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タグチ王子の語る歴史

「ムーシ王子」

「田口でいいよ、その方が慣れてるし」


 先ほどまで使い慣れてるチート異能を披露してくれた王子様が、王子様らしい歩き方をして上がり込んで来た。


 ピコ団長さんは急にかしこまっちゃったけど、その団長さんに目で言う事を聞かせて体勢を崩させる辺りやっぱり田口は王子様なんだろう。


「では田口君、マサヌマ王国の歴史と言うのは一体どんな物だったのであります」

「マサヌマ王国に魔王が現れ、教皇の肉体を乗っ取ったって言うのはわかってるよね」

「ええ」

「それがおよそ五百年前、そしてそれから依り代となった肉体が死ぬたびに新たな教皇の体を奪い、そして聖書絶対主義の教えを深化させて行った」

「うん」

「その過程でね、内乱が少なくとも五回は発生していた。十四回って書物もあるけど」


 マサヌマ王国が魔王の国になってからおよそ百年、つまり四百年の間に内乱がそんなに起きてたって事か。

 四百年と言えば日本では承久の乱から大坂の陣ぐらいまでだ、その間にいくつ内乱が起きたか数えようもない。


 その度に国が中身が変わり、為政者も変わって来た。


「じゃあなんで変わらなかったんだよ」

「全ての反乱が、民衆の支持を得られなかったからだ。まず一度目の内乱は、大司教と教皇の権力争いだった」

 と思ったら早速論外な理由のが来た。そんなただの内輪もめ、民にしてみれば勝手にやってろでしかねえよな。

「それで二度目は聖書を一文字読み違えたとかで平民に落とされた司教、人気があった青年司教に多くの協力者がくっついて起きた。この戦いは一日で教皇を捕らえる目前にまで進んでいた。

 でもその元司教がいきなり手柄を独り占めするとか言って付いて来ていた協力者を撫で切りにしてしまい、それで信望を一挙に失って自滅した」



 で、二回目はそんなあり得ない理由で潰れたらしい。とにかくそれにより教会の権威はますます増大し、その分だけ教会を追われた人間の地位は低下したという。



「それで三度目は教皇が年少で大叔父だった司教が権力を握り込んで聖書絶対主義に反すると言ってでっち上げの読み間違いスキャンダルを持ち出して、それで一年間も内戦が起きて」

「それこそ王家が乗り出せば」

「この時にはすでに聖俗の力関係は定まり、さらに第二次の内乱で王家は人的損害も多く受けてしまっていた。この時の王様は教皇と同じく年少でね、トランプをして遊んでいたってエピソードもあるんだ」

「二人は仲が良かったんだな……大人達とは関係なく」


 聖書絶対主義になっていた中幼い教皇を立てていたのはなぜなのかはともかく、この後その年少の教皇様は十四歳で夭折し、その事を知った王様は心を乱して暴政を行い三十歳にもならない内に王家を追われたらしい。

 そんな友だちなど、俺にはいない。せいぜいが河野ぐらいのもんで、その河野だって中学時代になってからはそんな事などほとんどしていない。そんな親友を失って心を乱したせいで王家が力を失ったってんなら、友だちってのも良し悪しなのかもしれねえ。







 田口に導かれ、俺たちは帯刀しながら地下牢と逆側の階段を下りた。


 地下牢とは違うきらびやかな空間、と言うか空間をきらびやかにしている真っ赤なじゅうたん。茶色に光る趣味のよさそうな本棚。


「悪いけどここの本って読めるのか」

「読めるよ。なぜか日本語で書いてあるからね。ただひらがなと漢字がないんでそういう意味で読みづらいけど」


 適当に一冊取ってみると、シンミ王国に伝わる英雄の伝記があった。


 幼き時から魔物を狩り、長じては兵として一日十時間も槍を振り、戦争にて個人的に百の兵を狩り、軍の長としては千人の兵を十五人で討ちとか言ういかにも内容の出世物語だ。


「だからこそ大衆文学になってるよ。童話があるのと同じようにさ」

「この書物はどこ産でありますか?」

「ロッド国産だよ。ここにある本の大半はこの町がロッド国の領国だった時の置き土産でね、重要な書物はあまりないんだ」

「ここに入り浸ってると怒られるんでずぅ、ピコ団長さんにぃ」


 お姫様の言う事もわかる、漫画みたいなもんじゃねえかよ。


「って言うか英雄の名はミワキって書いてあるだろ?かつて魔王軍と戦い伝説的な戦果を挙げた男だ。ロッド国一の英雄である彼だよ」

「なるほど、都市名になるほどの英雄であればもっともだけどな」

「だが現実ってのは違うらしいね」

「何が違うんだ」

「今上田が手に取ったのは子供向けの本だ。それがやや年齢が長じるとミワキは最後には数多の魔物と戦い戦死した事になっている。魔王の右腕を斬り落として道連れにしたとかね。

 でも事実はもっとむごたらしくてさ、ミワキには妻と三人の子どもと二人の兄弟がいた事はわかっている。ちなみに真ん中だけ娘だ」

「その子どもたちと奥さんがどうかしたの」

「妻はすぐさま夫の死を悔やみ出家、男児二人は魔王の呪詛により年齢ひと桁で死亡、残った女児はこのミワキ市の市長に嫁いだけど産後肥立ちが悪く母子ともに死亡……」


 魔王の呪いにしてもめちゃくちゃなお話だ。

「やはり暗殺されたのか」

 市村でなくてもそう言いたくなる。

「確信はないけどね、状況証拠ならいくらでもって状態で」

「なんでそうなったんだよ」

「華々しく散ったもんだから困っちゃったんだろうね。

 何せその時のロッド国の国王は、旧マサヌマ王国の大司教の血を引いていたんだから」


 国王がマサヌマ王国の血を引いていたって事の意味を、俺はもうある程度理解していた。


「ロッド国は元からマサヌマ王国の隣国って事もあって交流があってね、実質的に魔王の支配下にあった際も気付かずに王家や教会との縁組が行われた。

 その際に教会の人間が王家に嫁ぎその女性が王を産み、その一族が政治に関与するようになった」

「まんま摂関政治だな」


 娘を国王に嫁がせ、その娘婿及び孫たちから義父及び祖と言う名目で主導権を奪い取るやり方で藤原道長は栄耀栄華を極めて来た。本当に歴史ってのは繰り返すもんだよな。


「そのマサヌマ王国の血を引く国王は賢君だった。でも賢君だから問題だったんだよ」

「まさかトードー国のコーコ様みたいに」

「コーコ様?」

「すごく立派なお殿様で、俺らのような冒険者を差別しなかったし倫子を温かく迎え入れてくれた。ミタガワがぶち壊したけどな」


 ミタガワが泣きわめいて倫子を追い出したのはなぜなのかわからない。コーコ様がおっしゃるには倫子は中から国をむしばむ猛毒だからだそうだが、自分が猛毒じゃないだなんてうぬぼれがどこから来るんだろうか想像もできない。


「で、そのコーコ様のように自分に相当厳しかったんじゃないか」

「ああ、幼くして真面目で節制を好み、それでいて屈しない人間だった。だからこそ、英雄一族の死を解き明かすまではぜいたくをせぬと言って親たちを悩ませた」

「まさか担ぎにくくなった神輿を捨てたんじゃないだろうな」

「神輿が担ぎ手を押し潰したんだよ、俗権をもってね」


 その幼かった王様は英雄一族の死を暗殺と断言し関わったとされた人間を死刑か追放に処し、ただ一人残った妻を「国母」として自らの摂政に任命。さらに「ミワキ市」と命名し、それから死ぬまで町の発展に粉骨砕身し、シンミ王国にさえも名君として称えられるようになったらしい。


「ああ、だがその結果その理想の君主様との戦いがロッド国の中で始まってしまった。少しでも豪奢に走り民への施しを怠ればすぐさま挿げ替えられるようなお話が百年以上続いた」

「その間ぁ、シンミ王国もあまりいい事がありませんでしたけどぉ」

「どんな風に」

「単純な凶作ですぅ、ミルミル村がお茶の産地になったのもそういう事でぇ」

「まあそうだね。とにかくその繰り返しで国力が低下した事により今度は揺り戻しのように強権政治が始まり、軍事政権が到来した。

 それこそ、ロッド国が負けた下地だ」

「どうしてなの田口」

「絶対に正しいと信じている軍事政権が誕生したらどうなる?しかもさほど国民から嫌われていない」


 戦争のきっかけかよ、それが……

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