番外編:三人娘の異世界旅行
メリークリスマスイブ、こんなお話でも良ければどうぞ……。
「さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!私たち黒髪三人娘!ミナミです!」
「ゲイコです!」
「ツキコだ…………」
「いよー、今日も頼むぜー、ほらそこの頼れるお嬢ちゃんもぶすっとした顔しないでさ!」
みんな、本当に陽気な人たちだ、あー楽しみだなー!
私、神林みなみ。今日も一年五組のクラスメイトである木村迎子と日下月子と共に、舞台に上がっております!
「月子ちゃん、相変わらず堅いなあ」
「うるさい、私には芸などできないぞ、お前たちと違って」
「そこはそれ、警護役も込みだから!」
こんな世界にいきなり来ちゃって大変だったけど、それでも持つべきものは友だちだよね!ああ、楽しい。
まあ普段は炎をまとった剣の使える月子ちゃんに冒険者稼業を任せっきりですけど、だからこそ夜は私たちが思いっきり稼ぐ番です!私たちなりに必死になったおかげでXランク冒険者の月子ちゃんよりもうかってるのがちょっと複雑かもしれませんけど、それでも月子ちゃんはしっかり司会をしてくれます。
「言っとくけど今日は新顔のウェイトレスちゃんがいるからね、負けちゃダメだよミナミ!」
「負けないからね!」
この酒場でウェイトレスをしたいと張り切ってる女の子、セブンスって言う子なんですけど、今日が初日だってのに実に真面目でいい子です。
一応、他にも行くとこはあるとは言えとりあえずそういう役目を背負って来た以上、目一杯私たちは皆さんを楽しませなきゃいけません!
そういう訳で、私は歌を歌います。
曲目は、たぶんこの世界では私とあと三人ぐらいしか知らない歌。
「なんだかよくわかんないけど凄そうな歌だ!」
「おおいいねいいね!その歌、何か元気が出るよ!」
「明日も頑張ろうって気になれるじゃねえか、ヨッミナミちゃんサイコー!」
赤井君が勧めてくれたアニメの主題歌。私はこの曲を歌う人にずっとあこがれてる、立派な声優さんになりたい、いろんなキャラを演じたい。
戦うヒロインも、悪役だってやってみたい。その私の希望をかなえてくれたのかわかんないけど、私はこんなにもみんなを魅了できる歌声をもらった。
「もうやりすぎだよー、私のハードルだだ上がりじゃない!」
「前回は私の歌がいまいちでそっちがウケたから順番変えたのにー」
「はいはい、そこまでそこまで。続いてはゲイコの手品をはさんでもう一曲行きます」
まあ要するに、いわゆる吟遊詩人って仕事で私はお金を稼いでる。
月子いわくあんまり地位の高くない仕事でそのせいでお金を投げられてるとか言うけどさ、この副委員長様いちいちお堅いんだから。
投げられようが手渡されようがお金はお金じゃない。
と言うかスターになるからにはスキャンダル厳禁な訳で、まだ十五、十六歳の私らにはお酒は厳禁な訳で。その点でも私らは少し損をしている。
「まあいいじゃねえか一杯ぐらい!」
「そうですね、お客さんのためなら!」
私たちがお酒を飲まないもんだから、そういうサービスをしてくれる人たちにはどうしてもその点で負けてしまう。セブンスちゃんって子、本当熱心だなあ。
なればこそ精一杯頑張らなきゃ。
「さーてこちらのボールをご覧ください……よっと!ホーラ、放しても落ちません!」
「さてさて、ここで取り出したるは一本の剣。これをすっと振ってみますが、あら不思議やっぱり落ちません!」
「すげえ……」
私が歌なら、迎子は文字通りの大道芸。タネも仕掛けもない魔力によるさまざまな芸で、ツインテールを振り乱しながらみんなを楽しませている。
ああついでに、戦いの時は私は癒したり引き付けたり、迎子は惑わしたり誘導したりと言う方向で頑張ってますから、はい。
それで迎子の芸が終わり、そしていよいよ私の次の曲。
「次は、少女が恋人への思いを込めた歌です」
相変わらずお堅い月子の口上と共に、私は歌い始める。
アニソンだから激しくとか明るくとか、そうとは限らない。さっきと同じ声優さんが歌うこの歌を聞いた時、私はますます声優にあこがれた。
そのためにいろんな事をして来た。月子はたぶんこの世界を抜けだしたらそんな力なくなるとか言うけど、それでも大勢の人の前で歌ってきた経験は残るはず。それでいいじゃない。
「♪~~~~♪~~~」
よし、ここからがサビなんだよね。ちゃんと彼氏に去られてせつない気持ちになった主人公の子の気持ちを歌い上げなきゃ……
「ヒャーッハッハッハッハ!イエイイエイイエイイエイー!」
ってちょっと誰!?これ笑う曲じゃないんだけど!
「ユーイチさんにも聞かせたーい!アーッハッハッハ!」
「ちょっと姉ちゃん!」
「ハッハッハッハ、アーッハッハッハ!!」
ってあの子、何急に笑いながら踊り出してるの!?って言うかステップもキレもかなりあるけど、もしかして踊り子の才能でもある訳!?
「イエイイエーイ!ミルミル村のセブンスでーす!」
「あの……」
「おいてめえ、今はミナミちゃんの」
「あーなんですかー、もしかしてお酒が足りないと~?すみません、こちらの方にもう一杯追加~!」
いかつくて怖そうな男の人がひるんでる。
セブンスちゃんたらさっきまでと別人のようなまったくしまりのない顔をして、やたら陽気に笑ってる。
金髪も派手に揺らしちゃってさ、私も迎子もただあ然ぼう然、すっかり主役持って行かれちゃった。
「……っつーかよ、お前さっきまで何っつってった?」
「ああすいません、お勘じょ」
「てめえだろ、彼女に呑ませたの!」
逃げようとした人が仲間の人に捕まってる。
すごいなー、酒乱ってのをこの目で初めて見ちゃったよ。
私たちの舞台の目の前で踊りまくって、真似したいぐらいのレベルのダンス見せつけちゃって……。
「月子……」
「やめなさい!」
「アッハッハー、熱くなっちゃって面白~い!ハッハッハッハ~!」
腹が立つもんで月子ちゃんに殴りかからせようとしたけど、見事なまでの回避力。
何これ、まるっきり最強じゃん……私ら二人が止めようとしても全然ダメ、まるで神がかりなステップだね。
で、やるだけやって彼女は電池が切れたように止まってしまい、私らがもらうはずだったギャラ(って言うか投げ銭)を横取りしながら宿屋へと運ばれて行った。
そのせいでクビになったのが幸いなのか不幸なのかわからないけど、とにかく今日は本当厄日だよね……迎子も月子も無言で頭抱えながら店を出て、そのまま定宿へ帰宅。
あーあ、やっぱりあのミーサンさんの店行こうかな……。
そう言やユーイチとかって聞こえたけど……黙っとこ。




