我が名は魔王にして
作者「あけましておめでとうございます」
上田「もう1月5日だぞ」
作者「だからその間他の作品出したり外伝更新したりしてたじゃないか」
上田「これも外伝だろ」
作者「まあまあ、第三部開始前と言う事で」
「戦果は」
「残念ながら皆無でございます……」
「ああ!」
椅子に座ったまま足を踏み鳴らす音が、城の中に響き渡る。
四方を山に囲まれた盆地にふさわしい生暖かい風が吹く中、この世界のどこよりも大きな領土を持っているはずの王はひどく不機嫌だった。
「一体どうなっているのだ!何体の配下を送り込んだと思っている!」
「ざっと千二百体、生き残りは二十体程度」
「そんな話をしているのではない!」
王は野太い声にふさわしい足で報告して来た魔物を蹴り上げ、石壁にぶつける。魔物が痛がりもしないのに半ば愛想を尽かしながら着座し、元から青かった顔を余計に青くした。
「フーカン、いいかげん対策はできたのか」
「一応ありますが……」
「言ってみろ!」
身振り手振りを行う身長1メートルの報告者の必死さは、本来ならば痛々しいと言う言葉が似合うものだったかもしれない。
だがその痛々しさを感じる事ができたのは余裕のある傍観者だけであり、王からしてみればいらだちの種でしかなく、また余裕のない者からすれば王の存在をより際立たせるだけだった。
「どうやらその、彼を害そうとするから当たらないようなのです。剣には当たったという報告もあります」
「つまりなんだ」
「つまり本人を狙ってはならぬと言う事であると私は考えます」
ようやく言いたい事は言い終わりましたとばかりに踵を返そうとするフーカンであったが、いきなり足が動かなくなった。
「あの……」
「だから本人を狙わずにどう勝つ気だ」
「ですから、その、誰かを、狙っての、流れ弾を、ですね……」
「流れ弾でどうする!」
「ほらその、ですから光線や刃物などではなく、多数の弾を、放つような、形で……」
変温動物のくせに冷や汗を流しながら舌を回す部下をにらみつけながら、次々と矢継ぎ早に問い詰めて行く。
フーカンの呼吸は徐々に荒くなり、必死に脳内をこねくり回して言葉を紡ぎ出そうとしている。追い詰められた詐欺師がなんとか損害賠償の支払いの減額を狙うように最後の武器である弁舌を振り回し、必死に同情を引こうとしている。
「だが奴には自爆攻撃も通じなかったのだぞ」
「それは既に報告が入っており、奴自身を狙おうとしたから失敗したのだと言う事が既に分かっております」
「だったらなぜもっと早く言わなかったのだ!」
「トードー国においてノークはほぼ全滅、残ったガーゴイルもその後すぐノーヒン市に割り振られ、そして、その……」
フーカンの言っている事は、実の所事実の羅列に過ぎない。多数の弾と言うのはともかく後は見て来たならば誰でも言える程度の事であり、正直さほど重大でもあっても耳新しい事実でもない。
「オワットの段階でその点はある程度分かっていた。それでどうするか対策を今の今まで打って来なかったのか」
「それがその、スキャビィは通商の破壊、モンヒはトードー国の傀儡化に専念しており、ですから」
「ノイリームがいただろうが!」
「ノイリームもまた、ノーヒン市に潜伏してあの人間を事実上の傀儡として」
「バカモノ!」
王が竜の首筋をつかみ、冷たく小さい体を自分と同じ目線まで持ち上げた。さっきまで青かった細身な体は怒りで震え、つかまれているフーカンは口から泡を吹き出しそうになっていた。
「今までにあのウエダユーイチとやらが一体どれだけのわが軍の戦力を削って来た!」
「ですからその旨!私は、私はぁ!」
「ああもう!通信魔法があるだろうが!」
「魔王様、それがその……ああ……!」
うめき声が消えそうになると同時に、フーカンの気道が開いた。
小さな体が尻から落ちると共に小さなドラゴンの目から流れた液体が床を濡らし、まるで首を絞められた死体のなれの果てのような染みを床に残した。
「すまん、つい……悪いのはこのわしだ……」
「すみません、私も、その……」
魔王はドラゴンの匂いがべったり付いた両手を嗅ぎ、自分の興奮を収める事に必死になった。
本来ならば刺激臭のはずのドラゴンの香りが清涼剤になるのがこの城の現状であり、魔王の実情だった。
「まったく、つまらん八つ当たりをしてしまって済まなかった……」
「いえその、魔王様のご期待に沿えず申し訳ございません……」
二人して罪をを悔い合ったまま、重たい空気だけが二人きりの王の間に立ち込める。元々景気のいい話ではなかったと言えど、どっちも何も言えないまま床の乾きを待つだけの時間が流れた。
「それでやはり、通信魔法が断ち切られたと」
そしてようやく沈黙を破ったのはフーカンであり、魔王はその小さなドラゴンの頭を撫でていた。
先ほどまで魔王に怒鳴られていた哀れな中間管理職の姿もなければ、その大した責任もない中間管理職の首根っこをつかんでいた暴虐な上司の姿もない。
「ああ……」
いるのは、ただ嘆きを並べる二体の魔物だった。
「ここ三ヶ月ほど、通信魔法が作動していない」
「私も調べたんですが、どんなに出力を上げてもダメで」
「わし自らやってもダメだった……」
通信魔法とは平たく言えば上田たちの世界における電波であり、情報伝達用の魔法である。人間でも使えない訳ではないがかなり難しく、魔物でも使えるのは少数であった。
「その結果、四ヶ所全てで凌がれてしまった……」
「一ヶ所でも攻めておれば!」
もしサンタンセン、トードー国、ブエド村、及びノーヒン市と言う四か所で一斉攻撃ができていれば、少なくとも一ヵ所は行けていたはずだった。
だが実際にはバラバラのタイミングで作戦が実行され、結果的に最初の街道封鎖、次のトードー国傀儡作戦、ノーヒン市へのノイリーム侵攻、最後のブエド村襲撃のすべてが、ただ道なりに進んでいるだけのウエダユーイチと言う存在に阻まれてしまった。
「作戦の期日をなぜ……!」
魔王は歯嚙みをしながら両手の拳を震わせた。
兵力の逐次投入が愚策なのは、全力で投入していれば抑えられたはずの損害を余計に負う事になるからである。少数の軍勢が順繰りでかかった所で全滅→猶予を与える上に勢いを付けるの悪循環であり、敵を疲弊させるにしても非効率である。
「何者かが干渉しているのは間違いないのだが……」
「まさか女神が戻って来たとか」
「女神ならばわかる、明らかに違うそれだ。だからこそガーゴイルたちも精鋭を派遣したはずなのに!」
「それもどうやら、しかも根こそぎ……」
もちろん魔王とて混線を断ち切るために出力を上げたり周波数も変えたりしていたが、その度にまた妨害が入る。実は女神もまた通信魔法に干渉するべく妨害電波を飛ばしていたが、それがここ最近はやんでいた。
————だからこそ、魔王は動いたのだと言うのに、結果はあまりにも無残だった。
通信魔法が使えなくなってからガーゴイルを使ってのアナログな伝達も行っていたが、ここ最近そのほとんどがあっという間に殺されており、最低限の連絡を取る事すらできなくなっていた。
「まだ中核戦力は残っているが、この調子では迂闊に動けん」
「この城まで敵は来るのでしょうか」
「来ると考えろ。とりあえずウエダユーイチについては仲間を狙うように伝えておく」
「しかし」
「あの魔法の事か。だからこそブエド村にいた連中に最近大量生産させているのだ。一応それなりの待遇をやっているつもりなんだがな」
もちろん魔王に取って課題は山積みであり、ウエダユーイチ対策もまたしかりだった。
確かにウエダユーイチに打撃を与えるにはさっき言った通りでいいのかもしれない。
だが今のウエダユーイチにはヘイト・マジックと言うターゲットを集めてしまう魔法があり、そのせいで勝手にターゲットがウエダユーイチになってしまう。
多くの犠牲により魔法防御力の増強でしのげる事はわかっているが、だとしてもどの程度のそれが必要なのか魔王軍もわかっていなかった。
「鉱石は後どの程度ある」
「えっと、全部を現在のアクセサリーに使うんならおよそ五千個分」
「採掘はどうなっている」
「それがかなり質が落ちていて」
「わし自ら渡す事も考える。ある程度までならば効果もあるはずだ。わしの力を使えば」
魔法防御力を高めるアクセサリーの元となる鉱石は、その大半がブエド村産である。かつての襲撃の際にため込んでいたそれをここぞとばかりに放出し加工して魔物たちに持たせている。
実際今魔王の首にも、フーカンの首にも、そのアクセサリーが輝いている。
「それでその……」
「何だ」
「いっその事この城の一部をはぎ取って」
「真面目に物を言え!」
「真面目です!」
魔王の城のほとんどが、百年ものである。
その城を構成する石積みの中には当時その重要性をさほど顧みられずただの壁にされていた石があり、それを使えばまだアクセサリーが作れなくはないのも事実だった。
「わしは少し誤ったかもしれぬ」
「そんな!」
「このマサヌマ王国を奪い取る際にわしは司教を洗脳したのは良かったのだがな……少し慌てすぎたやもしれぬ」
魔王はかつて後の教皇となった司教を洗脳し、聖書絶対主義国家を作らせた。
聖書を一言一句暗記できる者だけが出世し、一文字でも間違えれば即降格と言う決まりの元にピーク時の十年間で三人の教皇と十八人の司教と三百人以上の僧侶を降格させ、同数の鉱山夫を死に至らしめた。
そして増大した教皇の権威はやがて俗権をも凌ぐようになり、その後の三十年間で教皇こと魔王は三人の王を破門してその度に新たなる傀儡王を据え、そして百年のうちにマサヌマ王国を事実上奪い取った。
そしてミワキなる英雄により魔王の存在を突き止められそうになったのに合わせ、初めて名乗りを上げて魔王として降臨。マサヌマ王国を大混乱に陥らせ、ため込んでいた部下と共に蜂起。
従えばよし逆らえば殺すと言うたった一条の法律をもって脆弱化していたマサヌマ王国を占拠、魔王の国としたのである。
「あるいはもう百年あれば世界中に混乱をまき散らしきれたかもしれぬ」
「それはもう繰り言です。今は目の前の事を考えなければ」
「目の前と言うとやはりウエダか」
「ウエダは現在忌まわしきミワキ市に向かっております。あるいはもう一度」
「よせ。今はまだ戦力を失いたくない。ウエダの狙いを探るのが先だ。下がって良いぞ」
魔王自身、世界を統べようと言う野望を捨てている訳ではない。
(もし刃がこちらに向いた時はそれまでだ、ウエダユーイチ……)
それでも軍の長として、国の王として、国民を守るつもりではいる。
マサヌマ王国の歴代のどの教皇にもなかった決意が、いつの間にか玉座になっていたかつての教皇の間に響き渡っていた。
上田「ちなみにこれ何話続けるんだ」
作者「3話完結なんで、本当の本編再開は1月8日です」




