさか禁断の秘術って、あの腹が減る」

「もっとすごい奴だよ。文字通り命がけの、まあどう命がけなのかは知らねえけど」

「なあ、お前命がけでやる事があるとしたら何に使う?」

「そりゃ魔王様の天下のためよ。ただできればまだシンミ王国との戦いにはな。もっと他の国、いやこの大陸を出て遠い世界をも占めるその戦いでな」


 ナイトたちは笑い合う。

 高等とは一般兵ならばこんなもんかと言わんばかりに弛緩した空気を醸し出し、前方を睨みつけるべき目も柔らかくなり、口も軽くなっていた。禁断の秘術の存在を漏洩すること自体厳格極まるオハナシで言えば処罰ものであるが、それを気にする存在はどこにもいない。

 実際問題最重要機密なんてどこの組織にもあるものであり、その存在を口外する事自体はああそうかいでしかない話だ。一応「禁断の秘術」などと言う肩書こそくっついているが、それとてキミカ王国などと言う人間の王国で実際に行使されたそれであるからどうと言う事があるわけでもない。







 だからそれがもし彼らの責めだと言うのであれば、それに対する罰はあまりにも重すぎたと言わざるを得ない。







「な」




 それが、最後の言葉だった。




 ひとりの首が舞い上がり、主を失ったドラゴンもあわてふためく間もなく墜落して行く。

 もうひとりと一騎も、ブエド村の方に体を向けながら同じ運命をたどった。

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