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魔王は心底からの涙を流しながら宣戦布告する

「あぐ、あぐぐ…………!ウエダ、ユーイチィィ………………!」


 ミタガワは必死に怒りを吐き出しながら剣を振り回す。

 黒いドレスの上には真っ赤な頭が乗っかり、白い光の剣が目にも止まらぬ波導をはじき出す。当たらないからと信じてじっと立ち、何とかして防御力36000に立ち向かう方法を考える。

(即死魔法?でもそんなもんは現状どこにもないし、仮にあったとしても通る保証はないし使いたくない)

 急速に冷え切った頭で対策を考えているともつゆ知らず、ミタガワは必死に俺を殺そうとしている。




 改めて思う。「猫に小判」ってこいつの言葉はあながち間違ってねえなと。


 三田川恵梨香にとってはまめまめしく動くことが絶対の正義であり、それ以外はすべて悪。その絶対正義に則って動いているだけ。

 最大限の熱量を常に吐き出し、自分の情熱と必死に戦っている。その正義の戦いに付き合わねえ人間は全員敵であり、自分を傷つける存在でしかねえんだろう。

 絶対的な真理を突き付けても全く動かない俺たちは文字通りの猫であり、価値のわからないさげすむべき存在である。さげすむべき存在をさげすんで何が悪いのか。好きの反対は嫌いではなく無関心であり、その無関心という名のもっとも醜い行いをしないだけ慈悲深いと思ってくれとか真剣に考えているのだろう。


「何がぼっチート異能よ!そんなふざけた力で勝っていてはみんなおかしくなるわ!」

「お前はパソコンを使って魔法の勉強でもしたのかよ!」

「チート異能だか異世界転生だか異世界転移なんだか知らないけど、生前遺徳を積んだ者こそが良き思いをして悪徳を積んだ者は苦しむべきなのが世の中の真理でしょ!」

「じゃあサンタンセンやブエド村での大量虐殺はお前にとっての善行なのかよ!」

「あれは働かない害虫を駆除しただけ!あんたは家に入り込んできたゴキブリを隣人って言っちゃうわけ!?」



 だが、ここまでくるともう病的というか病気だ。


 自分を世の中に合わせる事を怠り、世の中を自分の思うがままに作り替えようとしている。寄り添わない存在を排除するか作り替えるかし、自分のユートピアを作ろうとしている。

「お前もし、元の世界でこんな力があったらどうした?戦争にでも介入して世界を奪う気だったか?」

「たらればを抜かすんじゃないわよ!」

「俺はやると思っている!少なくとも今のお前であれば!」

「犯罪者になって人生をふいにする趣味はないわよ!そんな事をするぐらいならば知恵と正義をもって世の中のダニを駆除した方がよっぽどいいわよ!」

「お前はもう十二分に犯罪者だよ!」


 ミタガワエリカは最上級の賞金首であり、この場にいる冒険者からしてみれば恐るべき敵であると同時にとんでもない金銀財宝でもある。そんな存在になっていったい何をしたいのか。

「ああもう!なんで避けるのよ!」

「お前が俺を殺そうとしてるからだよ!」

 その金銀財宝サマが剣を振るたびに力が漏れ出し、コロッセウムを破壊していく。かろうじて外に被害は及んでいないが、いずれにしても見るに堪えない。


「私は魔王、魔王なのよ……!」

「答えになってねえ!」

「魔王ってのは、こういう事なのよ!」




 ミタガワが高く飛び上がる。


 ヘイト・マジックはまだ有効なようだが、歯をむき出しにして笑っているその顔は少しだけ冷静さを取り戻していた。




 そして、上空に浮かんだミタガワの後ろから出て来たのは。




「ドラゴンナイト!?」




 そう、ブエド村で対峙したドラゴンナイトが五騎。けたたましいうなり声をあげ、下の人間たちを食らいつくそうとしている。


「ドラゴンナイトは魔王軍最強の一般兵だよ……ドラゴンナイト一人を倒すのに兵二百人は下らないとも言われている……」


 執政官様が負傷した個所を抑えながら言ったように、この前ブエド村でドラゴンナイトに勝てたのは俺たちじゃなくて河野だった。

 そんなミタガワエリカ来襲という状況でなければ十分に身構えるに値した難敵が、五騎。


「かつての大戦でドラゴンナイトは十五騎しかいなかったと言うのに、人類はわずか三騎しか倒す事ができなかった。ブエド村というかロッド国の人間をもってしても……!」

 執政官様に加え田口までこんな調子だ。




 で、ものすごい機動性。というか単純に速い。

 その速さから出る風だけで何人殺せるかわからないほどの速度。実際コロッセウムを作っていた岩が剝がれ落ちそうに震え、招かれざる客の存在をアピールしている。


「安心してください!ヘイト・マジックは生きています!皆さんに危害を加える事はありません!」



 そんな存在に対してさえもセブンスは実に強気だ。気が付けば市村やトロベ、オユキの分身も次々と送り出し、数十人単位の戦力を作り上げている。

 オリジナルの市村たちはすでに離れており、執政官様たちも俺らの大立ち回りの間にコロッセウムの隅っこまで移動していた。


「うぐぐ……!」


 だがそれでも、ドラゴンの高速飛行によって害意なく起こされる風は容赦なく俺を襲う。後ろ向きに倒れそうになり、必死に足を踏ん張るがそれでも刀を振り回せそうにない。




「やってしまいなさい!あのイチムラマサキとか言う腑抜けた男を!」


 五騎のドラゴンナイト、いやドラゴンが俺に向けて迫って来る。


 緑色の鱗に、血走った目。下手な刀よりも鋭そうな爪と牙。そしてナイトが持っている剣。

 俺を一飲みにしようと迫って来た真っ赤な口。


 正真正銘のドラゴンが、次々と俺を殺しに来た。




 だが、結果は同じだった。


 五騎連続ともターゲットである俺からずれてしまい、風を浴びせるのがせいぜいだった。もちろんその風により俺の体もよろめいたが、そこに攻撃をかけようにもうまく行かない。

「どうなっている!なぜ当たらぬ!」

「五方向から囲めばいいのよ!ってちょっと何やってるの!」

 で、俺に上から攻撃をかけようとした一騎は急降下爆撃の狙いがぼっチート異能によりそれまくった結果、騎士共々地面に直撃し、青い血を吹き出しながら即死してしまった。




 ドラゴンナイト

 HP:0/555

 MP:0

 物理攻撃力:350(装備補正により420)

 物理防御力:330(装備補正により390)

 魔法防御力:300

 素早さ:300

 使用可能魔法属性:なし

 使用可能特殊能力:竜操術


 ドラゴン

 HP:0/3000

 MP:0

 物理攻撃力:999

 物理防御力:250

 魔法防御力:200

 素早さ:10000

 使用可能魔法属性:なし




 倫子が出したであろうステータス画面が浮かぶ。

 上に乗っているナイトもノイリームにも匹敵するほどの数字、そしてドラゴンのでたらめな素早さと攻撃力。

「うう、上田……!」

 ミタガワは見せるつもりもなかっただろうドラゴンナイトのステータスが公開されたのか俺に炎魔法を放って来たが、さっき死体になったドラゴンナイトを荼毘に付させただけだった。

 ドラゴンの死体が火柱となって焼ける姿ってのは、焼いた人間のせいもあるだろうがただただ恐ろしく、しかも臭いがまるでないのが逆に恐ろしかった。


「あんたさえ!あんたさえ!真面目になってくれれば!この、この不真面目極まる怠惰男を食い殺しなさい!」


 残った四騎のドラゴンナイトが、俺に向かってくる。

 前後左右から、きっちりと方向を合わせて同士討ちを起こさないように突っ込んで…………などと言う事ができるわけもなく、ドラゴンナイトは衝突を避けるのが精一杯と言わんばかりに俺とほぼ同じ速度で囲むだけだった。


 しかしこれはこれで厄介だ、まだヘイト・マジックは生きているはずなのにこうして構えられるほどには冷静さも残っているらしい。



 その証拠のように連続攻撃をかけてくるが、図体の大きいドラゴンではなくナイトの攻撃しかない。

 もちろん俺には当たらないが、それでも鋭い刃が目に入りまくるのはさすがに心臓に悪い。

(しかもこっちは刀を抜けない。抜いて折られたら万が一が……)




「何よ!なんで抜け出されてるのよ!」

 このまま耐えて自滅を待つしかないかと割り切ろうとしたその時、前方からミタガワの金切り声が飛んで来た。見ればドラゴンがバランスを失い、さらに尻尾が軽く焼けている。


「ちょっと!ドラゴンまで傷つけられては!」

「まったくもう!どうして当たらないの!このインチキニート男!」

 どうやらミタガワが魔法で俺を狙った結果ドラゴンにぶち当てたという何ともバカバカしいお話らしい。




 そして、包囲網から抜け出した「俺」は。


「皆さん!」




 どうやらセブンスの魔法により増えた俺たちが、ドラゴンナイトに立ち向かっていた。


 たった一人で作り上げられた軍隊はドラゴンナイトに群がり、後方から攻撃をかけて行く。



 トロベの分身がドラゴンの尻尾を突き、オユキの氷の剣が鱗を剥がす。




 大川はさっきミタガワが落とした武器を投げ付け、倫子は素早くドラゴンの体をよじ登って爪と牙を振るう。




 それらすべて、赤井が力を増幅している。




 そして俺「ら」は彼らが自由に攻撃できるように攻撃を受け止めている。








「ギャオオオオオ……!!」


 ドラゴンが悲痛に叫んでいる。いくらドラゴンが強かろうとも手数が違う。


「ううううう……!」


 ミタガワエリカはうめきながらも回復魔法をドラゴンナイトに放つが、それでも攻撃により暴れまわって制御不能になるという現実はどうにもならない。

 ドラゴンたちは俺たちを振り払おうと翼を動かし足を踏み鳴らしたいのだが、ヘイト・マジックが生きているせいで俺への攻撃が優先されてしまっており、その上に主の攻撃が全く敵に通じない憤りもあって心は荒れていただろう。

 そしてミタガワでさえも害虫とでも言うべき存在を駆除できないという失望も重なり、ドラゴンたちの心がますます揺らいでいた。


「ああこら、なぜだ!なぜ当たらないのだ!」

「グォォォ!」

「うわあああ!」


 そしてついに、ドラゴンナイトから一人落竜した。

 主を振り落としたドラゴンは俺のヘイト・マジックに取り付かれ、牙を振りかざす。



「おいやめ、ろ……!」



 言うまでもなくそんな事をすれば密集地帯に圧倒的に面の大きな一撃が飛びこむ事になり、三本の剣どころか三人のナイトがいっぺんに死体になってしまった。


 その死体が勢いを止めたせいかやっぱり俺には当たらず、残る三匹のドラゴンも最初の一匹と同じように同士討ち当然の攻撃を仕掛ける有様だった。




「何よ!どうして、どうして!!」

「これが現実だろ!三田川!」

「消えなさーーい!」




 三田川は太い光線を俺に向けて放ったが、やはり分身本体問わず「俺」をハブり、正面方向にいた二匹のみを光に変え、残る一匹にも致命傷を与えただけだった。







「どうしてなのよ……!あんたらのような怠け者どもが……!!」

「他に言う言葉はねえのか!」

「口を閉じなさい!」


 そして降る雷の雨。


 次々とコロッセウムの床を焼いた攻撃は、もう一匹の竜を消し炭にするまで止む事はなかった。


「あんた、いやお前のような!」

「お前が動いた結果がこのざまだろうが!」

「私は魔王!魔王なのよ!大事な、大事な、生まれ変わるこの世界の先陣たるべき存在を……!!」

「お前がとどめを刺したんだろうが!」

「うう……!」




 また、三田川は泣いた。噓偽りのない涙。


「ウエダ…………お前はもう根っからの搾取者なのね…………!」

「何を言っているんだよ!」

「世界をめぐり、あらゆる存在を汚している!私はね、この世界を守らなければいけないの!努力しても、努力しても勝てない!そうやって勤労意欲を奪い、世界を堕落させて行く!チート異能ってのは害悪よ!本当に最低の害悪よ!!」




 確かにチートコードって奴はゲームを破壊する。


 楽しみを奪い、作った人間に対する冒涜である。


 だがそれを俺たち異世界人がみんな持っている以上、どっちもどっちでしかないじゃないか。

 ましてやここはゲームの世界でもねえし……。




「自分の言葉がどれだけ滑ってるから少しは顧みろ!」

「キィィィ!どうしても!どうしても自分が害悪だって自覚がないのね!


 わかったわ!


 明後日早朝!その時までに勤勉と繁栄を選ぶか、怠惰と滅亡を選ぶか!決めておきなさい!


 シンミ王国執政官様……一両日中にその男を引き渡して共に反映するか、怠け者により腐敗して朽ち果てるか……すべてはあなたと王様次第ですよ!」










 三田川恵梨香、いや、魔王・ミタガワエリカは北へと飛び去って行った。











 そのなごりのように落ちた液体は実に美しく、そして実に醜かった。

作者「第14章はこれで終了。いよいよクライマックスですがその前に」

上田「三人娘編を進めろよ!」

作者「そういうわけで明日は三人娘の外伝、その後本編の外伝、三人娘の外伝、となります。お楽しみに」

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