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タグチのチート異能

「ユーイチさん!」

「大丈夫だ、痛くはない!」

「本当に対魔物用なのだな…………」


 俺の内臓をすり抜け、お姫様の肉体を突く光線。


 これが僧侶の究極魔法とでも言わんばかりに、お姫様の中にいるカンセイを撃ち抜こうとしている。


「ものすごい力だ!」

「姫様は大丈夫なのか!」

「で、彼女は何をやっているのだ」

「とどめはよろしくって事で」


 後ろではオユキが氷のトゲを浮かばせている。倒しきれない時のための予備の一撃だろうか、実に用意周到だ。



「うう、わた、しは……」

「どうした」

「死な、ない……」

「この声はカンセイか。お前この状況で逃げられるのか?」



 単に抱きかかえられているだけならば、あるいは逃げる事ができるかもしれない。だが霧となって空を浮かべても出入口が一ヵ所しかないこの修練場ではそこを封鎖されればジ・エンドでしかない。


「私は死なぬ、この力をもってすれば……!」



 だと言うのになおも余裕だった。先ほどまであれほど苦しんでいたのに。



「忘れたのか、我が本当の力を!」




カンセイ

職業:魔物

HP:?dw.wdm、lu;qnewo./1000

MP:700/1000

物理攻撃力:0

物理防御力:0

魔法防御力:100

素早さ:999

使用可能魔法属性:憑依魔法

特殊魔法:打撃攻撃無効、超治癒能力




 なんだよ、HPの数字がめちゃくちゃになってる!




「確かに、強い。だが力が足りぬ。持続は力なりと言うが、この攻撃をいくら続けようともこの超治癒能力は破れん……」

「体力が1でもある限りすぐ回復するのか……!」

「私は、これで、何があろうが生き延びる……たとえこの姫を守ったとしても、いずれ、いずれ……!」




 人間である俺の体力は当然有限だし、赤井の魔力なんてなおさらだ。




 一晩どころではなく、一瞬で回復するとんでもない相手。


「そんな力を!」

「全ては鍛錬。鍛錬の賜物……お前らのような力頼りの輩には、とてもとても!」


 腕の力がなくなって来た。ここでお姫様を逃したらまずい。


「あとどれだけ行ける!」

「あとMPはおよそ300、時間にして1分40秒ほど……!」

「このままじゃ!」


 みんなもなすすべなしと言わんばかりに固まっている。


「ああ姫様を救えぬのか!」

「私は、私のせいでぇ!」


 団長さんと副団長さんもうめいている。




「ハハハハハ……」




 ……で、嬉しそうに勝ち誇っている。




 カンセイが。







 それと、執政官様も。







「ちょっと……!」

「じゃあもういいか」

「はい」


 何がもういいかなんだよと言う暇もなく、田口が執政官様から離れた。


「魔力の流れが変わりました!」

「ちょっと何を言って」

「ああ、アカイさんに向かってます!」




 セブンスも執政官様も何をやってるんだと思う間もなく、俺の視界が消えた。







「ああああああああ!!」







 重たい悲鳴が聞こえると同時に、黒く薄い霧が塊を作り出した。




 密度が非常に薄く、今にも消えそうな霧。




「まさ、か、我が防備を破る、とは……!」




カンセイ

職業:魔物

HP:0/1000

MP:700/1000

物理攻撃力:0

物理防御力:0

魔法防御力:100

素早さ:999

使用可能魔法属性:憑依魔法

特殊魔法:打撃攻撃無効、超治癒能力




 なんて言う事だ……。


 HPがゼロになってしまえばもう回復も何もないと言う事か……。


「どうやらこれまでのようだな」

「ぬぐぐ……!」

「それにしても田口君」




「これがボクの力…………赤井、君に力を与えられてよかったよ……」




 執政官様は無言で田口、いやムーシの頭を撫でている。

 どこか言葉を探すような目つきで、勝利の喜びはそこにはない。



「サワーとザベリは言うまでもなくこっちの世界の人間であり、君たちの世界にはたやすく適応できない存在だった。それが八年間も無事でいられたのは()()の力だよ」

「まさか?」

「大事に思う者、力を与えたいと思う者の力を増幅する。それがムーシの力だ。実はね」

「兄上も本当は不言実行の人なんだよね、本当は……」


 っつーか田口までチート異能の持ち主だったのかよ……って言うか俺らの世界でもそんな力を持ってたのかよ……。

「ちょっともういいでしょ!」


 ああいけないとばかりにセブンスに言われてずっと抱きかかえていた姫様をゆっくりとうつぶせに寝かせる。


 優しそうな、苦しそうな寝顔をしている。



「まったく、ユーイチさんしかできないとは言え、正直あまりこんな事は」

「しょうがないだろ、ぼっチート異能を持つ俺にしかできなかったんだから」

「オーカワさん、今度暇があったらユーイチさんにジュードーとかの稽古を付けてください!」

「落ち着け、まだカンセイが死んだわけじゃなし」



 迫って来るセブンスを何とかたしなめながら、光の消えた方を見る。


「カンセイがどんどん薄くなっている」

「うう……」


 文字通りの命の尽きかけの状態だ。




「まったく、努力も、しないで……!」

「カンセイ……」

「だが覚えておけ…………魔王軍はいずれ、あのお方と共にこのシンミ王国を攻める。その時まで、堕落する事なく、弓馬を磨け…………ハッハッハッハッハッハ……アッハッハッハッハッハ…………」




 高笑いと共に、カンセイは搔き消えた。




 それと共に、ギャラリーと化していた団長さんたちが一斉に安堵のため息を吐いた。

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