カルト教義
「ああもう!」
「アアモウ!」
俺が後方で少女の守りに勤める一方、ミタガワも魔物たちも攻めあぐんでいた。
確かに俺の攻撃力は弱いが、それでも攻撃が当たらない以上どうにもならない。
犠牲者はこっちがゼロ、向こうは増える一方となれば誰だって士気を失う。
「上田!あんた情けないと思わないの!」
「思ってるよ、でも同時に頼もしいとも思ってるよ!」
「何よ、ずっとぼっち同然だったくせに!」
「過去の栄光を引きずるのかよ!」
そのはずなのに、魔物もミタガワもしつこい。
今こうしている間にも、現在進行形で魔物は減って行く。命だった物が俺の手で亡骸になり、残されるのは死体と武具だけ。あ、スケルトンってのは元から死体かってジョークはさておき、俺はもう立派な人殺しである。その過去を変えるにはもうタイムスリップでもして歴史改変でもするほかない。
「お前、どうしてあんな普通の高校に入学したんだよ!」
「うるさいわね!このクズぐうたら男!」
口論のまま、ミタガワは俺に向けて雷を落とす。また魔物が巻き込まれる。
その前方では俺たちに挟まれたスケルトンなどの魔物たちが攻撃を受け、次々と散っている。
トロベの槍、オユキの氷の剣、赤井の聖なる魔法に市村のパラディンの剣。
セブンスが操る俺たちに、倫子の爪とフットワーク。
そして大川の投げ技。
「平林!」
「はい!」
タイガーナイトを捕まえて一本背負いで投げ飛ばし、着地先にいた魔物を巻き込む。倫子はさっと退避し、その上で倒れ込んで来たタイガーナイトの頸動脈を切り裂いた。
見事な戦いぶりだ。
「そうやって仲間任せで自分の身を守る事にきゅうきゅうとして!」
「俺の仲間たちはみな強い。お前のそんな存在はいるのか」
「ヌギィィィィ!!」
ぼっちに仲間を誇られていると言うのに、まったく反省する事もなく歯嚙みしながら吹雪を起こす。
まったく何種類あるのかわからない攻撃魔法をいくらでもいくらでも繰り出し、俺の分身へと襲い掛かる。
「グエエエ!」
「まだまだぁ!」
多くの魔物だけを殺し、攻撃魔法を受けてなおエクシスが全てを顧みず突進する。そんな光景は何も変わっていない。
「ミタガワエリカ!自分が何やってるのかわかってるのか!」
「私はただ、ただ怠惰を貪るような存在を許せないだけ!」
「勝手にさせろ!このアホバカ女!」
「何がアホよ!何がバカよ!」
吹雪の力が強まる。次々と魔物が凍り付き、次の接触で砕けて行く。俺らと同じように残酷なまでに魔物を殺し、屍の山を築きながら息を荒げている。
まるっきり殺人狂の仕草だ。
「人間も魔物も同じ生き物だろうが!」
我ながらずいぶんと簡単に言ったもんだが、実際この場においてはその簡単な理屈がまかり通る。
「俺たちはこの世界で、ずっと生きて来た!」
「あんたらのは死んでないだけ!生きるってのは書を読み経験を積み、知を深め汗水たらして己が糧とする事!」
「自分が認めない奴は全部死人だって!?そんな恐ろしい奴の下で誰が暮らせるかよ!っつーかお前を止める奴は誰かいなかったのか!」
「いらないわよ、私と同じぐらい働けない奴は!」
稚拙だが強力な矛をもって敵を殺しに来るミタガワと、いくらでも薙ぎ払う気まんまんの俺。
魔法も剣もないのに、ある意味盛大な殴り合いをしている。
ぼっチート異能のせいでもないが、今の所優勢かもしれない。
「どうして……どうしておじいちゃんを!」
その戦いの中に、一人の少女が割り込んで来る。
持山から受け取ったらしい一本の槍を、空の上にいるミタガワに向けている。
「誰も、誰もお前なんかみたいになれない!それを、それを守るためにああしておじいちゃんは!みんなのために!」
本物のおじいちゃんの仇を目の前にして、さっき俺に襲い掛かった時以上の怒りと憎しみをあふれさせている。
「こんな子にまでんな事言われてるんだよ!お前は!!」
「まったく、あれは全部あなたたちのためなのに!」
「村人を殺して何が村のためだ!」
「怠惰は罪なの!自分たちの生活を脅かすその大敵に屈し、どんなに村の復興をさせても例の一つも言わずに怠けよう怠けようとするばかり!
あれは新たなる始まりなのよ!あのじいさんは、少しでも怠惰に走ればああなるんだと言う事をこの世界全てに示すために死んだのよ!」
「…………沈黙魔法もお前使えるのか?」
「悔しかったら!悲しかったら!その思いを怒りに変えて、立ち上がりなさい!!」
自分を絶対的存在だと信じてなければ、とても言えやしない。
「許せない…………許せない……許せない!」
派手に叫んだ後に漏れ出す憎しみの言葉。
あまりにも強烈な憎悪。ソーゴのそれに数百倍する憎悪が、暗くないはずの空に暗雲を立ち込めさせる。
「この……堕落教信者どもが!!」
わあ、すげえパワーワードだ。
自分で言ってる分には。




