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三回戦

「いやー、本当一方的な戦いでしたねー」

「ユーイチさんも少しイライラしてたと思います」



 執政官様もセブンスも陽気なもんだ。




 こっちは退屈な戦いの連続で正直眠いのに。確かにイライラもあるが、それ以上に退屈さが先に立つ。


「ふわあああ」

「あくびをしてもいいが、寝られるうちに寝ておけ。それが戦場で生き残る心意気だ」

「これはモトペジさん」

「俺はとりあえずお前を倒す。俺のやり方で」


 大した人のようだ。デジマやゴシショーと比べるとずいぶんとまともだ。

「戦場ってのはいつ眠れるかわかりゃしないですからって事ですか?」

「まあそういう事だ。これは試合ではあるが」


 余裕がありがたかった。


 ゴシショーは俺に一杯食わせてやろうと熱くなっていた。だからこそ俺にあんなに熱弁を振るい、俺が耳を貸さないと見るやその熱量を刃に向けた。


(まったくミタガワと同じじゃねえかよ……)


 一方的な正義と感情が心をすり抜け、頭もすり抜けて行く。


 それが嫌われる理由だってのに、頭がいいはずなのに気が付かねえもんなんだろうか。


「どうかよろしくお願いいたします。あ~眠い……」


 退屈な男と女のことを思い出した俺は、机に伏したまま目を閉じた。

 腰のあたりに風が吹くがもう知った事かい。ああ、おやすみなさい……。







 ……ってやってたらいきなり肩をゆすられた。

 ああぼっチート異能が効いてねえって事は害意はないんだな……と思って背筋を伸ばすと、銀色の装甲がばっちり目に入った。


「お前の仲間は強いな」


 どうやら、俺が一眠りしている間に対戦が全部終わってたらしい。


「これは失礼……」

「睡眠魔法ってのもある。今度研究でもしてみるか?」

「あはははははは……」


 俺は頭を掻きながら笑ってごまかすしかなかった。

 ちなみに寝ていたのは15分ほどらしい。



「あの、まだですか?」

「失礼しました!」


 俺は目をこすりながらモトペジさんに付き従って控え室を出る。

 もう、二人しかいない控え室を。


「この装甲……」


 どこにも隙がない。いやあったとしてもカウンター攻撃で弾かれる。

 俺自身の攻撃力は知れているが、俺は打撃には正直弱い。




 いろんなことを寝起きの頭で考えながら立つが、正直答えは見つからない。




「では始めてください!」




 執政官様の開始の合図が聞こえるが、正直動けない。


 狙いは顔か、手のひらか、足首か。


 だがどこを狙ったとしてもカウンター攻撃が来るだろう。


「どうした」

「どうもしていない!」


 下手くそな見栄を張ってみるが、正直困った。





 まったく、俺を相手にするってのはこういう事なんだろうか。


「どうした、両者とも動きがないぞ!」


 執政官様は煽って来るが、俺もリアクションの取りようがない。



 執政官様の隣のセブンスを見るが、無邪気な笑顔が今は重い。



 ましてやこの状況、ヘイト・マジックがかかっているのも同じだ。


 どうしても、目の前の敵から逃げる事ができない。ヘイト・マジックを辺士名に奪われたあのキミカ王国での戦いの時は本当に恐ろしかった。


 何をやっても当たらない。そうしている間にこっちが疲弊して俺に一撃を加えられる。

 って言うか、デジマやゴシショーのように突っ込んで来るのを止める事もできないまま敗れるかもしれない。


「どうした?」

「それはそっちこそ!」


 そっちこそと威張ってみるが、それだけでどうにかなる訳でもない。


 だがこれ以上グズグズしている訳にも行かない。


「なら!」


 これしかないとばかりに、俺はこれまでと同じように刀を抜かないままモトペジの懐に向かって走った。


「行くぞ」


 モトペジはここぞとばかりに剣を振る。

 俺はぼっチート異能任せに突っ込んで腰を掴みに行き、一気に押し出すと言うか寄り切る。



「おっと、モトペジ選手の攻撃が当たっておりません!ですがウエダユーイチ選手も苦戦しております!」


 だが、重い。まるで動かない。

 こんな重いもんを寄り切れる力士ってのは本当すげえよな、本人と装甲で100キロは下らねえってのに。


 だが幸い反動はない。


「なるほど、俺を押し倒す気か」

「こっちの攻撃がぶつかったら反動が来るんでしょ、だったら!」


 その一撃に俺は耐える自信はない。だったらなるべく打撃を与えずに勝つしかない。


 できる事ならばコロッセウムの出口まで寄り切ってやりたい、そうすればさすがにみんな勝敗を認めるはずだ。


「なかなか大した心意気だ」


 返事をするのも惜しみ力を込めるが、動きはほとんどない。

 ただわずかに土がえぐれるだけ。


「なるほど、ならばこちらも……」


 するとモトペジはいきなり剣を捨て、こっちの腰に手を回そうとして来た。




「相撲……」

「え?これってスモウって奴なの?ねえリンコさん」

「え、ああ、はい……」




 でもこれって、ムーシと倫子の言う通り、完璧に相撲じゃねえかよ。


 あるいは俺に上手投げでも打てっつーのか?確かに相撲は格闘技だし大川だって一回戦は敵を派手にぶん投げてたけど、柔道ならともかく相撲っておい……。


 なんでこんな世界で相撲なんかやってるんだろ、とか頭に一瞬よぎった間に腰に手をやられ……なかった。


「まったくだ。まったく何をやってもダメか」

「そんな」

「そんなでもないだろう。こっちが打撃を与えようとすると全てこれとは」


 だが俺が内心グダグダ言ってる間も向こうの攻撃は一発ももらっていない。

 確かに有利ではあるはずだ。


「だが!そっちがそうなら!」


 ここでモトペジは腰を掴もうとした手で俺の右手を掴んだ!


 掴めてしまった!



「何をする気だ!」

「こうするのだ!」


 俺の拳を、自分の背中に振りかざした。


「まさか強引にカウンターを!」



 笑っていた。



 なるほど、自分への害意を避ける事は出来ても他人への害意を避ける事はできないのか、ましてや自虐など!チート異能ってのはずるいからチート異能なんだよな、いや本当にしてやられ……


「ぬぐっ……」




 あれ?反動が来ないぞ?


 どうしたと言わんばかりに正面から殴りかかるが、やっぱり反動は来ない。


「おやおやモトペジ選手、カウンター攻撃はどうした!」

「おかしい、なぜ返らんのだ……!」

 

 攻撃の反動を利用してこっちに打撃を与えるのがカウンターだが、俺の攻撃がまさか攻撃と判定されてないのか?


 いや違う!




「試合に勝つにはもう方法はないのか!ならばこっちが!」




 モトペジがさっきの俺のようにこっちを押しにかかる。




 そう、しょせん、カウンター攻撃も俺をいたぶるためのそれでしかない。




 その時点で、俺をやっぱりハブる対象になっていたんだ。




「なら!」


 突っ込んで来たモトペジに向かって、俺は刀を振った。



 切っ先が鎧の隙間を捕らえ、留め金を外しながらすぐそばの金属板を叩く。


 金属音と共にモトペジが止まり、腕が見えた。


 その反動がこっちに来ず、物理的なそれとなってモトペジの足を崩す。


「それ!」




 そこに俺は刀で足払いを決めた。




 二度目の金属音と共に前のめりになっていたモトペジはバランスを完全に失い、デカい音を立てて倒れ込んだ。

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