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「やはりカンセイは」

「焦って銀貨を掴めば耐えて金貨を掴んだ者に笑われるよ」


 あきらかに執政官様のお言葉とは違う目をしたガシャを引きずりながら、俺たちは地下牢を出てタユナさんとやり合った修練場へと向かった。


「今はタユナが兵たちを集めて修練しているよ。その中から上位何名かに小隊長の地位を与えるってね」

「その基準は武勇ですか」

「私はあまり熱くなるなって言ってるけどね。冷静に物事を見る事の出来る人物を選び犠牲を減らすために戦えるのが真の将だと思っている。聖書に曰く一の戦果と言えど犠牲が皆無なれば十の犠牲を持って挙げた百の戦果と等しい、とね」


 勇猛果敢にして多数の首を取るだけが兵士の能じゃない事は俺が一番よく証明しているつもりだ。

 武術と言う点で言えばど素人そのものの俺がHランク冒険者などと言う肩書をもらったのは、全くぼっチート異能などと言う全ての攻撃から逃げられるそれのおかげでしかない。


「俺の力はそれを実現するようになってしまえる力です、それこそ一人で何百人を相手にしても戦えるような」

「と言うか一人じゃなきゃできないんだろ?」

「そうなんです」

「だがそれをできるようにするパートナーがいるんだよね、キミには。まったく、二人だけで世界が統一できそうなカップルだよ」



 執政官様が笑う度に、ドレスを引きずるお姫様の顔はさっきまでのピコ団長さんのようになって行く。

「上のお兄様は既に王子様もおられるのでしょう、私を叔母にしたぁ!」

「それはおめでとうございます」

「しかも既に四歳、最近では私をぉ、テリュミって名前で呼んでくれるようになったぁ!」

「会いたいですね」

「だと言うのに!ムーシお兄様もこのウエダユーイチも、未だに女と睦言を行っていないとぉ!しかも誰ともぉ!このパラディンもぉ!まあ僧侶ってのは清い体が大事なのでまだいいとしてもぉ!」



 十五にして未だ童貞・処女と言うのは、比較的晩婚扱いらしい。

 二十歳ともなればそれはもう異性に興味がないか異性を捨てた求道者であり、世に言う変人扱いともなる。それは身分があってもなくても変わらないようで、ミルミル村にいた二十歳以上の人はみんな夫婦か死別による独身かであり、クチカケ村のロキシー村長のような存在がむしろ例外らしい。

 あのイトウさんも妻に近い存在がいるそうだ。


「失礼ですが執政官様っておいくつで」

「二十一歳だよ、妻は二十二歳で息子は四歳。ああもう一人お腹の中にいるよ」

「そうですぅ、私もほどなくそういう事をするのです!だと言うのに!あなたはぁ!」

「男女どっちが早いのですか?」

「どっちも同じです、とにかく私でなくてもいいですからぁ!」

「そういう事を言うもんじゃないよはしたない」

「ピコ団長やタユナみたいなこと言わないでくださいぃ、普段はお義姉様共々平気でそんなお話をするのにぃぃ!」


 相変わらず喰ってかかりまくるお姫様をも自慢の口舌で振り払おうとする執政官様だが、それでも姫様は食い下がる。みんな呆れて立ち尽くしているじゃないか、まったくもう……。


「それより作戦を早く」

「悪いね、ちょっと妹のほっぺを引っぱたいてくれる?執政官様の命だと思ってね」



 それで俺が執政官様の命令に従いお姫様の右頬を右手で軽く引っぱたいてやると、みんなの足が再び動き出した。



「何勝手に空間魔法使ってるんだよ」

「だってだってぇ!」

「それはあくまでも武器なんだ。一般人相手に武器を振り回して略奪を行えばそれこそ蛮族だよ、王族がする事じゃない。

 相手が冒険者だから?そんなのは屁理屈だよ、冒険者=戦闘力があるってのも偏見だし、冒険者=害意があるだなんて論外じゃないか。

 もちろん魔物=害意があるってのもまたしかりだよ、この町を建て直すのに何十匹のコークが必要だったかわかってるの?」

「七十八匹ぃ、ピコ団長さんが二日にいっぺん言ってたから覚えてますぅ!」

「八つ当たりは良くないよ」

「お兄様、ムーシお兄様!」


 ムーシも心細そうに足元を見つめるばかりだ。


 おそらくは俺狙いだった空間魔法が俺以外に炸裂し、視界を歪ませてみんなの足を止めたんだろう。


「お兄様たちはどうして」

「そろそろ着くよ」

「話を逸らさないで」


 そして堂々とその妹を薙ぎ払いながら修練場に降り立った。


 やあ、だのそれ、だのいかにもな声を立てていた兵士たちの動きが止まり、敬礼を取る。




「ちょっとこれから魔物を狩るからどいてくれるかな?」


 兵士たちが脇へと行く。ギャラリーも揃えて、いよいよ舞台の開幕って訳か。

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