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シンミ王国ミワキ市

「しかしシンミ王国が巨大な国だとは私も知らなかったであります」




 シンミ王国は現在、この世界で一番大きな国らしい。


 ペルエ市やミルミル村、ナナナカジノ周辺まで含んでいるだけでなくこの旧ロッド国の領国をも入っているとなればそれはまあ当然ではある。


「我が国の北側は未だに戦禍あり、あくまでも旅人である冒険者に弱みを見せるのは」

「確かにそうだけど、しかしそれにしては」




 ペルエ市。リョータイ市。




 この世界にある二つの大都市よりスケールこそ小さいが、両者より整然としている。


 俺達がソウギさんの先導を受けている事もあってそういう身分だとわかっているせいもあるだろうが、町の人たちも乱れているところがない。

 たくましそうな人が、非常ににこやかに荷物を担いでいるのもいい。


「言いにくいのですがペルエ市は」

「ペルエ市か、あそこは戦火とは無縁だったからな、その分だけどうしてもな」

「赤井」

「皆まで言わせないでいただきたいであります…………」


 ペルエ市に何があったのか、赤井の顔が物語っている。


 西と北と東と王城への道しか行かなかった俺が知らないペルエ市の闇はさておき、俺がまず驚いたのは地形だ。




「ずいぶんとわかりやすいですね」




 セブンスの言う通り、本当にわかりやすい。



 どこまで行っても十字路、十字路、十字路。



 ちょっと曲がっても十字路。




 そう、まるで京都のように碁盤状になっている。




「これについては神託とも言われております。民の事を思えば栄光は続き、倒れても立ちあがるは易しと」

「それでこんな街並みに」

「ええ、また戦禍により何もない状態だったので」


 ほとんどの建造物を失ったミワキ市を再建するために都市計画を一から作り直し、こんな都市に仕立て上げたらしい。

 まったく、誰が言ったのかは知らないがずいぶんと大がかりで見事な都市計画だ。




「それでその結果このような……」

「政を道楽とするは王の特権なりと聖書にもあります」



 二つ目は、世界史の教科書で見た建物があった事だ。




 町の中央にそびえる、家や商店の数十倍大きな石造りの建物。


どう見ても、コロッセウムだった。



「復興の間、多くの戦士がこの場で戦い、観客に興奮を与えていた」

「戦士のなり手がいたのですか?」

「たくさんいた。何せ戦後すぐだったからな」


 戦争が終われば兵士は余る。土木作業員のようになった人間も多いだろうが、戦いの興奮を忘れられない人間も多いだろう。


「このコロッセウムでの経験を経てシンミ王国騎士団に仕官した存在もいる」

「では私たちもそうやって」

「貴殿らは不必要だろう、何せHランクなのだから」


 またランク特権だ。

 確かにHランクって言葉が出ただけで静かだった町がざわつくのを感じたが、だからと言ってこれは甘すぎるのではないか。


「まったく私用、その上一時的な存在になるのが確定的だって言うのに」

「彼女の事はもはや私用ではない。魔王に匹敵する存在だ」

「魔王に……」


 ミタガワエリカはこの町でもWANTEDになっている。

 あちこちに妙にできのいい手配書が貼られ、罪状が並んでいた。


サンタンセンでの大量殺人による盗賊への支援行為、それとブエド村での殺人。とりあえずはそれだけだがまだまだ他にもありそうだ。


「この闘技場を彼女は嫌がっていると思います」

「それは」

「パンとサーカスの原理と言うのが私たちの世界には存在するであります。しかし残念ながら彼女はその原理を理解しておらず、パンを大量に与えればサーカスなど要らぬと思い込んでいるのであります。聖書で言えば政を道楽とするは王の特権なり、に近いでありましょうか」


 食糧だけでなく、楽しみを与えなければ民は勤労しない。

三田川は熱心に勉強していたはずなのにその事を全く忘れ、一個のパンと一床のベッドを求める人間に百個のパンを与え続け、それで思い通りに行かない事を嘆いていた。



「俺たちは見ています、政を道楽としていた王の失敗を」


 そう、コーコ様も政を道楽とした王だった。

 意味合いは違うが彼もまた自分なりの楽しき生活を送っている内に無意識にテイキチに圧力をかけてしまい、そしてテイキチを潰してしまった。


「私にはとても優しく、いや皆さんに優しい王様でした」

「素晴らしい王様でしたけど、その素晴らしさが災いを呼ぶこともあるとは全くややこしいですね」

「自らの身の丈より重い物を背負うは悪行にあらず、されど善行にもあらず。過剰に負荷がかかるを楽しむはただ道楽なり……だったっけ?」


 仕事ってのは大変なもんだって事は俺でもわかる。

定年とか以前に体を壊して休暇を強いられたりやめたりする事を余儀なくされる話は枚挙に暇がなく、みんな心身ともに疲弊して骨身を削っている。そしてその責任は地位に正比例するのが社会の決まりだ。


「彼女に取っちゃ幾百時間の学問は道楽だったのでしょう」

「恐ろしき存在ですね……」


 コーコ様のような立派な存在でもああいう結果を生んじまうんだから、ミタガワなんか言うまでもねえよな……ったく、どこまでもあの女は……。







「おいソウゴ、一体どこへ行く気だ?」


 俺が王国の力を借りて倒すべき存在について嘆いていると、やけにいかめしい一団が前からやって来た。

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