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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第二章 冒険者デビューしてみた
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大川博美

 ある日陸上部の練習が終わり校門をくぐろうとすると、ずいぶんと甲高い男の声が聞こえて来た。


「相変わらず、テレビで見るのとまた桁違いの迫力だなー」

「プロとは別の意味で桁が違うから!と言うかあんたの所の部活、そんな調子で大丈夫なの」


 甲高い声援を出してるのは持山武夫だ。

 俺と同じ一年五組のこいつは、背の順に並べば真ん中、体重を計っても真ん中、マラソンでもクラスで二十人中十番目ぐらいって言う、それこそ文字通りの地味キャラ。ぼっちの俺と違い、何人かの仲良しもいるし、仲の良くない奴もいる。



 そんな持山に応援されているのが、クラスで一番後ろの席に座っている大川博美だ。今でこそ見慣れたけど、入学式で初めて見た時には思わず声を上げそうになった。




 何せデカい。俺だって平均よりは少し大きいつもりだが、その俺から見てもデカい。よくそんなサイズの制服があったのと思えるぐらいデカい。高校生と言えばもうそろそろ身長が伸びるのが止まりそうな時期であるはずなのに、それでもなお大きくなりそうに思えるぐらいデカい。ついでに横にもデカい。



 そんな彼女が所属しているのは柔道部だ。体育会系のお約束のように先輩後輩の厳しい部活だったが、そんな中で清美は文句ひとつ言わず先輩に忠実だった。その上で高い能力を発揮し、いつの間にかレギュラーになっていた。まあ女子部員が七人しかいない部だったからと本人は言ってるけど、説得力の欠如もはなはだしかった。




 何せ、男子に交じっても一本連発だからだ。


「今日は月に二度の柔道の授業だな」

「ってかやっぱり、遠藤君の懐入りたいよねー」

「男女混合戦なんてないでしょ、健全な高校生の授業にはね」

「柔道部の部室を横切ると、いつも畳に清美さんが誰かを叩き付けている音が鳴り響くのであります」



 柔道の授業を心待ちにしている奴は案外多かった。どんなにモテなくとも、異性の体に直に触れられる絶好の機会だからだ。まあもっとも受け身が取れるようになるまでは先生としかやらせてくれないし、仮に組手があってもほとんど同性同士ってオチだったけど、それでも中学時代から柔道の時間になると張り切る奴はいた。



 さて俺だが、一応中学の時から三年間分の経験はあったし、自信はそれなりにあった。その時からマラソンをやればトップ争いができる程度には運動神経も良かったし、同じように行けるとか簡単に考えていた。



 そんななめた気持ちでいた所に現れた大川の強さは、群を抜いていた。元から柔道部だからしょうがないとか言うには、何もかも格が違い過ぎた。

 そして行われた一学期最後の柔道の授業、本格的な試合が行われることになった。


 男女混合なんか基本的になかったはずなのに、大川だけは例外的に認められていた。女子じゃ相手になりようがなかったからだ。唯一河野だけは少し粘ったけれど、本気を出されると結局は三十秒も持たなかった。


「あのな、いくら大川が相手とは言え男たちは何をやっている?たかが授業とは言え誰も何の抵抗もできないのか?」


 赤井は無論、遠藤すらも簡単に一本を取られていた。もちろん黒帯であり、着物を着る訳ではない体育の授業でさえもまるで部活のように真剣だった。



 先生が口ばかりで怒鳴りながら、俺たち男子の方を見つめる。確かに実に情けない話だが、とにかく大きいだけでなく技が鋭すぎる。どう動いたかよく捉えられない。足技が得意だとか言ってたけど、もちろんだいたいどんな技があるのか知識としてはわかっていたけど、それでもどうすればいいのかわからなかった。



「それじゃ行くしかないか、次、上田!」


 とにかくやってやるしかないとばかりに立ち上がろうとした所でいきなりチャイムが鳴り、授業時間は終了。結局俺は、大川の強さを肌身で感じる事はできなかった。


「しかしずいぶん早くチャイム鳴ったな」

「そうねー」

「そうねーじゃねえよ、俺の意気込みはどうなるんだよ……」

「まあまあそんな事もあるって。お弁当食べて午後からリスタート!」



 河野だけは大川からもぼっちだった俺をなぐさめてくれたが、今更何を落胆するわけでもなかった。正直、戦う前から負けがわかっちまってたからだ。不思議なほど悔しくないのは、これが自分の自慢の土俵じゃないからだろう。





 そんな大川が学食に来た事は、一度もない。

 毎日毎日弁当を作って持って来て、それをきちんと平らげている。別に量が多い訳でもなくバランスが良く取れていて、料理部の同級生からも毎日毎日絶賛されていた。


「しかしさ、たまには学食とか」

「…………」

「いや、別に行けと言ってるわけじゃないけどさ、飽きないの?」

「全然飽きないから、むしろ趣味」


 弁当作りが趣味だなんて、全くものすごい勤勉さだ。俺だって猿真似を計った事があるが、結局適当な野菜サンドイッチと冷凍のから揚げだけで終わった。焼きそば弁当を狙って他に何も詰められなくなった事もあり、実質その二回で断念している。米は未だに挑戦した事がない。


「もうまったく、掃除ちゃんとしないと」

「あの大川さんそこはもう……」

「少し残ってたわよ、ちゃんと片付けないと」


 そして掃除も丁寧できれいだ。大川と木村で半分ずつ掃除すると新品と十年物ぐらいの違いぐらいが出て来るでありますと言ったのは赤井だ。確かに木村の掃除は第三者様から見ても雑いが、それ以上に大川がきれいだった。


「あとこんなにきれいなのは河野ぐらいだな」

「そうなのよね、彼女もすごくね」


 練習による汗で髪は色が薄くなり、ポニーテールって言うか髷を構成する髪は少しパサつき、体型にふさわしい膨れた顔も愛嬌はあっても迫力はない。


 それでも弁当と掃除だけで、彼女はお嫁さんにしたい女の地位を確立していた。


 天は二物を与えずだなんて嘘だなとかこぼした奴もいたぐらいだ、うちのクラスじゃないけど。

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