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マサヌマ王国の塵

「私も予想外に憶病になっていたようです」

「そりゃなりもしますよ。詰まる所人殺しの道具なんですから」

「まったく、武器を自在に使いこなしてこそ一流の騎士だと言うのに、私は……」


 客間にてようやく文字通り肩の荷を下ろしてくれたピコ団長さんから、俺らは武器を受け取った。


「あの戦いで死んだ同志たちの思いをはき違えていた事は認めねばなりませぬ。私たちに必要なのは過度な戦争への恐れではなく、落ち着いて平穏を楽しむ心だったのです」

「戦争への恐れを忘れぬ事は重要ですけどね」


 確かに間違ってはいない。

 だがだからこそ反逆を困難にし、息苦しさを高めてしまったのかもしれない。

 もしガシャがカンセイに取り憑かれていなければ、それこそ精神を壊していたかもしれない。


「何事もほどほどが大事なんでしょうね、って口で言うのは簡単ですが」

「誰も自分のように強くはない、その事を忘れていたのでしょう」

「戦役の功臣と言う肩書を盾にかなり好き放題やってたんだよねー、後進の事を考えないで危ない道を行進させて、頭の中の更新がなってないよー」

「フフフ……!」


 オユキのダジャレでトロベよりも先に笑うほどには緊張もほどけたようだが、正直ぎこちない笑い声であり執政官様が望むような人間になるのはまだ難しいのかもしれない。


「ですが気になるのは美食を楽しむ土壌がこの国にはない事です」

「それはぶしつけですがあなただけでは」

「それは否定できませんが、あなたならどこか飯のうまい場所を知っているのでしょう」

「シギョナツは農業も漁業も盛んであり食材も新鮮です、取り分け貝が。また東のトードー国もかなり美食の国です、取り分け魚が」

「オーカワさん、魚トードー国で食べましたっけ?」

「干し魚だったけど食べたじゃないの」


 とは言えゆっくりとガシャを含む兵士たちに寄り添えている感じなのはいい事だと思う――――ってのは上から目線の極みの発想だが、ピコ団長さんのような立派な人ですらこんな風に学ぶことがあるのが現実だ。


「ミタガワってのは、見る物全てを理解しようと懸命になり、それを唯一無二の美徳として生きている女です」

「真理の探究など一生かけても叶わぬというのに、相当に欲の皮の張ったお話ですな。まあ人の事を言えた義理ではありませんが」

「欲の皮が張る……」

「それでありながら本人は禁欲を気取っているのありますが……」

「滑稽だな、人の事を言えた義理でもないが」

「カッコイイですよね、ストイックって」


 カッコイイだなんて、我ながらとんだ言葉だ。


 俺たちだってみんな多かれ少なかれカッコイイと思っている。カッコワルイ事をやる時分から逃れたいと思っている。

「過剰に負荷がかかるを楽しむはただ道楽なり」

 と聖書で言うけれど、自分の限界を越えた負荷をかけるのは生きるためにしょうがないとか言う理由がなきゃそれこそただの道楽だ。


「その格好良さにミタガワは酔っているのかも知れません」

「私は自分を歴戦の勇士だと思っていた、自分が強いと思っていた、その自分に酔っていた……」

「あなたのような人でも酔うんですから、俺らなんて推して知るべしでしょう。ミタガワ、いや三田川恵梨香は俺と同じ十五歳か十六歳のガキンチョです。あるいは俺らより幼いのかもしれませんけどね、自分の行為を正義と信じて疑わない辺り」

「執政官様がおっしゃられていたように、私はマサヌマ王国から染み付いた塵のような物かもしれませぬ…………」


 魔王が、もしその道徳的には極めて正しい理屈を利用して国家を改造しそういう人間を作り上げたと言うのならば、マサヌマ王国の人間は本人の意図しないままに魔王の手先になっていた訳である。


「どんなに優秀な武器でも使い方を誤ればその身を滅ぼします。私が騎士として礼を受けた際に真っ先に叩き込まれたのはその武器が人殺しの道具であり、運命を容易く壊してしまう物だという事です」

「しかし武器や魔法はまだ良い、危険だとわかりやすいからです。聖書さえも悲しむべきことに人殺しの道具になってしまうのが現実です」

「我が国が大打撃を受けたトードー国との戦争もまた聖書の解釈が原因であり、それにより多くの人間が死んだのです」


 人殺しのやり方が書いてあるような本でなくとも人は殺せる。ましてや女神様と言う名のこの世界を作った存在の記した書ですら同族殺しの理由にしてしまえる程度には人間ってのは野蛮で横暴な生き物だ。


「だがどうもトロベ殿の国であるキミカ王国にも、マサヌマ王国の人間が亡命していたらしい。その末裔が力を付けたという訳だ」

「ちょっと疑問があるであります。

 マサヌマ王国を離れそれぞれの国で暮らすうちに、それぞれその思想に触れていたはずであります。その結果思想の誤りに気付き、また適応するに当たり教えが変化したと言う事は考えられないでありましょうか」




 確かにそうだ。国が滅んだ以上その手の過ちに気付き、改めようとするのは当然の行いのはずだ。

 それがどうして代が替わって、いや国を失ってなおマサヌマ王国の教えにしがみ付き続けるのだろうか、




「その事についてはボクに説明させてくれないかな」

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