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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第二章 冒険者デビューしてみた
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どっちもどっちな二人

 さてここに来て三日目の朝だが、今日は早朝から頭が痛い。



「あのなー…………」

「ごめんなさい、せっかく頑張ろうと思ったのに一日でクビになってしまって……」


 仕事欲しさに北の酒場に出かけてったセブンスの為しざまをそこにいた客から聞かされた時は、正直へぇ意外に弱い所もあるんだなとか感心する前にただ呆れる事しかできなかった。

 そればっかりはなりたくてなるもんじゃねえしと適当な言葉をかけながら、顔を合わせようとしないセブンスを必死になぐさめた。



「私がいけないんです、ついうっかりユーイチさんの注意を守らず」

「だからそういう意味……になっちまう辺り実にお前らしいな」


 そんで悔やんでいるのが客の勧めで酒を呑んでやらかした事じゃなく、そのせいでクビになった事だってのが実にセブンスらしい。これで今後そういう仕事ができないって事になったらどうしようとめちゃくちゃ真剣に悩んでる姿と来たら、正直痛々しくてかなわない。

 と言うか、ぶっちゃけクビにまでするほどなのかよと言う気はしないでもねえけどさ……


 いっつも真面目で、それでいて時に笑い、時に言うべきことは言う。俺が俺の世界の話をすると興味深そうに食いつき、素直に喜んでくれる。決して飾らないで、自分のままの自分をぶつけて来る。



 そんな彼女が、ひとたび酒が入るとめちゃくちゃ陽気になって派手にダンスを踊りたがるような子になるだなんてな、しかもとんでもなくダンスがうまいらしい。


「弱点のない奴なんかどこにもいねえよ」

「ならダンスでもして皆さんを喜ばせればいいんでしょうか」

「俺は右も左もわからねえこの世界でお前に救われて来たんだ、お前がいなきゃこの剣も手に入らなかったし、その前に飢え死にしてたかもしれない。と言うかさ、この剣本当に俺が使ってていいのか?」

「どうぞ……」


 十四歳と自称する彼女(やっぱりこの世界には誕生日なんて言う概念はなくていわゆる数え年らしいから実際は十三歳か、あるいは十二歳かもしれない)がどうしてこう育ったのか、ひと月しか一緒にいない俺はわからない。わかるのは、彼女がどこまでも責任感の強い性格だって事だけだ。



「じゃああらためてはっきり言うよ。今日はずっとここにいてくれ。どうかさ、俺を信じてくれないか?昨日はずいぶんとやらかしちまったけど……」

「わかりました、お料理の担当が空いているそうなので」

「……人の話を聞いてねえのか」

「わかってますけど、それでも私はそうしたいんです。と言うか、単純に私の料理を食べてもらいたいのもありますし……」

「それがお前の理想なら止めねえよ、でもくれぐれも無理するなよ」


 俺は宿屋の主人にセブンスの事を頼みながら、昨日と同じように宿を出た。

 素泊まり一人で銀貨五枚と言う値段は、決して安くもない。二日間で二五〇枚稼ごうが何だろうが、少しでもだらければ簡単に減る。

 ————と言うか、風呂代がバカ高い。飯が朝晩で銅貨八十枚なのに、風呂が銀貨一枚ってなんなんだよ。しかもはっきり言って家庭風呂レベル。まあ風呂って発想自体があまりないらしいけどな、俺がミルミル村でも風呂っぽい物を作ろうとしてセブンスに怒られた事もあった。


 セブンスは全くタイミングの合わない腕振りをしながら、俺を見送る。赤井と市村はすでに宿を出て、あのギルドへと行ったと聞かされた俺は遅い朝飯を口に入れ終わり、サラリーマンのような気分で徒歩数分の職場へと向かった。








「お前さんがこのギルドの守り人なんてこんな退屈極まる任務をか?」

「ええ、昨日調子に乗ってやらかしちまいましたし、それにセブンスも別の意味でやらかしちまいましたんでかなり落ち込んでて……」



 四人掛けのテーブル五つに、二人掛けの小さな卓が五つ。それが今日の俺の職場。

 ちなみに客は誰もいない。俺が時間かけてセブンスをなぐさめたせいで、赤井と市村含め客となるべき冒険者連中はほとんどが適当な依頼を漁っていたらしい。それでも残るのがこの依頼って訳だ。


 ちなみにギャラは銀貨三十枚。一応歩合制だが、よほどの問題が起きない限りは増える事はないらしい。



 このギルド兼酒場の護衛ってのはコボルドの剣狩りと並ぶ常設依頼であり、一応Yランク冒険者以上でなければ受けられない依頼である。

 と言ってもこの報酬の上に退屈なので誰も受けないらしいけど、それでも今日はそれをやりたかった。

 実際、俺もセブンスの職場である食事処の警護をした事があるが、ぶっちゃけほぼ立ちっぱなし。と言うか問題が起きない限りはほぼボーっとしてるだけ。よく言えば楽な仕事だが、同時にえらく退屈でもあった。


「彼女の側を離れたくないってか?ってかさ、俺はわかってたんだよ。あれは最初から酒が飲めねえって」

「わかるんですか」

「ここは酒場でもあるんだぜ、俺は酒も出すんだ。長年酒に触れてりゃ強い弱いもわかるもんだよ。それから良い酔っ払い悪い酔っ払いもな」

「ダンサーの供給って」

「ねえよ」


 まったく素っ気ない返事だ。ここはセブンスの行ったようなカジノと食い合うような酒場(セブンスを届けてくれたそこの店主によれば)じゃなくて、いかにもビジネスとしての場所だ。

 ぼっちの俺は友だちと遊ばず親にはいろいろ連れられて、遊園地のようないかにもなスポットだけじゃなく親父の仕事場辺りまで来た事もある。その時は珍しく耳目を集め、俺も親父の職場の側の店にそれなりに興味を持ちもした。その上でそれぞれの店の違いについて書いたそれを中学時代の自由研究にして提出してクラス内で銅賞の評価をもらった事もある。同じように見えても微妙に違う、人間だってそうだとか先生は言ってた。

 それでも俺は歓声を浴びたり、いい研究だなとか褒められたりする事はなかった。クラスで銅賞ぐらいじゃしょうがねえのかもしれねえけどな。



 とにかく俺はこの退屈な任務を集中してこなし、決しておごり高ぶらないようにしなきゃならない。



 さて、まずは……と思ってとりあえず出入り口に目をやると、一人の男が不機嫌そうに入って来た。



「お前か」


 遠藤だった。

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