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ムーシの罪

「ミタガワエリカか……」






 興奮しきっていたピコ団長さんが鎮まるまで数分の時を経て、俺は改めてその名前を出した。



「ムーシ、いや弟君からはなんと」

「非常に真面目ではあるが、自分がいかに真面目であるかにこだわるような人間だとも聞く。力を引き出してやる事に至福を感じると」


 他人が自分の思うに動かないと泣きわめくその有様はただのわがままでしかない、だがその方向が努力、勝利、繁栄とか言う肯定的な方向に向いているのが厄介なのだ。


「この世界を本気で征服する気だと思うか」

「ええ、あれはやると思っています。しかしその果てがどうなるかは予測したくもありません」

「力で抑えれば長続きはしない。ましてや人間はいつか死ぬ、その時のために国家を守るのに必要なのは何だと思う?」

「民の支持でしょう」

「いかにもその通りだ」


 どんなにきれいな言葉で飾り立て、きれいな方向へ向いていたとしても、その力の振り方が間違っていたらあんな事にしかならない。

 そのやり方を支えてくれる人間がいて初めて王様は王様になれるのだ。


「恐怖による支配は面従腹背を呼ぶ。ピコ団長、客人を疑っていては誰も取引をしなくなるぞ」

「しかしその……」

「ミタガワエリカの話を聞いていただろう?残念ながらお前のしていた事はそのミタガワエリカと同じだ」

「ですが」

「くどいぞ」


 本人からしてみれば実にまっとうで、しかも世間的にも称賛される主への忠誠心。

 だがそれをむき出しにした結果、今ピコ団長さんには痛々しくも生温かい目ばかりが向けられている。本来なら真っ先に従うはずの兵士やメイドさん、取り分けムーシの「父母」だった二人の目線が実に痛々しい。


「わかっておりますが、わかっておりますが、どうしても弟君様やこの二人から聞かされた話が信じられぬのです」

「具体的には」

「さっきも言ったように板を叩くだけで金が入るとか、何の魔力もなしに冷や水を使えるとか、この執政官邸よりもさらに高い建物に庶民が住んでいるとか」

「ああそう言えばムーシの家って七階だったよな」

「しかも入るだけで上まで行く箱があるとか!」

「ああそれは……」

「ましてや目にも止まらぬ速さで動く存在によって何千人単位の人間が死んでいるとか!」

「ええ、その代わり戦争はありません」


 未開の地からやって来て文明に触れた人間まんまの反応だ。ましてや実際に見ていない人間からすれば尚更突拍子もないお話の連続であり、信じろと言う方が無理なのかもしれない。俺たちと言う予備知識があったトロベでさえもエレベーターに四苦八苦しましたからと言わんばかりに苦笑いするぐらいだからなおさらだろう。


 そして王子様ってのはVIPだ。そんな存在が危険にさらされているだけでどうしても落ち着けない人間ってのは存在する。RPGとかで冒険の旅に出る王子様を王様はどう思っているんだろうか。


「しかし俺たちにとってはこっちの方が信じられない世界であり、こんな鎧も剣も、ましてや魔法などただの作り物でしかありませんでした」

「はぁ……そうか……いや頭ではわかっているのだがな……あのシンミ城陥落の事を思うとどうしてもな…………」

「ボクは知っているよ、ピコ団長さんがあの時攻撃を引き受けてくれたから生き延びる事ができたと」

「弟君様……」

「それにさ、ピコ団長、兄上、罪ならばボクにだってある。今の団長さんが犯している罪が。

 ここにいるみんなに対して大噓を吐いていた罪がさ。だよねジムナール兄上?」


 ムーシは執政官をジムナールと言う名前で呼び、真後ろの人とは真逆のさわやかな顔でそのジムナールに向かってほほ笑む。


「大変失礼だけどさ、俺あんまりムーシの事知らなかったんだよ」

「それはだね、極力目立たないようにしてたから。むしろそれでよかった」

「そう言えば三田川も田口にはおとなしかった気もするけどな」

「それでも恐ろしさを感じたけどね、直接的に暴力を振るって来るより。だからボクは正直、ロッド国の事はそんなに怖くないよ、ピコ団長」



 最後のピコ団長への呼びかけで思わずうっとなったのは俺だけだろうかと思ってあわててキョロキョロしてみるが、誰も動揺していない。


「ロッド国って、今でもこの国に戦争を」

「戦争を仕掛けるってのはわかりやすいよ。悪意があるからね。悪意による攻撃の方が与しやすい事をボクはわかってるつもりだよ」

「フッフッフ、ムーシもよく育ったものだ」


 善意のみでできた暴力の恐ろしさを、ムーシは三田川と対峙したわけでもないのに分かっている。それに比べれば目の前の敵国なんか何でもないって事か、ったくまさかチート異能のせいでもないだろうけどすごい同級生だ。



 執政官様は弟を誇るかのように笑い、よく見ればそっくりな笑顔で俺らに笑いかけて来る。



「自分の身柄を隠して背負い込んでさ、君たちにとってはえらく失礼な真似をした弟じゃないか。その上個人的な感情でひとり連れ込んでさ、まさかそんな力の使い方をするなんて悪い弟だよ」

「兄上……」

「まあいいじゃないか、彼らの中にその行いをとがめるような奴など一人もいないようだからな。私は寛容だぞ?

 だがさすがに調子に乗り過ぎたきらいはあるな。だから罰としてもう少しピコ団長に騒がせてやれ」



 …………で、口の鋭さも弟同様だった。




「それは、俺たちに協力してくれるって事でいいんでしょうか」

「ああそうだ、あくまでも国難たるミタガワエリカを阻止するためにな」



 とりあえずの協力を得られたはいいものの、どうやらこのジムナール執政官様ってのもかなりの強者のようだ。

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