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究極の一撃!

「他にやる事はないのか」

「当たり前だよ!」

 まったくその通りだ。武闘大会において相手を攻撃するのはまったく正しい行いであり、俺だってそのつもりではある。俺にはできないだけだ。



「だったら!」



 俺が強引に体を倒して突っ込もうとすると、軽く身をよじりながら刀を叩きに来る。その一撃は重たくないが、それでも目論見を外されたことに変わりはない。もちろんもう一度とばかり突っ込んでやるが、結果は変わらない。

 すでにバレバレになってしまった狙いに真っ正面から付き合う事もなく、確実にこちらの弱点と言うべき刀を狙って来る。


「刀を折っても俺はまだ戦えることを知ってるだろ!」

「知ってるよ!でも俺はお前に参ったと言わせたい!そのためにはお前の大事な大事な武器である刀を壊すのは勝利の証って奴だと思うが」

「それはごめんだな!」


 不見識な話だが、この世界に来て初めて剣ってのが消耗品だって事を知った。


 ゲームのイメージしかなかった俺には刀剣とは何千何百体の魔物を斬っても平気なオーパーツであり、また数百年前のそれが堂々と生き残れるほどには寿命の長い代物だった。

 だがその裏では数え切れないほどの刀剣が戦いで使われ、何かを斬っては壊されて来た事を俺は知らなかった。絶対に壊れない物なんて存在しない事ぐらい、とっくにわかっていてもいい年のはずなのに、なぜそんな風に思っちまったんだろう。


「でも壊すだなんてさ、単純な話、もったいないんじゃないか?」


 消耗品だとわかっていても、ついこう言いたくなる。

 何千回でも使える代物と言うイメージしかなかった俺からしてみれば、一本一本が貴重品であり骨董品だった。



「確かに八村の事はあるからな、でも八村だってずっとしまっておけなんて言わないぞ」



 思いっきり異世界人たるところを見せびらかした発言にも誰も動じる事なく、市村は迫って来る。

 剣を振り回し、俺の刀に当てて来る。相変わらず一撃は重く、刀背で受けたらその瞬間叩き折られそうだ。


「お前武器に思い入れってないのか」

「あるよ、自分なりには。でもずっと眠らせておくのはよくない、いざって時には使わなきゃいけないだろう。それが今なんだよ!」



 銀色の剣が照明器具のように光り、全てを飲み込みにかかる。俺に正体に気付く間も与えないとばかりに、力を込めた一撃を振りかざす。




「付き合う理由はない!」


 そんな攻撃から、俺は逃げた。また逃げた。


 陸上選手らしく、走って逃げた。


(トロベはよくあんな攻撃を受け止められていたな……いやどう考えてもトロベの槍の方が重い。だとすれば市村は力を上乗せしていた)


 重たい攻撃の秘密。おそらくと言う推測はできたが、確信は持てない。


「逃がすか!」

「同じ手は二度通じない!?そんな事はない!」


 俺は逃げながら、じっと剣を睨んだ。


 市村の剣が光り、それほど明るくもないはずのコロッセウムを照らしている。

 俺が刀を持ったまま、市村は剣を下ろして走る。


 走るたびに頭が回り、現状を認識できる。


(やっぱりあの力か!)


 走りでは、俺に一日の長があった。

 距離が開いたのを確認して後ろを向くと、市村が横にやっていた剣が強く白く光っている。







 何度も見た光。俺たちを救った光。







 絶対の自信が、ようやく持てた気がした。







「パラディンの力か!」







 市村は無言で突っ込んで来る。俺は再び逃げる。







 これまでも幾度も、大物たちを斬り落として来たパラディンの剣。







 あの攻撃、あの一撃。







 トロベをも打ち破ったあの剣をもって、俺を押していたのだろう。


 考えてみればトロベと打ち合っていた時も市村の剣は白く輝いていた。


 とぎれとぎれだから押し切るまでは行かなかったのだろうが、それが全開となると話は違って来る。



 市村は追うのをやめていた。



 じっと剣を構え、俺が来るのを待っている。


 距離を離した俺が向き直るも何の反応もなく、ただじっとしている。




「ここで決着を付ける気か」

「その通り!」




 市村の剣が灰色のコロッセウムを白く照らす。

 LED電球も霞むほどの明るさだ。



 って言うか、ここまでの光を見た事ないぞ!




「俺も俺なりにパワーアップしてたみたいだからな……」




 このコロッセウムごと斬れそうなほどの輝き。

 向ける場所によってはそれこそ大量破壊兵器にもなりそうなほどの輝き。




 剣と言う一対一用のそれとはとても思えないほどに輝く恐ろしい「棒」。




 そこまでの力を剣に与えられる程度には、市村は強くなっていたと言う事か。




「この一撃、生中な鎧ならかすっただけで塵と化すと思うけどな!」

「当たればな!」

「当たるさ!いや当てるさ!」

「俺に追い付いてみろ!」


 コロッセウムの真ん中、奇しくも開始位置と同じ場所に立つ事になった俺に向かって、市村は真っ白に輝く剣を振った。




「おっと……これはものすごい波動だよ!!」




 市村の剣から、巨大な閃光があふれ出す。




 棒状と言うよりV字型の、と言うか鳥が羽を広げたような形の、まるでこちらを包み込むような閃光。




 速度はないが、逃げ道もない。




「ユッ……!」




 女性の低い声が俺の耳に届いた。




 不安と、信頼と、そして………………




(何をひるんでいる!俺にはぼっチート異能があるじゃないか!狙いが俺なら……!)




 様々な思いが詰まった一文字が俺に覚悟を決めさせた。







「答えはこれだ!」







 俺は、刀をしまった。







 そして、市村の放った閃光を真っ正直に受け止めた。







 コロッセウムに、大きな穴が開いた。







 羽を広げた鳥型の穴が。







「いやあ……これはすごいねえ……!どっちもだけど」







 そしてその中央には、人型の空白があった。







 俺は、無事だった。

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