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一回戦

「さあいよいよ始まりました!」


 執政官様自らの実況が始まった。ったくこれも魔法なのか知らないけど、よく通る声だよな。俺らのいる第5ブロック控え室まで聞こえるぜ。



「まずは第一試合、イチムラ選手の登場です!」



 トップバッターは市村だ。



「ウエダユーイチとか言ったな」

「ええそうですがあなたは」

「私はパラディンのゴシショーだ」


 とにかく市村の戦いぶりに集中しようと放送に耳を傾けると、さっきまでじっと座っていた市村によく似た格好の男性が近寄って来た。


「パラディン……」

「パラディンとは女神に選ばれし騎士。一朝一夕にてなれる物にあらず」

「そうですか……」

「気に入らぬ!」


 それでパラディンとやらについてご高説を述べたと思ったら、次の瞬間には右足を思いっきり踏み鳴らした。

 俺が真顔のまんまゴシショーなるお方を見つめていると、それを無視と取ったのかさらに喰い付いて来た。

「イチムラマサキ、そなたが仲間か」

「そうですが」

「見た所かなりの若輩と見えるが」

「十六歳です」

「話にならんな」

 

 ずいぶんとデカい声で市村を非難すると同時に、胸の十字架が激しく歪んだ。


「パラディンと言うのは女神への忠心、研ぎ澄まされた肉体、それにより得た力を決し絵邪な事には使わぬと言う心根。その三つがなければパラディンにはなれぬ。十六でそんな存在になれるのはよほどの才人か、親の七光りかだ」

「市村は決してその力を悪い事には使いませんが」

「だいたいがだ、パラディンを名乗るにはまず女神様に帰依し幾年も修行を積み、その上で肉体を鍛えねばならぬ。十六などその入り口に入ったばかりではないか」

「でも現実としてそうなんです」


 現実逃避でもないが、実際市村はパラディンの特性を得ている。その剣によって多くの魔物を倒し、俺よりもいい所を持って行っている。

 そうやって現在進行形で力を使えているのならば、付け焼き刃でも何でもいいじゃないか。


「だとすればこれまでの相手は相当な雑魚のようだな。かなり高いランクの冒険者らしいが正直どうだか」

「対戦相手の事はまず考えたらどうですか、あなたと市村が戦うのは早くとも決勝戦ですよ」

「どうせほどなくして屈する。それまで二試合も要らんだろう。まあせいぜい」




 そこまで来てフラグってあるんだなとばかりに、歓声が沸き起こった。



「勝者!イチムラマサキ!」


 戦いぶりまでは見えないが、おそらくは瞬殺だったんだろう。

 追いかけるように嬌声が入り、勝者を最大限に称えている。



「雑魚めが!」



 そしてその歓声に割り込む雑魚と言う烙印。


「いきなり何を!」

「修練を怠る者に栄光はない!ウエダユーイチとか言ったな、せいぜいその戦果を見せてもらおうではないか」

「昨日あそこいなかったんですか」

「いるもいないもなかろう、本気であれば何があろうとも勝てるはずだ!」


 どこか憎しみを吐き出したような顔で嬌声のした方を睨み、拳を強く握る。


 確かにチート異能って奴は他人を容赦なく追い込むもんかもしれねえ。

 だがその上でこっちだってどうにかしなきゃならねえ。俺はこれまで遠藤や剣崎、辺士名のようなチート異能持ちと戦って来た。もちろん仲間がいたからとは言えそれでも勝てたのはまた事実だ。


(負けてくれねえかな……)


 俺がそんな事を思いながら試合を待っている間に赤井もトロベもあっさり1勝し、そして俺の出番が来た。




「続きましては第5ブロック第一試合!Gランク冒険者・ウエダユーイチの登場です!」

「ユーイチさん!頑張ってください!」



 呼ばれて飛び出て、いきなりの嬌声。セブンスって案外声高いな。


「いやー、彼女観戦中とは羨ましいね、ってそれセブンスさんが言ってたんだけど、って言うかこの席のゴミを掃除するなんて本当いい子だよね」


 そんで執政官様の追い打ち攻撃。ったく、倫子が所在なげにムーシの方ばかり見てるじゃないか。


「対するはシンミ王国の腕自慢兵士、デジマ!」


 ……案の定歓声が少ない。まあGランク冒険者ってのが相当にヤバい存在だってのはわかってるが、だとしてもこりゃちょっと逆だったら……。



「では、両者構えて」


 まあとにかくやるしかねえなとばかりに得物を受け取り、じっと構える。

 相変わらず素人の構えだがそれでも少しは格好がついたつもりだ。


 そしてデジマは槍を握りしめ、こっちの全身を強くにらんでいる。


「始め!」



 そして審判の合図と共にデジマが一気に仕掛けて来た。


「おっと!デジマ選手いきなりの猛攻!ウエダユーイチ選手はどうするか!」

 思った以上に速く鋭い攻撃だ。

「こりゃ相当な腕利きだな」

 武闘大会にエントリーして来るはずだよなと思いながらじっと動きを見つめ、ないだろう隙を探しに回る。


「ウエダユーイチ選手!動いていないぞ!それで大丈夫なのか!」


 そう、傍から見ればぼーっと突っ立ってるだけだろう。

 でも俺は俺なりにチート異能を生かし、その上で敵を見極めたつもりになる。



「よっと」


 正面からの連続攻撃。速さと手数はあるが小回りは利きにくい。

 ならば。

「おっと得物を抜かないままウエダユーイチ選手横に回った!当然ながらデジマ選手も付き合いながら突いて行きます!」

「付いて突いて行く……?」

 ……倫子が何か言うと同時にいきなりなんか変な声が鳴り響いたけどまあいいか。

 とにかく攻撃を引き付けて、後ろに回って。


「なんで得物を抜かねえんだよ!」

「それが一番勝てそうだから」

「ふざけんな!覚悟しろコノヤロー!」


 その上での挑発発言。


 それに乗っかるようにデジマの槍が速くなる。



 だが無意味だ。



「おい真面目にやれ!」

 俺は無言でタックルの体勢になってデジマを弾き飛ばし、組み敷いてやる事にした。


 槍が放つ風が体をかすめる。だが槍そのものは相変わらず俺をハブりまくる。



「おっと!タックルが入った!」



 そして、あまりにも簡単に決まった。

 肩口からタックルを受けたデジマの槍はすっぽ抜けて床に刺さり、俺は倒れかかったデジマの体にのしかかった。


「なぜだよ!」

「何故と言われてもな」


 とにかく、俺はこの力をもってここまでやって来たしこれからもそうするだけ。


 それまでの話だ。


「これはもう決着がついたでしょう!と言う訳でこの戦いはウエダユーイチ選手の勝ちです!」



 こうして俺は、チート異能頼みとは言え1回戦をあっという間に終えたのである。

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