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お姫様の空間魔法

「何をやっているのですか!姫様!」

「あれ?って言うかなんでこっち来るんですのぉ?」

「だってこっちに来いって言うから」

「みんな手すりにぶつかったり花に突っ込んだりしてたのにぃ、もしかしてこれがHランク冒険者って人なんですかぁ?」


 金髪縦ロールに純白の丈の長いドレスを着た、よく見れば実にお姫様らしいお姫様がやけに不思議そうに笑っている。


「まったく姫様、いつまで警護兵気取りなのですか!そんな事は他の者にお任せいたしてください!」

「だって聞いたんですよ~兵士たちが暴れちゃって、それで私がやるしかないって~!」

「ああもうまったく……」

「これ魔法ですか?」


 どうやらこれはこのお姫様の仕業らしい。魔法なのかって聞いたら両手の親指と人差し指を立てて来た。


「お、いや私はウエダユーイチ。執政官様に正体を受けて来たのです」

「お兄様から聞いた事ありますけどやっぱり凛々しいお方ですわねぇ~」

「兄上からですか」

「そうです兄上様からですぅ~」


 可愛気に首をかしげるその姿はかなりの愛敬を感じさせる。

 って言うかここの兄ってのもかなりの情報通のようだ。


「じゃあなんでまた」

「あの私、実はですね、皆さんの顔知らなくって、それでつい不安になっちゃいましてですねぇ~」

「ちょっと!」

「まあまあ大川、まあそりゃそうですよね」

「ですから空間魔法を使って万が一の場合に備えたんです団長さん~」


 既に知れているように、このミワキ市の執政官はシンミ王国の王族。いざとなれば真っ先に守られるべき存在。警護はいくらいても居過ぎと言う事もない。

 ましてやちょっと前に本来守るべき兵士たちをボコボコにしたのは俺だ。知っているとかいないとか言う前に警戒しない方がおかしい。


「それで階段の位置を捻じ曲げて、と言うか幻覚を見せてぶつけようとした訳ですか」

「そうです~」


 で、空間魔法とやらは、最初は害意があったからかからず、害意がなくなったからぼっちにしなくなったって事か。


「その魔法はいたずらのためにあるのではないのですぞ!」

「団長さん話聞いてた~これは警備なのです、警備。だってみんなさ」

「それは兄上様のおかげでしょう!」

「ああごめんなさい皆さん~」


 頭を掻きながら舌を出す彼女には少しも悪びれる様子もない。

「俺はただの冒険者で、この国は戦争のただなかにあった国です。警備を堅くするために戦闘能力を身に着け行使するのは王族の皆様と言えども必須だと思います」

 俺が言おうとしたことを市村はあっさり言ってくれる。


 タユナさんのは行き過ぎたかもしれないが、実際俺らの目の前には魔王とミタガワエリカと言う二つの大敵が待っている。また北ロッド国もどうもきな臭いようで、その点ではここもまだ平和とは言えない。


「うむ……ですがその空間魔法はまだ修行中なのでしょう、彼らは執政官様がお認めになった立派な冒険者なのですから姫様はご安心ください」

「はーい」


 元気なあいさつ。そしてお茶目だけどしっかりとした心構え。


「彼女の兄もああやって立派だといいのでありますが」

「あらどうもありがとうございます~」

「では参りますぞお客人の皆様」


 まあとにかく今は執政官様に会うのが先決だとばかりに左側に回ろうとすると、いきなり目の前に壁ができた。



「姫様!」

「今はダメなんです団長~」

「ダメとはなんですか!」


 言うまでもなく空間魔法によるインチキな壁であり腕も通ったが、それを作った姫様の顔がやや乱れている。


「実はその、兄上から、ちょっと」

「こんないたずらをしている場合ではないのです!」

「兄上は今トランプをしてまして、四人で」

「トランプって、やっぱり王家御用達品ですか?」


 俺らの手元にもトランプは二組ある。この前ノーヒン市に泊まった際には議論ばっかりでいっぺんしか触れなかったが、その際には八人そろってババ抜きを三度ほどやった。

 結果は俺の三連敗。ジョーカーは俺をぼっちにせず、見事な具合の相思相愛っぷりを示してくれた。

「って言うかさ、一応招待されてる側なんですけどー」

「執政官様ほどのお方だって息抜きは必要です。それにオユキさん、ピコ団長さんの反応を忘れたんですか?」

「ああそうだったね、団長さんすごく意外そうな反応だったしー」

 オユキの言う事もセブンスの言う事ももっともだ。招待する側が客をすっぽかすのは何事だって話だが、執政官様と言うか王族にはその権利がある。もちろん激務の疲れをいやすためにトランプをする権利もだ。

「だって最近物騒だし、いろいろとー。シカフーも最近は時々挙動不審だしー」

「あの男は誠実です。二年ほど前に死にかけの状態でやって来て十日ほど王宮で面倒を見た所見事快癒し現在ではこの執政官府一働く男ではありませんか」

「でも最近さ、ちょっと夜が長すぎるんだよねぇー。いつまでも必要以上に動いてる感じでさぁ、って言うかシカフーもいい加減結婚でもすればいいのにぃー。そういう所ってお兄様に似ちゃったのかなーって。ったく燃料もただじゃないんだけどなー。って言うか今はダメだって、ってああ聞いてなーい!」

 でもピコ団長さんは聞いてない。俺が足を止めたのに構う事なく透明な壁を突き抜け、進みまくっている。

「あの、ちょっと!」

「まったく、いないとか言われても!」

「聞いてないのぉ!」

「だいたいそんな事で!」


 俺があわてて小走りでピコ団長さんを追いかけ手を掴もうとするが、団長さんは細い階段をわき目もふらずに進んでいる。




「執政官様!お客人をお連れいたしました!」



 で、わざとらしく雑な作りのドアを叩き、中にいる人物を求める。


「あの、やっぱり……」

「だから、団長さん……」

「今開けます!火急の要件に付き無礼をお詫びください!」


 そして俺や姫様の制止も聞かず、ドアを開けて部屋に入り込んだ。




 ……いないじゃないか。




「まさか魔法を」

「使ってないですぅー団長ー!」

「執政官様!」


 ……やっぱり何も言葉は返って来ない。


「団長、何か?」

「執政官様は!」


 あ、声が返って来た。



 明らかに兵士でしかない格好をした男の人の声が。



「まだ三十分ほどありますが」

「……」


 あーあ……ピコ団長さんの顔がひしゃげてるよ……。

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