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二回戦

「いやしかし、本当さ、すごい勝ち方だよね!これがGランク冒険者なのかなって」

「ずいぶんとテンション高いですね」


 って言うか執政官様もノリノリだ。VIP席に座っておきながら何実況アナウンサーの真似事なんかしてるんだか。




 まあいいかと思いながら俺が控え室に引っ込むと、さっそく鼻息が飛んで来た。

「フン……!」

 ゴシショーさんはこの上ない不満顔をしながら、両手の小指と薬指を立てて来る。


「まあ見ておけ、真のパラディンの戦いとやらを……」


 えらく大股で控え室の出入口に立つと対戦相手らしき魔法使いを睨み、自分の武器を強く握りしめる。



 そして、二十秒もしない内に肩をいからせながら引っ込んで来た。



「もう終わったんですか」


 俺がマヌケに言い返すと、パラディン様は愛想のひとつもないような顔で俺の側に座り込んだ。


「パラディンと言うのは一朝一夕でなれる物ではない。女神への忠心、研ぎ澄まされた肉体、それにより得た力を決し絵邪な事には使わぬと言う」

「さっき聞きました」

 俺がくどいとばかりに口をふさぎにかかると、すぐさま眉毛を吊り上げた。


「人の話を聞かんような奴がGランク冒険者とは、実に情けない……お前のような存在がいる限り魔王が滅ぼうがこの世界はまとまらんな……わが手により目に物を見せ、このシンミ王国に正しき正義を見せつけ……」

「えーと次の試合は……」

「この戦いはただ己が力をぶつけあうだけではない。何が正しく何が間違っているかを、そのために裏打ちされた不断の努力の成果を示すための闘いであり……」

「次はモトペジさんかよ、あの装甲の厚い人か」

「なぜわざわざ痛い目を見たがるのか、うぬぼれも大概にしてもらいたい。そんな早熟な才だけが取り柄の分際で己こそが最強であるとうぬぼれられる厚顔さ。それこそ騎士としてもっともふさわしからぬ無駄な才能であり」


 長話を垂れ流すゴシショーを無視してモトペジの闘いを見に行こうとすると、首筋に風が当たった。それも無視して俺はモトペジの闘いを見る。



 相手は小さな斧を持ち、スピードと身のこなしに優れている。

 決してむやみやたらに振り回さず、あの厚い装甲の隙間を狙っている。戦い慣れしている感じだ。


 対するモトペジはじっと自分の得物で攻撃を薙ぎ払い、一歩も動こうとしていない。

「もう勝った気分なのか、まったくおめでたい!」

 今度は腰の方に風が当たって来るが気にせず目をやると、どうやらモトペジには敵を攻撃する意図がない事が分かった。


(まるで俺みたいじゃないか)


 俺のように相手を疲弊させ、立てなくなった所に一撃加えるつもりなのか。だがそれで勝つにはかなりの時間か、さもなくば仲間が要る。

 武闘大会で後者はありえないとすると前者だろうか。だがそれにしてはあの得物、正直軽い。下手すると弾き返されそうなほどだ。

「強者の戦いぶりを見て学ぶのは良いが、それよりまずは己が武を鍛え目先の戦いに集中する事を覚えよ」

 とか思っていたら弾き返された。

 そのはずなのに顔が変わらない。まさかパンチで戦う気なのか。

「今までがうまく行ったからと言ってこれからもうまく行くなどそれこそうぬぼれ以外の何でもない」

 ここぞとばかりに仕掛けて来た。斧で装甲のない顔や手のひらを狙う気だ。

「多くの人間がそのうぬぼれにより身を滅ぼし」

 斧の攻撃が鎧の隙間に入った!

「だからこそ次なる戦いではこのパラディンたる私が」


 ……斧騎士が倒れた。


「なるほど、カウンター攻撃か……」


 速すぎたのか見えなかったが、その装甲で攻撃を受け止めその上でカウンター攻撃をかけて相手をなぎ倒したらしい。

 顔は涼しいまんまだ。


「まったく、変態めが……」


 で、目の前の戦いも終わったしようやく話に付き合ってやろうかと思うと心底から失望したような顔をしてそっぽを向き、そのまま座り込んだ。

 変態。まあずいぶんと軽々しく言ってくれるもんだ。


 ちゃんと努力すればその先楽できるのになぜ怠るのか、わざわざ苦難を味わいたいのかと言いたいだけだろう。



 で、完全に俺の事を見限ったのかそれきり絡んで来なくなった。

「パラディンにたやすくなれるのならば世界から戦乱は消えているわ……」

 まあ、絡んで来ないだけでずーっとぼやいてたけど。


 そんで市村があっさり二勝目を挙げると見えない対戦相手に向かって両手の小指と薬指を思いっきり立ててた。もう見るに堪えない。




 で、ようやく来た試合。




「続いては第5ブロック2回戦第一試合!ウエダユーイチ選手VSゴシショー選手!」


 悪意と言うか殺意のこもった目つきで俺の事を睨みながら舞台に上がる姿と来たら、本当市村とえらい違いだ。


「では始め!」



 いきなりものすごい速度で剣を振って来る。


 確かにパラディンの証である聖なる力を剣に込めているのはわかるし、市村よりもずっと早い。



 だが、あまりにも大振りすぎる。


 大振りでも早ければいいと思うかもしれないが、そんな殺気むき出しの剣では俺のぼっチート異能にひっかかるし、それ以上にこれに守られたいと思われない。




「その姿勢……ミタガワエリカと言う名のお尋ね者と一緒だよ……」




 俺は力任せで乱暴なただのチンピラへの捨て台詞を吐き捨てながら、近寄って来たゴシショーの一番痛い所を蹴り上げた。



「あぐっ……」

「卑怯だとか思いたければ思えばいいよ、これが現実なんだからな……」



 あっけなくくずおれたゴシショーはたちまちにして救護班に運ばれ、そのまま決着となった。

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