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画家の正体

「もう、ピコ団長ったら!」

「申し訳ございません、私も正直あのタユナがあそこまで簡単に折れるとは思わず」

「その件に関してはこっちもお詫び申し上げます」


 執政官室にいた警護兵から執政官の不在を告げられたピコ団長は、えらくばつが悪そうだった。


「どうもいけませんな、私もどうしても誠意を持たねばならぬと懸命になってしまいまして」

「執政官様に誠意を持つんならその妹さんにも誠意を持って欲しいなーって」

「そう言えばタユナがこんな簡単に折れるとは思わなかったって言いますけど、団長さんタユナに何やらせたのです~」

「私は特段何もしておりませんが、どうしても新たな冒険者の力を生身で試すと言って聞かず、それで打ち合いに持ち込もうと」

「あの人私が一時間やっても認めなかったんですよ~?ここで折れたら誰のためにもならないとかって必死になっちゃってましてぇ~、最終的に一本取ったはずなのに自分ごとき五分で倒さなきゃ認められないってぇ~」

「空間魔法でどうやって敵を倒すんですか」

「それはですね、作った空間の中に相手を放り込んでギュッと固めて潰すとか、あるいは全然違う世界に放り出すとかぁー」

「後者の域に達するのには何百年もかかりますがな」

「って言うかあの人本気でそこまで行かなきゃ折れそうになくって甚だ困ってたんですぅ~」


 空間魔法は偽物の空間を見せつけて相手を惑わすだけの魔法じゃないらしい、まあオユキの氷魔法だって魔物を砕くのにも使えるし水を作るのにも使えると考えれば同じ事か。

 

「そんなタユナをあんな簡単に倒すだなんてやっぱりすごいんですね、ウエダユーイチさんってぇ~」

「俺の力は一種のインチキですけどね」

「自分で自分の事インチキなんて言いませんよ~」


 そんな微妙の空気のまんま階段を降りた俺たちは、さっきと逆側の方向へと通された。


 今度はみんなも一緒だ。

「つい気が逸ってしまいお詫びを申し上げる。ほどなくして執政官様も再来する故それまでは我らの自慢の絵画を見ていただきたい」

「聖書の教えではいわゆる偶像崇拝は禁忌とされていると聞きましたが」

「だから絵画と言ってもいわゆる風景画や人物画がほとんどだ、静物画ももちろんある」


 そんな訳で俺らは中央階段のすぐ右にある部屋のドアを開けた。




 団長さんの言葉通り、様々な絵が並んでいる。


 俺に絵の良し悪しはよくわからないが、中央に大きく構える絵が王様の物で、その両端にあるのが王子様の物っぽい事はわかる。


「中央が我がシンミ王国のツカオサ国王様、右側が第一王子様で、左側が執政官であるジムナール様だ」

「ずいぶんといい絵ですね」

「この絵は一体いつごろからあるのですか?」

「ひと月前だ」

「え?」

「と言うかこの部屋にある絵は全部この二ヶ月で描かれた物だ」


 部屋中を見渡した所ざっと二十枚ほどの絵がある。油絵を一枚描くのに何日かかるか俺にはわからないが、三日に一枚のペースでこんなに描けるもんなんだろうか。

「これまでにも百枚近い絵が描かれている。その絵をペルエ市にも出荷しているが正直不調だった。山賊がいたからな」

「山賊……」

 ……と思ったら百枚だと。まったく、二ヶ月で百枚だなんてそれこそ途方もないお話だ。適当にデッサンを取ってパパっと色を塗ってハイ完成だなんてのはそれこそ落描きその物であり、出荷できる代物になりそうもない。

「その山賊を通じて執政官様はウエダ殿の話を聞き、そして興味を持ったのだ」

「山賊と言うとミーサンですが、ミーサンはその絵を」

「奪う事はしなかった。実に独特な絵で好き嫌いがあるゆえに好まれなかったらしい。まあ風景画や静物画はいいとしても正直な話人物画は賛否両論でな」

「えっ?」


 さっきのセブンスに引き続き、今度は倫子が驚いた。

 王様の絵も二人の王子様も絵も特に外連味がある訳でもなく、音楽室とかにありそうなありふれた油絵でしかない。

 左右に首を振って風景画や静物画も見てみたが、やっぱり普通にきれいな絵だなとしか思えない。

 山に街、それから海。そして果物に剣、剣に槍。

「こういう武器の絵って需要あるんですか」

「刀剣は危険さゆえにその美しさをも宿している。それゆえに人間は魅かれるのだ」

「粗食は逃げる食事、飽食は突っ込む食事なり……」

 言いたい事はわかる。ローリスクハイリターンなんて存在せず、健康にいい食事は味や栄養の点で損をし、美味い食事は体に悪いんだろう。

 確かに強力な武器は魅力的かもしれねえけど、同時に恐ろしいもんでもある。だとしたらせめて絵でってのもあるんだろうな。まあ絵に描いた餅って言うけどな。




 って言うかもう一度言うけど人物画もとくに……




「もしかして、私の事じゃないですかぁ?ほらこっちぃー」


 と思い来たそうお姫様が間延びした声で言うもんだから入り口の側に目をやると、ずいぶんと画風の違う絵があった。




「しかしこの絵はずいぶんと画風が」

「ええ、まあ他のも含めてお兄様の仲間だと言う方の絵なんですけどぉ~自由自在に書いて下さいって言われたらこうなったんですよぉ~」




 目が大きく輝き、髪もやたらと艶やかだ。それでなぜか胸元を強調されている。




 って言うか、似たような絵のデザインを何度か見た事もある。


「お兄様の仲間?」

「そうだ、その少女が描いた絵なのだ、ここにある絵はすべて」

「そして今度、シンミ王城を経てペルエ市にも出荷する予定なんです~もちろんそのお仲間さんの絵として~」



 赤井はじっとお姫様の絵を見つめ、大川はいぶかしげに本人と絵の中のお姫様を見比べている。

 正直、似ているかと言えば微妙だ。確かに可愛らしく美しいが、少し盛られている気がする。好き嫌いがあるのも無理からぬ感じではあるが、積極的に廃されるような代物とも思えない。







「すみませんお姫様、今二枚ほど描き終わりました」

「もうできたんですかぁ~すごいですよねぇ~」


 で、今更ながらここは展示室であってアトリエじゃないらしい。まったく、一体どんな画家が……


「まさか!?」

「もしかして赤井君!」




 この展示室に二枚の絵を持ってやって来た、黒髪のメガネ少女。







 ――――それは紛れもなく、藤井佳子だった。

作者「これであと一人です」

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