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セーギノミカタ理論

「ロッド国が戦争を仕掛けたのは十年前だけど、それまでもたびたびこのシンミ王国に対して服属要求して来た。最初は関税の問題だったが、次々と行動がエスカレートして行った」

「そういうのは一度要求を呑むとどんどんエスカレートするであります」

 赤井は淡々と言うけど、それこそただの恫喝じゃねえか。弱腰になった所を付いて次々と相手を追い込み、最終的に服属させるだなんてそれこそ道を外れたやつのやる事だ。


「テリュミ、アインシュタインと言う上田たちの世界の偉人曰く無限なものが二つあると言う。世界と何だと思う?」

「可能性ですかぁ?」

「人間のアホさ加減だよ、お爺様もそれを甘く見てたんだよね」

「その名言には前者は限りがあるかもしれないけどって続くんだっけ」

「もっともっとと限りない欲望をむき出しにして全てを求めようとしたんですね。今の私はユーイチさんがいればそれでいいのに」



 と言うかセブンスもずいぶんと激しいよな、おとなしい顔して。


 ああまたお姫様が口をすぼめてるじゃないか。


「いや本当うらやましいけどね、それでその行き着く先としてペルエ市の利権全部とペルエ市からクチカケ村と言う名の中立地帯の要求、そしてジムナール兄上かボクを人質に取る事を要求して来た」

「そんなむちゃくちゃな」

「と言う訳で戦争になったんだけどね、かなり楽観的な見通しが国の中にあったんだ。それなりに訓練はしてたはずだからってね」

「だけどねぇ、戦争が始まるとわずか三日で王宮一歩手前まで攻められっちゃってぇ!臨戦態勢は魔王の存在もあるし完璧だったはずなのにぃ!」


 田口の手には「人類最大の無駄」と書かれた本があった。

 なぜか漢字かな交じり文に書き下されたその本には、ラストにしおりが挟んであった。




「この戦いにおいてシンミ王国が勝利したのは、まったく魔王軍が横からロッド国の領国をかすめ取るためだけに出兵したからに過ぎない。別に魔王軍を称賛するつもりもないが、まるで敵意のないはずであった我が国を責めるなどと言う悠長な行いをすれば誰だってその背を突きたくなる。実際、シンミ城が陥落した際にはロッド国の兵力の七割がシンミ城に注ぎ込まれていたとされている。その隙を突き魔王軍が女神の砦及びブエド村を攻撃したと聞いてもその気になれば一日で戻れる道を行こうとせず北の砦(=現北ロッド国)を守る以上の兵を置こうとしなかった。

 結果として我々の必死の抵抗により本城を失いながらも北の支城(現王宮)にて攻撃を食い止めることに成功したものの、それでもなお二年近くロッド国軍は旧王城に留まり引こうとしなかった。結局我が国が奪還に成功したのは戦争終結、ミワキ市陥落のわずか十日前でしかない。」


 本当に馬鹿馬鹿しいお話だと思って本を閉じようとすると、品のよさそうな紙で作られたしおりとは別に葉っぱが一枚挟んであった。




「「今頃ブエド村の住民は皆殺しになっているかもしれませぬ」

「かもしれないで物を言うな」

「私はブエド村出身なのです。いえ実を言えばブエド村から出た事もありませんでした」

「要するに鉱石掘りの親玉か」

 ずいぶんな物言いであるが、これが現実だった。

 少しでも敵前逃亡と言う名の後退を進言した者は臆病者のそしりを受け、中には反逆者と呼ばれた人間もいる。

「この戦いは女神様の意思なのだ。我々の傘下に入り富国強兵を目指す事こそシンミ王国にとって幸福なのだ。その事を思い知らせるためにも、ここから引くなどと言う事はまかりならぬ」

「……」

「返事がないぞ!」

「…………はい……」

「まあいい、所詮は私もロッド国の将軍だからな、王の命には逆らえぬのだ……あまりにも悲しい事にな……同僚も多くが逃げ帰る事を余儀なくされた。だが思い返せ、その内何人がどういう風に泣きごとを言った?」

(あえてこの形容を使わせてもらうが)驚くべきことに、城からブエド村や北の砦へと向かった兵の内この城から離れる事を悔いた者は本当に一人もいなかったと言われている。

 最終的にこの城に残った人間はわずか数十名であったが、結局誰一人逃げ出す事はなかった。その結果美しかった王城はすっかり荒れ果ててしまい、シンミ王国は遷都を余儀なくされた。」




 この旧王城における戦いにてロッド国の犠牲者の数はシンミ王国のおよそ五倍だったらしい。ロッド国人はまるで何かに取り憑かれたかのように城を墨守し、底なし沼に兵を突っ込んで尻の火を消そうとしなかった。


「理想主義を極めた果てに自分たちが正しいと思い込み、弱腰な君主を次々と民衆が批判した。その結果国全体がこんなになってしまった」


「不幸だな……」


 自分のやり方が絶対的に正しいと信じ、そのまま突っ走ってしまった末路がこれだとしたら他に何の言いようもない。




 正義に囚われる続けた頭でっかちの行き着く先は、あまりにも悲惨と言うか滑稽だった。


「しかも北ロッド国は未だにその気満々らしいからね。何とも厄介だよ」

「……」



 そしてその闇が未だにくすぶってるんっていうんだから、本当滑稽で済む問題じゃねえよな……。

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