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トロベvsエクセル

作者「外伝最終話です」

上田「次回からまた俺の視点に戻るんだよな」

「厄介だね、栄光ってもんは」



 エクセルは整備が行われているフィールドを前にして、半笑いを浮かべながら頭を掻く。


「過去の罪科は百枚の金貨の負債であり、過去の栄光は千枚の金貨の負債である」


 そう聖書にもあるように、時として過去の栄光は過去の罪よりも重たい負荷となる。


「あの時は私も弱かった。それだけだ」




 イチムラマサキほどではないが、トロベの人気も高い。


 パーティーの名声と言うのはどうしても分散する。

 それゆえに名誉欲にかられてパーティーを組む事を嫌う冒険者も多いが、逆を言えばおこぼれをもらいやすいと言う意味でもある。


 だがその中でもトロベと言う存在は元からある程度著名であり、ウエダユーイチたちが気付かない内にシンミ王国人にある程度の印象を与えていた。またパーティーメンバーに黒髪と言う名の特異な存在が多いだけにかえって金髪のトロベは目立ち、セブンスやオユキ以上の存在感を放っていたのも大きかった。



「しかし、なぜまたここに?トードー国の客人としてノーヒン市にいたはずではないのか」

「ノーヒン市は本当に信じられない場所でさ、トードー国の人間もみんな腰が引けちゃって誰もその先に行こうとしなくてさ、たぶんノーヒン市はどこの国の土地にもなりそうにないらしい。

 で、俺はそのノーヒン市の語り部をやらされることになってさ、後で執政官様にも紹介してもらいたいもんだね」



 そのトロベを一度破った事のあると言うエクセルと言う存在もまた、彼女の名前によりそれなりの名声を得ていた。

 また彼らと同じように大陸をほぼ一周した事もまた彼の存在に箔を付けており、ノーヒン市のみならず世界の事をもっと知りたいと思う人間からすれば敷居の高いウエダユーイチたちよりも人気があった。


「まあ、今のところお前さんに寄っかかってるからな、そんな寂しい立場からは逃げ出したいもんだよ」

「その意気やよし!」


 二人の得物が光を受けて輝くと共に、整備をしていた職員たちが下がって行く。




「さて、準々決勝第2試合。トロベ選手vsエクセル選手!」




 正統派な装備をした二人の戦いに、先ほどとは違った歓声が上がる。



「開始!」



 開始の二文字と共に、二人が真っ向から正面衝突する。


 トロベが槍を振りかざし、エクセルが剣で受け止める。


 さっきはなかった金属音が響き渡り、その度に観客の身がすくむ。


 トロベの槍が唸り、エクセルの剣も押し返す。


「やるな!」

「そっちこそ腕を上げたな!」

「言われるまでもなくな!」



 トロベだって道中、ウエダやイチムラなどと剣を合わせて来た。


 素人を自称するにしては得物の扱いに慣れていたイチムラや、あのぼっチート異能により攻撃を当てられないが得物にはなんとかいけるウエダとの稽古。

 ともすれば逆効果になりかねないはずの相手と真剣に向き合い、それなりに手ごたえもつかんで来た。


 無論命がけの戦いも幾度となく行い、実戦経験も積んで来た。時には敗残兵狩りも少なくなかったが、それでも着実に敵を狩る技術だけは磨いてきた自信もあった。


「そこだ!」


 トロベの突きをエクセルは叩き上げ、反動を生かして斬り下げにかかる。

 だがトロベの膂力は強く、反動を最小限に抑えて逆に斬り降ろす。

 あわててエクセルは剣を引くが、トロベの槍が剣の根本を強く叩いた。


 エクセルの顔が苦々しく歪み、後ろに二歩飛ぶ。



「本当に強いな、だが!」



 それでもエクセルは歯を食いしばりながら打撃を受けた剣をこれまでを上回る速度で振り回し、時には緩急を付けた攻撃を放ち出す。

 ラッシュを仕掛けたと思いきややられたらやり返すと言わんばかりにトロベの手元を狙い、さらに頭や左腕など狙う箇所を変えまくる。


 だがそれでもトロベはひるむ事なく、エクセルの攻撃をいなし続ける。

 時には力で、時には技で。突きを横に流して斬りかかり、斬り上げればさっきのように力と重さで受け止める。


「本当にしぶといな!」

「お互い様だ!」



 二人とも戦いを楽しみ、無邪気に笑っている。



 これでこそ戦いだ。どこまでも爽やかですがすがしい戦いがそこにあった。




「だがまだ堅実けんじつに行けば勝てる!」

「いい心意気だ!」

「このけん健在けんざいだからな!」







 その時、「あ」と言ったのは誰だろうか。




 その一文字と共に場は沈黙に包まれ、二人の打ち合う音だけが響き出した。




 トロベが抱えていた爆弾が、事ここにおいて爆発してしまうのか。



 嫌な緊張感が場を覆う。



 大半の人間がこの対戦をさっきまでと同じ目で見られなくなった。




「まさか…………」


 その空気を決定づけようとしていた三文字が誰かの口から出たのと、エクセルの剣が宙に舞ったのはほぼ同時だった。




「勝負、あり!エクセル選手の敗北ぅ!」




 執政官をして何ともならないほどになってしまった空気に気付かないかのように、二人は勝敗を確認するかのように歩み寄る。


「見事だよ」

「礼を言う」

「でも、次に会った時は勝たせてもらうからな」


 外連味のない笑顔と共に、勝者も敗者も背筋を伸ばして去って行く。



 戦士の喪失と共に場は再び温まり、コロッセウムの人間たち全員が奇妙な安ど感に包まれたのである。







 しかし……




「クックック……堅実に、剣が、健在……」




 トロベが控え室で肩を震わせていたのもまた、紛れもない事実だった。



 やっぱり、トロベは笑いを心底からこらえきる事はできなかったのである。

上田「っておい、もう2月終わってるじゃねえか!」

作者「そこはご容赦を……」

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